小説「白は空色に染まる」最終話~白は空色と恋に染まる~

フーが試験会場に入って2時間…まめみ達は外で落ち着かない様子で待っていた。

よっちゃん「フー君、大丈夫かしら…私もう心配で心配で…!」

落ち着かずそわそわするよっちゃん

すると彼に変化が現れ、いつもはオレンジ色の髪が徐々に黄色に変わっていく…

心配のあまり気が昂ぶってしまい、髪の色が黄色に変わってしまったのだ。

まめみ「よっちゃん、髪の色が…!」

ポナ「髪が黄色になってるよ…!」

スルメさん「よっちゃん、気持ちは分かるけど落ち着いてや。」

よっちゃん「あらやだ…ごめんなさい…!」

スルメさんになだめられたよっちゃんは落ち着きを取り戻し、いつものオレンジ色に戻った。

ペコ「…………。」

みんながそわそわとする中…ペコは近くの椅子に手を組んで祈るように座っていた。

フーは大丈夫…必ず受かる

そう信じて疑わないペコだが、1つだけ…モヤモヤとするものがあった。

それはこのドキドキ感…

フーが無事に受かり警察官になれば、毎日練習場へお弁当を持って行き2人だけの時間を過ごす事も無くなる…

その事で、強い寂しさに近いものを感じるのだ。

スルメさん「もうしばらくかかりそうやな…アカン、一旦お店に戻らんと…。」

よっちゃん「そうね…段々お昼になるから、お客さんが来ちゃうわ…。」

まめお「俺も手伝うよ。」

スー「あたしも手伝うわ、ごめん…兄貴の事、お願い…!」

まめみ「うん、任せて!」

スルメさん「お昼の時間帯が終わったらすぐに向かうさかい。」

ポナ「うん、分かった。気をつけてね!」

まめお「ありがとな!」

そう言うとスルメさん達はお店へ戻った。

ペコ「……………。」

まめみ「ペコちゃん、フーさんは大丈夫だよ。」

ペコの様子を見て心配になったまめみが、ペコの傍に座って背中を撫でた。

ペコ「まめみ…。」

ポナ「そうだよ姉さん、フーは毎日ずっと練習をしてきたんだ…絶対に上手くいくよ。」

ペコ「ありがとう…でも…その事じゃないの…。」

まめみ「え…?」

ポナ「どういうこと…?」

ペコ「…モヤモヤしたものがあって…。」

そう言うとペコは自分の中にあるモヤモヤしたものを打ち明け、まめみとポナは真剣に話を聞いていた。

まめみ「ペコちゃん、それって…。」

ポナ「……………。」

姉さんは…やっぱりフーの事を…

………………………

ペコ「…分からないの…この気持ちが何なのか…。」

まめみ「ペコちゃん、それは…」

ポナ「…それが「恋」だよ、姉さん。」

まめみ「ポナ君…!」

ペコ「恋…これが…恋…なの…?」

ポナ「フーに対してドキドキする気持ち…今までの時間が終わる事に感じる寂しさ…それは姉さんがフーの事を好きだからだよ。」

ペコ「ポナ…。」

まめみ「…ポナ君の言う通りだよ、ペコちゃん。ポナ君とあたし…まめおとスーちゃんがお互いを大事に想い合う様に…ペコちゃんもフーさんの事を大事に大事に想ってる証拠だよ。」

ポナ「そしてそれは…フーも同じはずだよ。」

ペコ「え…?」

ポナ「フーが前に比べてよく笑うようになったのも、優しい表情が増えたのも…姉さんが傍にいたからじゃないかな。」

まめみ「フーさんもペコちゃんの事、大事に想ってるはずだよ。」

2人にそう告げられると、ペコの頬は赤く染まり…少し恥ずかしそうにモジモジしながら自分のゲソを触り始めた…。

ペコ「そ…そうなのかしら…。でも…この気持ちをどうすれば…。」

まめみ「ペコちゃんの気持ち、フーさんに伝えてあげよう。」

ポナ「フーもきっとそれを望んでると思うよ。」

ペコ「ポナ…まめみ…。」

まめみ「大丈夫、あたし達には分かるよ。」

ポナ「試験が終わったら、フーを一番最初に迎えてあげよう?」

ペコ「…えぇ。」

まだ頬は真っ赤に染まったままでいるものの、ペコの口元はうっすらと笑みを浮かべていた。

そして、そこから更に1時間後…フーが試験を終えて出てきた。

フー「……………。」

ペコ「フー…。」

フー「ただいま、ペコ…。」

ずっと気を張り詰めて試験に臨んでいた為、かなり疲れている様子のフーはそのままペコにもたれかかるように彼女を抱きしめた。

ペコ「お帰りなさい、フー…。」

彼女はそう言って、彼の背中に優しく手を回した。

その後まめみ達もフーを迎え、駆けつけたスルメさん達に支えられてお店へ戻った。

それから5日後…試験の結果が封筒で送られて来た。

みんなが固唾を飲んで見守る中…フーは緊張で震える手に力を入れつつ、封筒から結果が書かれた書類を取り出した。

フー「開くぞ…。」

そっと書類を開くと…そこに書かれていたのは………

フー殿の警察官試験の結果は

合格

よって貴方を警察官に任命する

と書かれていた。

ペコ「フー…!!」

フー「や…や…やったぞぉぉぉぉぉ!!」

珍しくガッツポーズをして大喜びするフーに、みんなからも歓喜の声が沸き上がった。

まめお「やったなフー兄!」

スー「おめでとう兄貴!」

スルメさん「よく頑張ったさかい!ホンマに偉いでフー!」

よっちゃん「本当にお疲れ様、そしておめでとうフーさん!」

まめみ「よかったねフーさん!」

ポナ「おめでとうフー!」

ペコ「フー、今まで本当にお疲れ様…合格おめでとう…!」

フー「ありがとう…みんな…本当にありがとうな…!」

そう言って目頭を押さえるフーの手を伝って、涙が零れ落ちた。

ペコは彼の傍に行き、ずっと背中を優しく撫で続けていた。

その後お店を臨時休業にしてお祝いパーティーを開き、みんなが盛り上がっている中、フーはペコを連れてそっと店を抜け出し、空き地に来た。

ここはいつもフーが3Kスコープの練習をする場所…そして、かつて泣いていたペコを抱きしめた場所…。

ペコ「どうしたの、フー?」

そこでフーは立ち止まり、ペコと向き合い口を開いた。

フー「ペコ…俺、警察官になったら伝えたいと決めてた事があるんだ。」

ペコ「伝えたい事…?」

フー「ペコ、俺は…俺はお前が…好きだ。」

ペコ「……………!」

驚いて茶色の瞳を見開くペコに、フーはさらに続けた。

フー「ペコがいてくれたから、支えてくれたから…俺はここまで頑張れた。これからも…これからもずっと、俺の傍にいて欲しい…。」

ペコ「フー…!」

嬉しさで胸がいっぱいになり、ペコは大粒の涙を流した。

フーはペコの傍へ来て親指で優しく彼女の涙を拭ったが、それでも涙は零れ続けて…しかしその頬は赤く染まり、口元は優しく笑っていて…

フー「ペコ…お前の気持ちは…?」

ペコ「私も…私もフーが好きよ。」

フー「ペコ…!」

ペコ「ずっと…ずっとフーの傍にいたいの…。」

フー「ペコ…大好きだ…!」

そう言ってフーはペコを力強く抱きしめた。

ペコ「ふふっ…フーったら…。」

まだ涙を流しているものの、ペコも嬉しそうに笑っていて…フーの背中に手を回して抱き返した。

お互いにしばらく抱きしめ合った後…フーは足下に置いていた小さな袋から、1つの小さな箱を取り出した。

フー「ペコへのプレゼントだ、開けてみてくれ。」

言われた通りに箱を開けると、そこには淡い青色の花の髪飾りが…。

ペコ「これは…勿忘草…?」

フー「あぁ、お前の白によく似合う色だと思って…。」

ペコ「勿忘草…花言葉は確か…」

「私を忘れないで」

「真実の愛」

フー「…今はまだ…花飾りしか贈れないけど…いつか必ず指輪も…な?」

ペコ「…ふふっ…待ってるわ。」

フーは返事を聞いて嬉しそうに笑い、髪飾りを手に取ると…ペコの左前髪に花飾りを留めた。

フー「…改めて言わせてくれ…ペコ、俺と結婚を前提に付き合ってくれ!」

ペコ「…はい!」

フー「ありがとうな…ペコ…!」

そう言うとフーはペコを抱き上げた。

ペコ「きゃっ…!」

最初は驚いたペコだったが、嬉しそうに笑っていて…まるで無邪気な子供の様だった。

そしてペコをゆっくりと降ろすとフーは顔を近づけて…

2人はゆっくりと瞳を閉じて…

優しいキスを交わした。

フー「…警察官になったら、あまり2人の時間が取れなくなる…けど、ペコの事をいつも想ってる。」

ペコ「…私もずっとフーを想ってるわ。毎日必ず…必ず無事に帰ってきてね…。」

フー「あぁ、約束する。」

緑色の瞳と茶色の瞳はお互いを映していて…その頬は真っ赤に染まりつつも幸せそうだった。

それを物陰からそっと覗いていたのは…ポナとまめみ。

まめみ「よかった…フーさんとペコちゃん、上手くいったみたいだね。」

ポナ「……………。」

まめみ「ポナ君…?あっ…ぽ…ポナ君…!」

ポナは突然2人の元へ歩き出してしまい、まめみは驚きつつもポナの後を追いかけた。

そしてポナは、2人の前で足を止めた。

ポナ「…フー…。」

ペコ「ポナ…まめみ…?」

フー「ポナ…。」

ポナ「……フー、俺の…俺のたった1人の大事な姉さんを…泣かせたりしたら許さないからな。」

そう話すポナのターコイズブルーの瞳は、フーの緑の瞳を強く捉えていた。

フー「…あぁ、そんな事は絶対にしない。ペコは俺が必ず守る!」

ポナ「姉さんを頼んだよ。」

フー「あぁ。」

そう言うと2人は笑顔で堅い握手を交わし、ポナはまめみを連れて先にお店に戻っていった。

ペコ「ポナったら…。」

フー「いい弟じゃないか。」

ペコ「えぇ…たった1人の大切な…自慢の弟よ。」

そう話すペコの表情はとても穏やかで…フーは目を細めた。

一方ポナとまめみは…

まめみ「いきなり歩き出したから、びっくりしちゃったよ…。」

ポナ「大事な姉さんを託すんだから…ここはちゃんと伝えておきたかったの。」

まめみ「ふふっ、ポナ君は本当にお姉ちゃん大好きっ子だね。」

ポナ「…今はまめみだけに夢中だよ。」

そう言うとポナはまめみの手首を掴んで抱き寄せた。

まめみ「ぽ…ポナ君…!」

ポナ「大好きだ…まめみ。」

そう言って…ポナはまめみに熱くも優しいキスをした。

まめみ「あたしも…大好きだよ。」

嬉しそうにはにかむ彼女を見て、ポナもまた優しく笑った。

その後もパーティーは盛り上がり、みんながフーの警察官合格を、そしてペコとの結婚を前提にした交際を祝った。

後日…警察官になり慌ただしい日々を送る様になったフー。

以前と比べてナワバリバトルに出れる事も少なくなったが…変わらなかったのは…

ペコ「はい、今日のお弁当よ。」

フー「ありがとうなペコ、行ってくる。」

ペコ「どういたしまして。行ってらっしゃい、フー。」

キスを交わすと、フーは警察官の帽子を被り、ペコの手作りのお弁当を持って職場へ出かけた。

ペコはフーの姿を見届けると、空を見上げた。

そこには綺麗な朝焼けがキラキラと輝き、まるで明るい未来を示しているかのようだった。

白は空色に染まる~Fin~

海賊ダイルです。小説を読んで頂いた皆様、本当にありがとうございます!

小説「白は空色に染まる」はこれにて完結しました。

「緑髪の少年(再会編)」「青と水色が混ざり合うと」から1年後のお話…いまだ進展の無かったフーとペコに視点を置いたお話はいかがだったでしょうか?

この2人はまめみ達とは違い…大人の落ち着いた恋愛…そんなイメージがあって、描写は割と控えめに書いたつもりです。

フーは好意を自覚していた一方で、ペコはそれに気づいていませんでした。そんな彼女の背中を後押ししたのがまめみとポナです。

まめおとスーの時もそうでしたが、この2人には人の心を大きく動かす力があるのかもしれないですね。

さて、再会編から2年後の間のお話はこれでおしまいとなります。

次回からはいよいよ本編の始まり…2年後のまめみ達のお話のスタートです!

ここまで読んで頂きありがとうございました!

2年後のお話…新たな舞台、ハイカラスクエアでまた会いましょう!

2017/10/1 海賊ダイル