ツネが決意を固めたのと同じ頃、まめみの家ではざくろが部屋から海を眺めていた
ざくろ「ツネ…。」
幼い頃からずっと兄の様に慕ってきた…共に成長し、いつしかその感情は1人の男性として意識する様になっていた
しかし、彼の瞳には自分は映っていない…
昔、1ヶ月程地上に滞在していた時に出会った同族の女の子…まめみに出会って以来、ツネはずっとまめみの事を一途に想い続けていた
絶対に届く事の無い片想い、それでも傍に居られれば…そう思っていたのに…
ポロッ…彼女の頬を伝って涙が零れ落ちた
すると、まめみが部屋にお菓子と飲み物を持って入ってきた
まめみ「ざくろちゃん。」
ざくろ「まめみ…まめみは大丈夫って言ってくれたけど…それでも…ごめんね…。」
まめみ「謝らないで、ざくろちゃん何も悪い事してないもの。」
ざくろ「まめみ…ありがとう…。」
まめみ「どういたしまして。」
そう言って優しい笑顔を向けるまめみは暖かくて…ざくろは安心感に包まれたと同時に、浮かんだ疑問を正直にぶつけた
ざくろ「まめみは…どうしてタキを好きになったの?」
まめみ「えっ…?」
ざくろ「タキは優しくて強い…深海の実験施設でも…あたしを助けて…イカの言葉を教えてくれた…ずっと守ってくれた…。」
まめみ「…そういう所に惹かれた…かな、出会ったあの時も…あたしを助けてくれたの。」
ざくろ「出会った…あの時…?」
まめみ「うん。」
そう言うと、まめみはざくろにタキとの出会いを教えてくれた
2年前のあの日、モンガラキャンプ場で自分を助けながらハイドラントで戦う姿…それに憧れて再び出会える事を願いながら自身もハイドラントを選び極めた事…そして再びモンガラキャンプ場で助けられて仲良くなった春…
夏に起きた悪夢の出来事…それから苦しみの日々を過ごした秋…
その闇から救ってくれたタキ…彼の告白をきっかけに自分の気持ちに徐々に気づいていき、冬に結ばれ…
事故で記憶を失ったタキを支え、彼の記憶が戻り…よりお互いの絆、想いが深まっていった事…
全てをざくろに話してくれた
ざくろ「そんな事が……それでもまめみがその明るさと笑顔を見せられるのは…タキが命懸けで守って取り戻してくれたからなんだね。」
まめみ「うん。」
お互いの首から下げられているペンダントも、その2年間の軌跡なんだ…ざくろは話を聞きながらそう思った。
ざくろ「…あたし…子供の頃からずっとツネを…でもツネはまめみを…。」
まめみ「ざくろちゃん…。」
ざくろ「あたし、まめみもタキも大好きだから2人には幸せになって欲しいって思ってる…でもツネにつらい思いをして欲しくないって気持ちもあって…それで…っ……!」
まめみ「ざくろちゃん…今までずっと1人でそれを抱えて…!」
ざくろ「あたし…わがままだよね…ツネは最初からあたしを異性として意識してないのに……。」
まめみ「……あたしはその事でざくろちゃんに苦しんで欲しくない。」
ざくろ「まめみ…?」
まめみ「どんなに時間がかかってもいい、自分の気持ちに正直になって欲しいの…誰かの為に自分の気持ちを封じて苦しむんじゃなくて、それをちゃんと形にして…でないと絶対に後悔しちゃう。」
ざくろ「まめみ…でもあたし…。」
まめみ「もしそれをツっくんに伝えて…例え叶わなかったとしても…ざくろちゃんはそれでツっくんを嫌いになったり離れちゃう?」
ざくろ「…ううん、そんな事しない…したくない…!だってあたし…ツネが…ツネが大好きだから…!」
まめみ「その気持ちがあれば大丈夫だよ、ざくろちゃん。」
ざくろ「あっ…。」
まめみ「焦らなくていいの、ゆっくりね。」
ざくろ「まめみ…本当にありがとう。」
まめみ「ふふっ、どういたしまして。」
自分の気持ちを改めて自覚したざくろは笑顔で、まめみも満面の笑みで返した。
ツネが地下で決意を固めた様に、ざくろもまた…自分の気持ちに向き合おうと決意するのだった。
夕方、地上へ戻ったツネは夕飯の買い物を終えて家に向かっていた。
ツネ「(1人だし、軽食で済まそう。)」
地上に来た頃は一人暮らしだったので軽めの食事で済ませる事もあった。しかしざくろも一緒に暮らし始めてからはしっかりと作る事も増え、家事を分担する様になってからは、彼女が作ってくれる料理も密かな楽しみになっていて…
…こんなにも寂しく感じる日が来るなんて…ツネは自分自身の抱く感情を素直に受け入れ、同時に己の鈍さに少し呆れてしまった。
そんな事を思いながら歩いていたツネだが、帰り道にある雑貨屋に置いてあった制作キットがふと目に入った
それは様々な色の糸を編んで作るお守りで、どうやら足首に付けるらしい
それはざくろと同じ綺麗な石榴色で…じっと見ていたツネは、それを手に取り購入して家に帰った。
それから数分後…
ざくろ「遅くなっちゃった、急いで帰らなきゃ。」
クマサン商会のバイトを終えたざくろが家へ急いでいると、先程ツネが寄って行った雑貨屋に置いてあった製作キットに目がとまった
中に入っている糸はツネと同じ色合いの美しい銀色で、ざくろはそれを手に取ってじっと見つめていて…気がつくとそれを購入していた
そして家に帰った後に晩ご飯をまめお、まめみと一緒に作って済ませ…ざくろはキットの説明を読みながら糸を編み始めたのだった。
数時間後…
まめみ「ざくろちゃん、そろそろ休もう?」
ざくろ「まめみ…でも…もう少しだけ…。」
まめみ「でも根詰めちゃうと、体調崩しちゃうよ。」
ざくろ「ん…分かった…。」
強い眠気と戦いながら作るざくろを心配して声をかけたまめみ
彼女の説得もあって、ざくろは今日の所はゆっくり休む事にしたが…ぐっすりと眠る彼女の枕元には、編みかけの糸が大事に置かれていた。
To be continued…