オリジナル小説「ガーリルの気持ち」

これまでの事を話し、更に絆を深めた主君ガーリルと王家親衛隊長ガーラス。

一方、叔父ガーラスへの焦りとアクアへ対する気持ちが募るあまりに、スマラはアクアにガーリルと自分への気持ちを無理矢理聞き出そうとして彼女を怖がらせてしまう。

父ラクトに止められ心境を語るスマラであったが、それはあまりにも辛すぎるものだった…。一方部屋から逃げてきたアクアとぶつかったガーリルは彼女に何があったのか聞くが、怯える彼女を見て落ち着かせる為に自室へと彼女を連れて行くのだった…。

 

~ガーリルの気持ち~

 

ガーリルの部屋に連れられたアクアは彼の眠るふかふかのベッドに下ろされ、温かい飲み物を用意してる間…ガーリルは何も聞かなかった。

それは彼なりの気遣いであった。

そして…

ガーリル「ほらホットミルクだ、落ち着くぞ。」

アクア「…ありがとう。…あ、蜂蜜が入ってる。」

ガーリル「蜂蜜大好きなんだってな?スノウから聞いた。」

そう言うとガーリルは優しい表情でアクアの頭を撫でた。

そして、スノウに聞いた話を語り出した。

アクアが幼き頃の事、最初は分からずに子育てに悪戦苦闘した事…色んな場所に行った事…セイレーン・ケイヴに向かうまでの事…。

アクア「スノウ…。」

ガーリル「アクア、お前は覚えていないようだが、お前が幼い頃俺はお前とよく会ってたんだぞ。」

アクア「えっ!?」

ガーリル「まだこんなに小さな赤ん坊でな、ハイハイが出来るようになってからはもう動き回って追いかけるのが大変だった。後はな、『がぁりゅる』って俺の名前を一生懸命呼んでたんだ。」

アクア「は…恥ずかしい…!」

懐かしそうに笑うガーリルに対して、アクアは顔を真っ赤にしていた。

ガーリル「少しは元気が出たようだな?」

アクア「あっ。ガーリル…ありがとう。」

ガーリル「どういたしまして。」

優しく笑う彼の笑顔に、アクアは心を奪われていた。

スマラに好意を寄せていたはずなのに…

でも、スマラには無い魅力がガーリルにはあった。落ち着いた大人の余裕は、更にアクアの気持ちを揺るがして…

気がつくと、ガーリルは心配そうな顔をしてアクアの顔を覗き込んでいた。

アクア「ど、どうしたの?」

ガーリル「いや、それは俺の台詞だ。真っ赤な顔してボーッと俺の顔見てるから…どうした?」

アクア「な、何でもないの!」

ガーリル「心配だ、熱でもあるのか?」

そう言うとガーリルは自分の額をアクアの額に当てた。アクアが驚いて暴れた為、2人はベッドに倒れ込んでしまった…が、体勢的にはガーリルがアクアを押し倒している状態になってしまった…。

アクア「あ、ガーリル…ごめんなさい。」

ガーリル「いや、俺こそ。お前が嫌がってるとは知らずに…すまない。」

アクア「ち、違うの!ドキドキしただけで…えっと……。」

そのまま黙り込んでしまった2人だが…その瞳はお互いを見つめていた。

ガーリル「アクア、俺は…敵討ちが終わったらミラージュアイランドへ…我が一族の国へ帰る。だが…できれば1人ではなく、2人で帰りたい……アクア、お前を連れて。」

アクア「えっ…!?」

ガーリル「昨夜言えなかった事を今言おう。俺は1人の男として、お前が好きだ。お前は他に好きな奴がいるようだが関係ない、そいつに引けをとらないつもりだ。もし全てが終わった時にお前が俺を受け入れてくれるなら…お前を妻として迎え、一生を添い遂げたい。」

アクア「ガーリル…!」

突然の告白(プロポーズ)にアクアは驚いた。ガーリルはアクアの額にそっとキスをしてゆっくりと起き上がり、アクアを優しく起こした。

その時ガーリルの部屋のドアを叩く音が。返事をした彼の声を聞き入ってきたのはラクトだった。

ラクト「ガーリル…アクア。」

アクア「私、失礼するわ。ありがとうガーリル。ごちそうさまでした。」

そう言うとアクアは部屋を出て行った。

ラクトはガーリルの隣に座り、少し心配そうな表情をした。

ガーリル「スマラは【呪い】のせいで身分を隠している。だからアクアだけがスマラの正体を知らないんだよな…。別に困ることでもないだろう。なぜ隠す必要があるんだ?」

ラクト「呪われているからこそなんだよ。スマラは呪いを解くまでは全てを隠す覚悟だ。もし本当の事を話したら…一族の者達やアクアを危険に遭わせてしまう。だからいつか必ず呪いを解き、その時に全てを話すというのが本人の強い意志だ。」

ガーリル「…スマラは、アクアに想いを寄せているんだな?」

ラクト「…互いに一目惚れの様であったが…スマラは呪いのせいでアクアを傷つけてしまう事を恐れ、想いを伝えられずに悩んでいる…。ただ…何も出来ずにいる自分が悔しくてな。」

ガーリル「兄上、俺は彼女に想いを伝えたよ。再会した時、あの幼いアクアはどこにもいなかった。目の前にいたのは…美しく成長したアクアの姿、一目見て俺は心を奪われた。全てが済んだら俺はあの娘を妻として迎え入れ生涯を共にしたい。例え我が甥であろうともアクアを渡すつもりは無い。」

ラクト「お前がどれだけ真剣かは分かっていたよ。だから何も言わない…ただ見守るだけだ。」

ガーリル「恋ってのは分からないもんだな。俺達の両親と同じような立場だもんな…今のスマラと俺は。1人の女を巡って対立している……でもな、兄上。アクアの事と…スマラの呪いの事は別関係だぞ。」

ラクト「それはどういう意味だ?」

ガーリル「スマラはな、俺にとって恋敵であり…大切なたった1人の甥っ子だ。あいつの呪いが解けて自由になれる方法があるなら、どんな事もするつもりだ!」

ラクト「ガーリル…。」

2人は顔を見合わせると、子供の頃の様に無邪気に笑った。

そして…ラクトは突然ガーリルの頭をクシャクシャになる程撫でた。

ガーリル「あっ兄上!どうしたんだよ突然!?」

ラクト「昔はこうしてよく撫でたなーって思ってな。お前は頭を撫でられるのが好きだったろ?…懐かしいな、こうして2人で昔話をするのも。」

ガーリル「兄上はいつも俺の事を可愛がってくれたよな。覚えてるか?母上とよく一緒に寝た事。色んな話を聞かせてくれた事。」

ラクト「もちろん覚えてるさ。いつも3人で一緒に風呂に入ってその後夜の散歩に連れて行ってくれて…。優しくて美しい人だったな…。」

ガーリル「兄上は…怒っているのか?俺が母上を…」

ラクト「言うなガーリル。私も皆もお前のせいだとは思っていない。母上はそんな事を望んじゃいない。だからもう自分を責めるな。母上の為にも仇を討ってこれからを生きるんだ!」

そう言うとラクトはガーリルを自分の所へ引き寄せ、強く抱きしめた。

兄上…ありがとう。聞こえてきたのはガーリルの涙声。

ラクトは何も言わず、抱きしめながら彼の頭を強く撫で続け…

ガーリルの目からは…大粒の涙が流れているのだった…。

~To be continued…~