オリジナル小説「揺れる心、伝えられぬ気持ち」

ガーリルが自分の叔父であったという事実とラクトの心の闇にスマラは動揺し心を痛める。

一方、目覚めたガーリルから語られ全てを知ったブルース達は、仇アンデット・クロンを倒す為に協力する事を約束し、共に闘う事になった。

その夜スマラはアクアの元を訪れたものの、部屋に彼女の姿は無く…

探して甲板への扉を開いた先にスマラを待っていたものは、叔父ガーリルとアクアが2人きりで居る姿だった…。

 

~揺れる恋心、伝えられぬ気持ち~

 

ブルース達はアンデット・クロンを倒す為、朝からずっと策を練り続け…ようやく案が纏まったのは昼過ぎであった。

その後ガーリルはセイレーン・ケイヴから脱出後初めて、ガーラスの元を訪ねた。

ガーラス「ガーリル様!よくぞ…よくぞご無事で!」

ガーリル「ガーラス、お前こそ無事で本当に良かった!あの時俺はお前を失ったと思った瞬間…目の前が真っ暗になった。頼む…俺を置いていかないでくれガーラス…!ずっと俺を支えて欲しい。」

ガーラス「…我が主君ガーリル様…私は生涯ずっと、貴方様のお傍に!例えどんな事があろうとも、貴方様を悲しませる様な事は絶対にしないと誓います。」

2人の表情はとても穏やかだった。

しばらくしてガーリルは真剣な顔つきになり、これまでの経緯をガーラスに話した。

ガーリル「65年間ずっと俺達で抱えていたが、それは間違っていたようだな…。今度こそ奴を永遠に葬り去る…それには1人の力では無理だ。今こそ王族が力を合わせなければならぬ時なんだ。」

ガーラス「…ガーリル様、よくぞ御決意されました。ブルース様達にお話されるだけでも相当の勇気がいった事でしょう…。絆は失われていなかった…そう考えるとこの65年は無駄では無かったのですね…。」

ガーリル「ガーラス、もう一度…俺に力を貸してくれるか?決して安全とは言えない、厳しい戦いになるだろう。それでも…もう一度力を貸してくれるか?」

ガーラス「ガーリル様、先程も申し上げたとおりです。私は生涯貴方様のお傍に…我が命に代えても貴方様をお守りする所存です!」

ガーリル「ガーラス、ありがとう。頼りにしているぞ。」

ガーラス「勿体なきお言葉…!」

2人が話をしている一方で、スマラはアクアの部屋を訪れていた。

アクア「話って一体何かしら?」

スマラ「………。」

アクア「スマラ?」

スマラ「アクア…いや、アクア王女。」

アクア「急にかしこまってどうしたの?いつもの様に接して…。」

スマラ「今、私は王家騎士としての立場でありながら、王女である貴女に無礼な質問をしようとしています。その事を許して頂きたく存じます。」

アクア「…分かりましたわ。私は大丈夫です。」

スマラ「ありがとうございます。では早速ですが…アクア王女は、その…ガーリル様に想いを寄せられてるのでしょうか…?」

アクア「えっ…!?それは…それは…。」

スマラ「…私の事はどう想っておられますか?」

アクア「スマラの事を…?」

スマラ「王家騎士としてでは無く、1人の男として…。」

アクア「そ、それは…そんな事を…聞くなん…て…。」

あまりにも唐突な質問に、アクアは困ってしまった。

それでもスマラはアクアに答えを求め続ける…。

スマラ「アクア答えてくれ!俺とガーリル様の事をどう思っているのか!」

焦るあまりにスマラはついアクアに強く迫ってしまい、どう答えて良いか分からずに怯えるアクアをよそに更に強く迫る。

しかし…次の瞬間スマラは後ろから誰かに腕を掴まれ引き離された!

ラクト「何をやっているんだスマラ!」

アクア「………っ………!」

そして彼女はその隙に部屋から出て行ってしまった。

スマラはアクアを追いかけようとするが、ラクトは腕を離さない。

スマラ「離してくれ父上!俺はアクアに聞かなければならないんだ!」

ラクト「だからといって無理に聞き出すのは良いことなのか!?」

スマラ「っ…だけどっ!」

ラクト「一体どうしたんだ、何をそんなに焦っている。まず落ち着いて話してみなさい。」

スマラ「…アクア王女は、ガーリルに気持ちが揺らいでいる…かもしれないんだ。俺は彼女の事が…好きだ。…誰にも渡したくない。」

ラクト「なら、素直に気持ちを伝えれば良いだろう?何故あんな事を。」

スマラ「伝えられないんだ…俺はアクアに気持ちを伝える事は出来ない…。」

ラクト「王家騎士隊長という仮の身分を気にしているのか?だがそれは…」

スマラ「違うんだ…俺は呪われている!この紅い目が…この力が消えぬ限り、俺は彼女に気持ちを伝える事は叶わないだろう。…もし力を押さえきれずに暴走してしまったら?アクアを傷つけてしまうのが…恐いんだ。」

ラクト「スマラ…お前ずっとそれで悩んで…!」

一方アクアは、広い船内を必死で逃げた。途中で誰ともすれ違うことはない…。

頭から離れないスマラの声…あの時の彼の目が…恐くて…

走っていたその時!

ドンッ!

ガーリル「おおっ!?驚いたな…どうした?」

アクア「嫌っ…スマラ離して!」

ガーリル「落ち着けアクア。俺だ、ガーリルだ。」

アクア「あっ…。」

荒い息づかいで顔を上げると、自分を受け止めて心配そうな表情をしたガーリルがいた。

アクアの体は今だに恐怖で震え…さっきまでは必死で逃げていたが…今は足も震えている。

ガーリル「大丈夫か?何があった?」

アクア「す…スマラ…が、私に…ガーリル…!!」

ガーリル「…すまない、今のお前に聞いたのは酷だったな。大丈夫だ、俺がいる。俺の部屋へ行こう、何か温かい飲み物を用意するよ。」

アクアが頷くとガーリルは身につけていたマントでアクアを包み込み、抱き上げて自室へと向かった。

アクア「(ガーリル…暖かい…。)」

聞こえてくるのは、ガーリルの鼓動…。感じるガーリルの温もりはとても暖かく、アクアを安心させた。そっと顔を上げると、見えてくるのはガーリルの綺麗な瞳…。

力強い腕はアクアの細い体をしっかりと抱き抱えていて…

彼女が軽いのもあるが…ガーリルは全く辛そうな様子一つ見せずに、しっかりした足取りで歩いていく。

歩く度に揺れる彼の黒髪の様に…アクアの心もまた、少しずつ揺れていくのであった…。

~To be continued…~