ガーリルから語られた真実…それは今まで誰も知らない彼の心の嘆きだった。
自分を責めるガーリルにスノウは心を痛める。
その時アンデット·クロンの力により、スノウ達は逃げ道を塞がれたものの、闇の牙とガーリルの力により脱出に成功する。力を使い果たしたガーリルは、スノウの腕の中で一時の眠りにつくのだった…。
~母の面影と兄の思い、語られた真実~
船はセイレーン·ケイヴに拠点を置き、ブルース達は疲れきった体を癒していた。
洞窟内での出来事が起こってから2日…ガーリルは時折うなされて苦しそうにするものの、
目を覚ますことなく眠り続けていた…。
そして3日目の夜…。
スノウ「何かあったら、すぐに言うんだぞ。」
アクア「分かったわ。」
頬におやすみのキスをしてスノウは自室へ戻り、アクアは水を絞ったタオルでガーリルの顔を拭いていた。
その後タオルを冷やしに一時部屋を離れ…しばらくして部屋に戻ってくると、ガーリルがまたうなされていた。
アクアは心配そうに彼の手を取り、強く握った。
一方、ガーリルは夢を見ていた。いつもと同じ夢を…。
夢の中の自分は、非力な子供。そして…あの時の封印の場所にいる。
すると…足下を誰かに捕まれた!実体を持たない者…何も出来ない自分はただ泣き叫び、助けを求めている。
しかし…周りには誰も居ない、誰も助けは来ない。
序々に体を引きずり込まれて行く自分。いつもはそこで目が覚めるのに、夢はまだ続く…。
もうダメだと思ったその時!どこからか声が聞こえてきた…。
『ガーリル…ガーリル。』
『誰…?』
『もう大丈夫よ。』
『母上!』
気がつくと自分を引きずり込もうとした者は居ない。
目の前にいるのは…優しい母エメラ。
ガーリルは母の元へと駆け寄って飛びつく。
母は優しく微笑みながら彼を抱きしめる。そして…。
『ガーリル、あなたは1人では無いわ。みんなが居てくれる、大丈夫よ…』
そう言うと、エメラはスゥッとガーリルの前から消えてしまった…。
驚いて辺りを見渡すガーリルの目の前に、今度は別の女性が…。
海色に輝く長い髪に…透き通るようなトパーズイエローの瞳。とても美しい暖かい女性。
その女性がこちらに差し伸べた手を取り、歩いて行った先には眩しい光が…
その光の向こうには…みんながいた。兄ラクトにスノウ、ブルース、マリン、ガーラス…みんな暖かい笑顔で自分を迎えてくれている。
そして夢は終わり…彼はゆっくりと目を開いた。
ガーリル「母…上?」
母の姿と錯覚したが…目の前に居たのはアクアだった。
アクア「気がついた?大丈夫?」
ガーリル「アクア?ここは、どこだ…?」
アクア「船の中よ。ガーリル、3日間も眠り続けていたの。」
ガーリル「3日…?…スノウは!?ガーラスは!?」
アクア「みんな無事よ、安心して。」
その言葉を聞いたガーリルはとても安心しきった表情になり、今まで鋭い表情しか見たことの無かったアクアは、その優しげな表情に少し驚いた。
ガーリル「アクア…お前ずっとここに居てくれたのか?」
アクア「ええ、そうよ。」
ガーリル「何故だ…何故俺を助けた?お前達にあんな酷い仕打ちをしたのに…。」
アクア「貴方が…心配だったから。」
その言葉に、ガーリルは胸が熱くなるのを感じた…。
みんな心配してくれていた。自分は1人ではない、と。
「ありがとう。」
彼の口からは素直に、自然とその言葉が出てきた。
その言葉を聞いたアクアはどういたしまして、と優しく微笑んで返した。
ガーリル「アクア…すまなかった。許して貰おうとは思っていない。だが、本当に酷いことを…。」
アクア「私は…怒っていないわ。ううん、私だけじゃない、みんな同じ気持ちよ。あなたが眠っている間、みんな心配して様子を見に来ていたわ。」
ガーリル「…俺は愚かだった。全てを1人で抱え込んで解決しようなどと…。明日、全てをみんなに話す。スノウに話したように…約束する。」
アクアが頷くとガーリルは優しく笑い、アクアの手をしっかりと握りながら再び眠りについた。
しばらく眠っている彼の様子を見ていたが、後にアクアも眠ってしまい…
ガーリルは彼女が傍にいる安心感の為か、その日はもう夢を見る事は無かった。
一方、甲板で1人手に持った写真を眺めているのはラクト。写真に写っているのは
幼き日の自分とガーリル、そして…母エメラの姿。
ラクト「母上…ガーリルを漸く見つけることが出来たよ。俺の大事な…たった1人の弟…。」
写真を服の胸ポケットに大事にしまうと、ラクトは月の光で輝く海を眺めた。
そして…ガーリルの事を考えていた。
ラクトの後をいつも追いかけてきたガーリル。かわいい弟。大切な、かけがえのない存在。
~(回想)幼き頃~
ガーリル『兄上ー!待ってー!』
ラクト『ガーリル!こっちだよ。』
息を切らしながら一生懸命兄の後を追うガーリル。
ラクトは彼が追いついてくるのを待っている。
ガーリル『兄上、もう夜だよ?どこへ連れてってくれるの?』
ラクト『着くまでのお楽しみだよ。おいで。』
ガーリルの手を取り、ラクトはお気に入りの場所へと彼を連れて行く。
そこは、綺麗な景色が見える場所。海は輝き、森は葉っぱが音楽を奏でる。
自然が生み出すハーモニーはとても心地よく落ち着く。
ガーリル『兄上、すっごく綺麗だね!』
喜ぶ彼の顔がとても可愛らしく、ラクトは嬉しそうな顔をする。
~(回想終)~
幼き頃の事を思い出して、思わず笑みがこぼれた。
するとそこへ誰かがラクトの元へやって来た。スマラである。
スマラ「父上。」
ラクト「スマラ…どうした?ここの所お前とロクに会話もしていなかったが…。」
スマラ「聞きたいことが…あるんだ。あの時…アクアが再会したときにガーリル様が現れた。その時、父上に向かって『兄上』と呼んでいた…。一体どういう事なんだ?」
ラクト「…お前には話したことがなかったな…スマラ。今、もしお前が全てを知っても大丈夫という覚悟があるなら話そう。ガーリルとの事を、私の事を。」
スマラ「俺は大丈夫だ。聞かせてくれ、父上。」
息子スマラの強い決意を確かめると…ラクトは全てを語る為、静かに深呼吸をし語り始めた。
ラクト「ガーリルは…私の弟。スマラ、お前の叔父だ。」
スマラ「叔父…!?でも、でもどうして…ネグロとダーク一族の王が兄弟だなんて…。」
ラクト「ガーリルと私は母が同じで父は違う。」
スマラ「異父…兄弟…なのか?」
ラクト「そうだ。話せば長くなるが…母エメラは、私の父で先王のヴァルツと愛し合っていた。しかし彼女はガーリルの父である先王ガルーダに見初められ、彼の妻となったが…その時、母は身籠もっていた…それが私だ。」
スマラ「そんな…そんな事が…!」
ラクト「ガルーダ王は父ヴァルツと母エメラの関係を知っていた…だから2人を責める事はせず、私の事もいつも快く歓迎してくれていた。だが、私はいつも心のどこかで後ろめたさがあった。何故結婚した後に我が父と関係を持ち自分を産んだのか…。私は望まれて生まれてきたのか。もし母上やガーリルはそのせいで嫌な思いをしていたら?そんな思いがいつも自分の中で燻っていた…。」
スマラ「父上…。」
ラクト「スマラ、これが全てだ…今まで話さないですまなかった…。ただ、これだけは聞きたい。お前は、私の息子で幸せか?この様な父でも慕ってくれるのか?」
スマラ「俺は父上の息子で嫌だと思った事は一度も無い。母上だって、俺と同じ気持ちだったはずだよ…父上がいるから俺は生まれた、俺の大事な父なんだ。」
ラクト「ありがとうスマラ…少し弱気になっていたようだが、もう大丈夫だ。…今日はもう遅い、明日も早いことだし休むとしよう。」
こうして2人は船内へと戻り、眠りについたのだった。
そして次の朝…ガーリルが目覚めた事により、王が全員揃っての話し合いになった。
ガーリルはもう何も恐れなかった、そして昨夜アクアに約束した通り全てを包み隠さず話した
幼きあの時の事。牙を奪った理由、そして…仇アンデット·クロンの事…
ブルース達は、ただ黙って聞いていた。
ガーリル「俺は本当に申し訳ない事をしたと思っている。どんな形でも償う覚悟だ。八つ裂きにされても構わん。それ程酷いことをしてしまったのだから…。」
ブルース「…確かにお前のした事は本来なら許される事では無い。だがな、俺達にとってはその事よりもお前が何も言わずに1人で抱え込んでいたことが辛い。俺達は…幼い頃からずっと一緒だったろ?何でも言ってくれよ。」
ラクト「お前は、これからどうするんだ?このままミラージュアイランドへ帰り今まで通りの生活を送るか、仇を討つか。」
ガーリル「俺は、仇を討ちたい…あの悪魔をこれ以上野放しにしておく訳には行かない。自分自身の為にも…俺達の…これからの未来の為にも!」
ラクト「答えは決まっているか…どうするブルース?俺はガーリルに協力するつもりだが…。」
スノウ「俺もラクトの意見に同感だ。」
ガーリル「スノウ、兄上!?何言って…」
スノウ「言ったろガーリル。俺達はずっと一緒だ!もうお前1人で背負う事は許さないぞ。」
ブルース「ガーリル、我が一族も共に闘おう。そして、必ず全員無事に…生きてミラージュアイランドに帰るんだ!それがお前の俺達へ対する償いだ。」
マリン「盛り上がるのは良いけど、我が一族の事も忘れないで頂戴。私も協力するわ!」
ガーリル「…我が一族への協力、心から感謝する!今一度俺に力を貸してくれ!」
こうして全ての一族が結束し、アンデット·クロンを倒すために動くのだった!
その日の夜…ガーリルはアクアを甲板へと呼び出した。
アクアが着いた時、ガーリルは星空を眺めていて、彼の黒髪は月の光で輝いている。
アクア「ごめんなさいガーリル、待ってしまったかしら?」
ガーリル「いや、大丈夫。」
彼はうっすら笑みを浮かべ、とても優しい表情でアクアを見つめている。
アクア「どうしたの?」
ガーリル「お前に感謝している。お前のお陰で俺は…ブルース達に全てを話すことが出来た。ありがとう、アクア。」
アクア「そんな、私は何も…。」
ガーリル「俺は…お前の事をもっと知りたい。」
アクア「えっ…?」
ガーリルは何も言わずにアクアにそっと近づき、彼女の手を取り…そして、優しい表情で彼女を見つめた
スマラに見つめられた時もそうだった、彼の瞳はとても綺麗で優しくて…そんな事を思いながら、アクアはガーリルの優しい瞳に魅入っていた…。
一方、アクアに用事があったスマラはアクアの部屋を訪ねたが、彼女は部屋に居なかった。
スマラ「どこに行ったんだ?あ…アルマ、アクアを見なかったか?」
アルマ「さっき甲板の方へと歩いていくのを見かけたが…。」
スマラ「ありがとう。」
何も知らないスマラは甲板へと向かって行き…
一方、ガーリルとアクアはお互いに無言のまま見つめ合っていた。
が、その沈黙を破ったのはガーリルだった
ガーリル「アクア…お前は今、想いを寄せている者はいるのか?」
アクア「えっ…わっ私は…。」
突然その様な事を聞かれたアクアは口籠もってしまった
しかし想い人がいるのか、その頬は赤く染まっている。
ガーリル「アクア、俺は…」
スマラ「アク…ア…」
扉の先でスマラが見た光景、それはガーリルとアクアが見つめ合う姿だった。
2人に気付かれないうちにスマラはすぐに扉を閉めた。
しかし…ガーリルには気付かれていた様で、彼は扉の方を見ている。
アクア「ガーリル…どうしたの?」
ガーリル「いや、何でもない。…今日はもう休もう。」
アクア「えっ、でも話は…?」
ガーリル「また今度の機会にとっておく。」
そう言って、ガーリルはアクアを連れて船室へと戻っていった。
スマラは影に潜んで姿を隠していた為鉢合わせは免れたものの、2人が去った後に甲板に出て、その場に座り込んでしまった。
スマラ「…ガーリル、アクアに何を…!」
その表情は動揺を隠しきれない複雑なもので、彼の心の中には炎の様な熱い感情が渦巻いていた…。
~To be continued…~