バイト1「待て!」
バイト2「逃がさないわよ!」
ズドドドドドド…!!
ヘビ「くっ…!」
バイト3「くそっ…時間切れか…。」
バイト4「逃げ足速い奴だったわね~!」
ブツブツと文句を言いながら帰って行ったバイト達…
一方追いかけられていたヘビは何とか逃げ切れたものの、左ヒレの付け根に怪我をしていて…ズキズキする激しい痛みを我慢しながら自分で舐めて海の中へ消えて行った。
ある日1人でバイトに来ていたまめみ、少し不安はあったが一緒にやる事になったアルバイター達は優しくてじきに打ち解けた。
しかしそれは表向きの話で……
バイト1「まだまだ金イクラ稼げるぜ!」
バイト2「おら、さっさとよこせ!」
バイト3「タマヒロイ持ち逃げすんな!」
まめみ「(酷い…!)」
自分達と違って、ノルマを超えてもやりたい放題にシャケを攻撃して追い回す姿に、まめみは心を痛めた…。
何度メンバーを変えてもそれの連続で、まめみは今のバイトが終わったら知らない人とやるのはもうやめようと決意して船へ向かった…
~シェケナダム~
相変わらずやりたい放題のメンバーに嫌悪感を抱きつつ、まめみはノルマをクリアしてからは奥に引いていたが…1匹のヘビが現れた!
あの姿はこの前のヘビに間違いない
思い出して少し強張るまめみだったが、遠目に映る彼の姿はこの前と違う…
何やら苦しそうな様子で、少し弱っている様にさえも見えて…少し近づいてこっそり様子を伺うと、左ヒレの付け根に酷い怪我をしていた!
ヘビ「(くっ…傷が痛む…けどここでやられる訳には…!)」
まめみ「あのヘビ、それであんなに苦しそうなのね…。」
心配しながら様子を伺うまめみだったが…
バイト1「おい、あいつをやっちまおうぜ!」
バイト2「おら、金イクラよこせ!」
バイト3「動きがトロいな、これなら楽勝だぜ!」
まめみ「!!(大変…あのヘビが倒されちゃう…!)」
いてもたってもいられず、まめみは飛び出した!
ヘビ「!?(あの嬢ちゃんは…!)」
まめみ「このヘビはあたしに任せて、みんなは他のオオモノシャケをお願い!」
バイト「分かった、頼んだぜ!」
まめみ「あたしはこっちよ!」
ヘビ「(何のつもりだ…まぁいい…。)」
少し警戒しつつも、ヘビはまめみを追って狭い通路に入った。
するとまめみはその通路内で突然足を止め、自分の方を向いた。
まめみ「機械を止めて。」
ヘビ「!!(危ねぇ…このままじゃ轢いちまう。)」
情報を聞き出すまでは倒さない…そう決めていたヘビはまめみの前で機械を止めた。
まめみ「……………。」
するとまめみは自分の傍に駆け寄り、突然左ヒレをぐいっと掴んだ!
ヘビ「うぉっ!おいおい嬢ちゃんいきなり何す…」
まめみ「いいからヒレを見せて!」
ヘビ「!?っ…ぐうぅ…!」
まめみ「やっぱり、こんなに酷い怪我してる…!」
ヘビ「は…離せ…これくらいの傷は舐めてりゃ治る…」
まめみ「治るわけないでしょ!待ってて…これを貼ってあげるから。」
そう言うとまめみは作業着のポケットから大きめの絆創膏を取り出して、彼の傷の上から貼った。
ヘビ「……………。」
まめみ「とりあえず応急処置したけど…帰ったら必ず消毒してちゃんと手当してね。」
ヘビ「…どういうつもりだ嬢ちゃん、あっしはシャケ…お前さんはイカだ。あっしらは分かり合えない…それなのにどうしてあっしを助けた。」
彼の赤い瞳は鋭い視線をまめみに向けた
しかし彼女は微動だにせず、その桃色の瞳はまっすぐ自分の目を見つめていて…そしてゆっくりと口を開いた。
まめみ「イカだろうがシャケだろうが関係無い、種族同士分かり合えなくたって個人同士ではきっと分かり合える…それにそんなに酷い怪我をしているのを黙って見過ごすなんて、あたしには出来ないもの。」
ヘビ「…………!!」
この嬢ちゃん…何て真っ直ぐな目をしてるんだ…。
その時…彼の脳裏には「あるヘビ」の姿と…幼き頃の自分の事が思い出された。
まめみ「もうすぐバイトが終わるよ、あの人達が来る前に帰って。」
ヘビ「………お前さんが欲しいのはこれだろう?」
そう言うと、ヘビは機械の台座から金イクラを1つだけ取り出して、まめみに渡した。
まめみ「これは…。」
ヘビ「…あっし達にとって金イクラはすごく重要な代物だ、けどあっしを逃がした事がバレて嬢ちゃんが責められちまうのは癪だからな…それは礼だ、今回だけは特別だぞ。」
そう言うとヘビは操縦席に戻っていく…。
まめみ「ありがとう…あの…ヘビさん…。」
ヒュドラー「……あっしの名前は『ヒュドラー』だ、覚えて置いて貰えると助かるぜ、嬢ちゃん…じゃあな。」
そう言うとヒュドラーはそっと海の中へと消えて行った…。
まめみ「…ヒュドラーさん…。」
バイトが終わる直前まで、まめみは彼から渡された金イクラを大事に抱え…彼の消えた海を見ていた。
その日の夕方…
???「ダーリン酷い怪我だわ…すぐに手当を!」
ヒュドラー「あぁ、頼む。」
???「あら、この絆創膏は…?」
ヒュドラー「…とある変わり者のイカの嬢ちゃんが貼ってくれた。」
???「まぁ…!それじゃあ貴方が昔に話していた様な事が…?」
ヒュドラー「…かもしれないな。」
そう言ってパイプを咥え直したヒュドラーの表情は、どことなく嬉しそうな様子であった。
一方まめみは…
まめみ「美味しい、ドスコイまる?」
ドスコイまる「キュッ、キュッ!」
いつも通り卵焼きにかぶり付くドスコイまるを眺めつつ、彼女の脳裏にはヒュドラーの事が思い出されていた
彼の瞳はどこか寂しげで…何か深い事情がありそうだ…
彼とは話し合えば分かり合える気がする…まめみはぼんやりとしつつもそんな予感がするのだった…。
To be continued…