あの一件から1ヶ月…
ルイ『…っ……!!』
体の方は回復したものの、彼の心の傷は深くて…
エン『ルイ…!』
ルイ『エン…ごめんっ…僕…!』
エン『まだ無理は禁物です、部屋へ戻りましょう。』
今のルイにとってはイカガールはおろか、タコガールでさえも激しい動悸を引き起こす要因になっていた。
一方で、タコワサとツネがルイの事で話し合っていて…
タコワサ『…やはりまだ時間はかかるか……。』
ツネ『…エンがルイの治療をしつつ、僕のサポートにも回ってくれている。けどこれ以上負担をかけたくない……お爺様、前に話した副隊長の件だけど…。』
タコワサ『…誰か候補がいるのだな?』
ツネ『うん、その候補は…』
その候補の名前を聞いて少し驚いたタコワサだが…ツネの強い決意を込めた黄色の瞳を見て、正式にざくろを任命する事に決まった。
タコワサ『時には危険な任務もあるが、ツネを助けて共に軍を纏めていって欲しい…頼んだぞざくろ。』
ざくろ『はい…ツネのサポート、そして将軍を護衛する役目を今まで以上に気を引き締めて遂行する事を誓います。』
ツネ『よろしくね、ざくろ。』
ざくろ『うん、任せてツネ。』
そう話すツネとざくろは穏やかな笑顔で、それを見ていたタコワサも優しく笑うのだった。
夕方…
ルイ『エン…?』
エン『すぅ…すぅ…。』
落ち着きを取り戻したルイがエンを訪ねると、疲労が溜まっていたエンはソファで眠ってしまっていて…
起こすのは申し訳ない、少しでも休んでいて欲しい…そう思ったルイは起こさずにそっと台所へ行き、飲み物の準備をした
コップにジュースを一杯注いで飲み、エンの居る場所へ戻ったが…特にする事も無くて困ってしまった…
何か読んでみようかな…主に専門書だらけだが、何か面白い本があるかもしれないと思ったルイは本棚を見ていたが…
一冊の本から白い紙の様な物がはみ出ているのに気がついた。
ルイ『(何だろうこれ…メモかな?)』
エン『すぅ…すぅ…。』
本棚を物色していても全く気づく事無く眠っているエンに、ルイは申し訳なさを感じつつも興味の方が勝ってしまい…そっと本を取り出して開いた
すると…ハラリと落ちてしまい、慌てて拾い上げたルイだったが…
それは一通の手紙だった。
ルイ『手紙…誰のだろう…?』
封筒に何か書いていないか見たルイだったが、裏返した時に書かれていた文字に胸がドクンと大きく揺れた…
見慣れた綺麗な字…そして書かれていた文字は…
『ルイへ』
それは自分に宛てて書かれていた…そしてその字の主は…アミ!!
ドクン…ドクン…!!
激しい動悸と息切れで過呼吸を起こしているルイ…
目の前はグラグラしていて…激しい混乱が自分を襲う…
しかし…激しく震える手はそれでも封筒から手紙を取り出し…そっと開いてしまった
そこに書かれていたのは……
【ルイへ】
この手紙を読む頃、きっとわたしはもうルイの傍には居ないと思う
ルイも知ってる通り、わたしは生まれつき体がとても弱かった…
そして…この命は長くはなかったの
ずっと黙っていてごめんなさい…でもわたし、ルイを騙したりするつもりは無かった…
生まれてからずっといつも1人で外を見ていた…遠くには行けなかったわたしを、ルイはたくさん遠くへ連れて行ってくれた…たくさんの景色と思い出、ドキドキをわたしにくれたの
一緒にいて本当に楽しくて安心して…わたし、いつの間にかあなたに恋をしていたわ
自分の命が長くないのは分かっているけど、最後に大好きなルイといられてよかった
ルイと素敵な景色を見れて幸せだった
ありがとう、ルイ
【アミより】
震える手はしっかりと手紙を握りしめていて…
その白い瞳からは大粒の涙が溢れてきて視界を奪っていく…
ガタンッ!!
エン『んっ………ルイ!?』
大きくよろけて本棚にぶつかったルイ、その物音でエンが目を覚まして慌てて駆け寄った。
ルイ『エン…エ…ン……っ……!!』
エン『ルイ、何が………その手紙は………!!』
ルイ『エン…どうして君がこの手紙を…!?』
エン『…ルイ…!』
ルイ『教えてくれ、エン…どうしてなんだ…!!』
エン『……あの一件の後、どうしてルイがこうなったのかを調べた時に、ツネがアミさんのご両親から預かってきたんです…彼女のご両親は遠くへ越す事になり、家も取り壊されるとの事でした…。』
ルイ『そう…だったのか……アミ………!』
エン『ルイ…アミさんは……。』
ルイ『分かってる…アミは…僕は…僕はアミと…想いは同じだった……知っていれば最後だって…一緒に……。』
エン『ルイ…!』
ルイ『…もうしばらく…もうしばらく時間が欲しい…アミをちゃんと送り出してあげる為の時間が……。』
エン『えぇ…どれだけかかっても大丈夫です…私は貴方の傍にいますよ…。』
ルイ『ありがとう…エン…!』
そう話してエンにしがみついて泣くルイは、今までの様に恐怖に怯えた様子では無くて…
少しだけ事実を受け入れ、ほんの少しだけ落ち着いた表情で閉じた瞳からは、涙が零れ続けるのだった。
夜…ルイは夢を見ていた
アミと過ごしたあの楽しかった日々を…
すると…辺りの景色は白くふわふわした雲の様な世界に変わり…アミの体は透けていて…
アミ「ルイ…ありがとう、わたし幸せだったよ。」
ルイ「アミ…嫌だ…アミ…行かないでくれ…!」
アミ「…ルイ、わたしはルイの目の前にはいれないけれど…いつも、ルイの心の中にいるよ。」
ルイ「僕の…心の…中…?」
アミ「うん、私はルイの心の中で…ずっとルイを見守ってるよ。」
ルイ「アミ…!」
アミ「大好きよ、ルイ…わたしの分もいっぱい幸せになって。」
そう言ってアミは暖かい光に包まれて消えてしまい…
ハッと目が覚めると、自分の部屋の天井が視界に入ってきて…
ルイ『アミ…会いに来てくれたんだね…。』
彼の白い瞳からは大粒の涙が止めどなく零れ落ちて…
胸はぎゅっと苦しいと同時に、少しだけ暖かくも感じていた。
To be continued…