陽が沈み、星空が見え始めたシャケト場の空を眺めるザンナ…ジェレラが居なくなってから2週間、ポラリスで彼女らしきシャケを見たという情報もあったが、先日の一件で警戒が強まっており確認する事も叶わないまま時間だけが過ぎ…木々が色づき秋本番になってきた最近、番のシャケ達は繁殖期を迎えていた。
そんな中…
ザンナ「…ジェレラ…。」
ジェレラがポラリスの出身だと聞いた時は驚いたが、何よりも彼女が居なくなってしまった寂しさが大きくて…海をじっと眺める彼の変化は心だけでは無く、喉元も赤く染まっていて…
それは即ち、ザンナが「恋」をしている事を示していた。
今まで番を作らずに生きてきた自分にとってこの変化は戸惑いもあり、とぐろ達もそんなザンナにどう声をかけていいものかと悩んでいると…おシャケさまが声をかけた。
おシャケさま「ザンナ、ちょっといいかい?」
ザンナ「はい。」
誰も居ない場所に移動して、おシャケさまが口を開いた
おシャケさま「喉元が赤くなっている、お前にも気になる相手が出来たのだね。」
ザンナ「おシャケさま、俺は今までその様な相手は必要無いと思っていました……ジェレラを見ていると守りたいと強く思う、視線はいつも彼女を追っていて心配で堪らない…今も会えないのがとても寂しいと…この思いは…?」
おシャケさま「それこそが「恋」だよザンナ、お前はジェレラを心から愛しているのだね。」
ザンナ「湧き上がる熱いこの想い…これが恋…。」
おシャケさま「昔のお前は仲間を大事に思うあまり、憎しみに囚われた一匹狼の様な一面があったが…とぐろとの一件以来、大きく変わったよ。正しい意味で仲間を大切にし、まめみちゃん達とも打ち解けた…そして、誰かを愛する心も覚えたのだよ。」
ザンナ「おシャケさま…俺はジェレラを愛している、彼女を必ず連れ戻します…例えどんなに時間がかかっても。」
おシャケさま「お前の気持ちが痛いほど伝わってくるよザンナ、皆と協力して必ずジェレラを連れ戻そうね。」
そう言っておシャケさまは優しく笑ってザンナの背中を撫で、ザンナは深々と頭を下げつつ、その心はとても暖かく穏やかだった。
同じ頃…
ツネ「ごちそう様、それじゃあ僕はこれで…。」
アイカ「うん、気をつけてね。」
コーヒーを飲み終えたツネが帰ろうとしたが…
ぐらっ…
ツネ「アイカ!」
突然アイカが倒れ、ツネがすぐに受け止めたが…
アイカ「うっ…はぁ…はぁ…!」
ツネ「胸が苦しいのかい!?」
胸を押さえて苦しそうな彼女の様子に、ツネはすごく心配していて…
アイカ「薬…テーブルにある薬…を…!」
ツネ「これだね!」
アイカをソファにそっと寝かせ、ツネはすぐに水と薬を持ってきて、それらを飲むとじきにアイカは落ち着いてきた。
アイカ「ありがとう、ごめんねツネ君…。」
ツネ「僕は大丈夫だよ、それよりもアイカ、さっきの薬は…?」
アイカ「私、心臓が悪いの…お婆ちゃんが残してくれた秘伝の薬を飲んで発作を抑えてる状態で…。」
ツネ「そうのなのか…とにかく今日は安静にしてて欲しい。アイカさえよければ今日は泊まらせてくれないか…君が心配なんだ…。」
そう話すツネの黄色い瞳はアイカの赤い瞳をじっと見ていて…不思議な気持ちになってくる。
アイカ「うん…居てくれると嬉しい…ありがとうツネ君…。」
そう言うとアイカは優しく笑って、ツネが手を握っている中…じきに眠りについた。
翌日…アイカの様子が安定しているのを見届けて、ツネは家に戻ったが…
ざくろ「お帰りツネ…一体どこに…。」
ツネ「ごめん…アイカの所に泊めて貰ったんだ。」
ざくろ「…そう…なの…。」
どうしてアイカの家に…ツネはどうしてアイカをそんなに気にかけているのだろう…ざくろの心境は複雑で、その瞳は寂しげに揺れている…
そしてそれを見たツネはゆっくりと歩いてきて、ざくろの頬に手を添えた。
ツネ「…妬いてくれるのかい?」
ざくろ「…ツネ…。」
ツネ「アイカにそういう気持ちは一切無いよ、ただ彼女の事が何故か気になるんだ……それに昨日、家で見たあの写真の人物も…。」
ざくろ「写真の人物…?」
ツネ「彼女の祖母だという女性だよ、後でお爺様に話しておこうと思う……けど、まずは君への愛をもう一度分からせないとね。」
そう言ってツネはざくろを抱きしめながら背中に手を回し、服の中に手を入れて背中を撫で回しつつ首筋を甘噛みして…
ざくろ「ツ…ネ…んっ…ツ…ネぇ……。」
ツネ「もっと聞かせて…。」
ざくろを抱き上げて寝室に消えた2人は、熱い愛の時間を過ごし…結局2人が地下へ戻ったのは夕方だった。
ざくろ『ツネったら…お昼過ぎまでずっと離してくれないんだもん…。』
ツネ『ざくろが嫉妬してくれたんだ…その分しっかりと誤解を解いて君に分かって欲しかったのさ、僕が君をどれだけ愛してるかね。』
ざくろの耳元でそれを囁くツネに、ざくろは頬を真っ赤にしていて…でも優しく笑うとツネと口づけを交わし、タコワサに会う前にエンの部屋へ向かった。
ツネがイカスマホの画面を見せると、そこにはアイカと家族の写真が写っていて…
ざくろ「ツネ、これは…!」
エン『どうしてこの方がアイカさんと…?』
ツネ『アイカは「お祖母ちゃん」だと言っていた…詳しくは僕も分からないが、家族ぐるみの付き合いをしていた他人という事なのか何か秘密があるのか…いずれにしろお爺様が何かしら知っているだろうと思ったんだ。そしてもう1つ…この薬を見て欲しい。』
そう言うと、ツネはアイカの飲んでいた薬の写真をエンに見せた。
エン『これはオクタリアンの技術で作られた発作止めの薬ですね…アイカさんがこれを?』
ツネ『アイカは心臓が悪いらしい…昨日も酷い発作を起こしてこれを飲んでいた。』
エン『そうでしたか…しかしこれはあくまでも発作を抑える為だけの物、完治させるには手術をするしか…。』
ツネ『そうか………ありがとうエン、それじゃあ僕はお爺様に聞いてくるよ。』
そう言うとツネは部屋を出て行き…
ざくろ『エン、手術ってどんな事をするの?』
エン『細胞から新たな心臓を作り出して移植するんです、けれど問題はアイカさん自身が耐えられるかですね…。』
ざくろ『アイカは病院にかかってるのかな、でもこの薬を飲んでるって事は主治医が居ないのかも…。』
エン『可能性はありますね、これ以上酷くなる前に手を打てるといいのですが…。』
そう話す2人は、アイカの事を心から心配するのだった。
一方でタコワサの元に着いたツネは、ポケットからイカスマホを取り出して画面を見せた。
タコワサ『これは…!?』
ツネ『アイカの家で見つけたんだ、彼女はお祖母ちゃんだと言っていた…。』
タコワサ『という事は地上で…。』
ツネ『お爺様、この人について詳しく教えて欲しい。』
タコワサ『…分かった、ワシが知る限りの事を全て話そう。』
そう言うとタコワサは、その人物について全てをツネに話した。
ツネ『という事は…アイカは…』
タコワサ『そういう事になるな…地上で新たな伴侶を見つけた事は聞いていたが…。』
ツネ『お爺様…。』
タコワサ『この件についてはあいつには申し訳無かった………ツネ、そのアイカという娘…ワシにも会わせて貰えぬか?』
ツネ『うん、僕も同じ事を考えていたよ。アイカにこの事を話して、時期を見てお爺様にも会わせたい。』
タコワサ『ありがとうなツネ…。』
ツネ『どういたしまして、それじゃあ早速アイカに伝えてくるよ。』
そう言うとツネはタコワサと抱き合い、ざくろと共に地上へ戻り、もう遅かったので明日に会いに行く事にしたツネは、そのまま自宅に向かうのだった。
To be continued…