ある夜、ザンナはジェレラと共にポラリスへ向かっていた
ザンナ「まさかこんな場所に隠し通路があったとはな。」
ジェレラ「叔父様が作ったんです、ここは私と叔父様以外は誰も知りません。」
そんな話をしながらじきに到着し、2匹が奥へ向かうと…
ルゴス「ゴホッ…ジェレラか…?」
そこには年老いたタワー「ルゴス」が居た。
ジェレラ「ただいま戻りました…叔父様、戻って来て早々ですが聞いて頂きたいお話があります。」
ルゴス「どうした?」
ゆっくりと体を起こしながら訪ねるルゴスに、ジェレラは青い瞳を彼に真っ直ぐ向けて口を開いた。
ジェレラ「おシャケさまから叔父様に、シャケト場へ戻って来て欲しいとのお言葉がありました。」
ルゴス「何と…おシャケさまから…!?」
ジェレラ「はい…叔父様の体を考えて、一刻も早くシャケト場へとお考えです。」
ルゴス「そうであったか……だがワシは………ん、何やら別の匂いがするが…お前の他にも誰かおるのか?」
ジェレラ「はい…実は私、番になりました。」
ルゴス「な、何と!!」
ジェレラ「ご報告が遅れてしまってごめんなさい…。」
年老いてから生まれた可愛い姪…両親亡き後は自分が親となり育ててきた
美しく気立ても良い、自身にとって自慢の娘…
そんなジェレラが番に…何と感慨深いものだろうか
ルゴス「そうか…お前も番になったか、して…その相手は誰なのだね?」
寂しさもあるが、何よりも彼女の幸せが一番…心から祝福しようと決意したルゴスだったが…
ザンナ「初めましてルゴス殿…ザンナです。」
ルゴス「お……お前は…隻眼ザンナ!!」
噂には聞いていたが…まさかあの凶暴な事で名の知れていたザンナがジェレラの番だなんて!
ルゴスは後ろから鈍器で殴られた様な衝撃を受けた…。
ザンナ「色々とありましたが、ジェレラと共に幸せな家庭を築こうと…」
ルゴス「認めん。」
そう言ったザンナだったが、その言葉をルゴスが遮った
ザンナ「えっ…?」
ジェレラ「叔父様…?」
ルゴス「ジェレラ、お前にはもっとふさわしい相手がいるはずだ…よりによって隻眼ザンナと番など…ワシは認めんぞ!!」
ジェレラ「そんな…叔父様!」
ザンナ「俺のよくない噂が流れているのは重々承知している…だがもうあの頃の俺とは違う、おシャケさまも認めて下さ…」
ルゴス「黙れ!」
ブシャーーーーー!!
ルゴスは怒りながらザンナの言葉を遮り、思いっきり息を吸うと…彼の顔に向かって勢いよくインクを噴射した。
ザンナ「ぐっ…うあぁ…!!」
ジェレラ「ザンナさん!!」
ルゴス「帰れ、ワシは絶対に認めんぞ!」
そう言うと、ルゴスは海の中へ潜って消えてしまい…
ジェレラ「叔父様!!」
ザンナ「いいんだジェレラ…今までの俺がしてきた事だ、仕方が無い。」
ジェレラ「そんな…ザンナさん…!」
ザンナ「今はすぐには分かってもらえないだろう…でも俺は諦めない、毎日でもここへ通って認めてもらうまでだ。」
そう言うと、ザンナは心配で泣きそうになっているジェレラの頬を舐めて擦り寄った。
それからというもの…毎日ザンナは単身ポラリスへ向かってはルゴスに説得を試みたが…
ルゴス「何度来ても同じだ、ワシは絶対に認めないぞ!」
ブシャーーーーー!!
ザンナ「ぐっ…うっ…!」
ルゴス「ジェレラはワシのたった1匹の大切な娘、お前の様な荒くれ者にくれてたまるか!」
そう言い残して、ルゴスは今日も海の中へ消えてしまい…
ザンナはふぅ…とため息を吐いたものの、その赤い瞳に宿る決意は決して揺らぐ事は無く…
高圧のインクを吹きかけられ続けても、ザンナは変わらず毎日ルゴスの元へ通い続けた。
そして1週間後…
この日はジェレラと共に、再びルゴスの元へ行ったが…
ルゴス「お前もしつこいぞ、いい加減ジェレラから身を引くんだ。」
ザンナ「俺は諦めない、ジェレラと共に生きていくと決意した…それを譲る気は無い。」
ルゴス「ジェレラはワシの大切な娘…お前に渡す訳にはいかぬ!ジェレラ、ワシがもっとふさわしい相手を見つけてやる…だからこいつはやめて…」
ザンナ「いい加減にしろ!」
ルゴス「なっ…!?」
ジェレラ「ザンナさん…!」
ザンナ「ジェレラはあんたの物では無い、彼女自身が生き方を決めるんだ…ふさわしい相手を見つけると言ったが、それは本当にジェレラが幸せになれるのか?」
ルゴス「そ…それは……。」
ザンナ「ジェレラの意思で俺を選んでくれた…俺もジェレラを心から愛している、だから共に生きると約束して番になったんだ。幸せを願うと言いつつ、あんたのやってる事は彼女を苦しめているんじゃないのか?」
ルゴス「……………!!」
自分を見つめるザンナの鋭く赤い瞳…しかしそこにはジェレラに対する深い愛情が見えていて…
彼の言っている事は正論で…ルゴスが言い返せずにいると、今度はジェレラが口を開いた。
ジェレラ「叔父様が私をいつも大切にして下さっているのは分かってます、けど…番の相手は私自身で決めたい。そしてそれはザンナさん…彼だけなんです。」
ルゴス「ジェレラ…!」
ポラリスに居た頃のジェレラは引っ込み思案で、いつも自分の言う事に従っていて…
しかし、シャケト場から帰ってきたジェレラはとてもキラキラしていて…そうか、お前は自分の道を見つけたのだな…
インクを噴射しようとしていたルゴスはそれを止め、ゆっくりとザンナ達の元へ向かって来た…
しかし!
シャケ1「おい、ルゴスのジジイ!」
ザンナ「なっ…!」
ジェレラ「ポラリスのシャケ達…!」
ルゴス「なっ…お前達何故ここに…!?」
シャケ2「最近やたら騒がしいから何かと思っていたんだ、ジェレラの姿を遠くから見かけたからこっそり後を付けてみれば…こんな隠し通路があった事にも驚いたが、隻眼ザンナを連れ込んでたとはな。」
シャケ3「ジェレラ、お前やっぱり俺達を裏切ったな?」
ジェレラ「わ…私は…!」
ザンナ「彼女は何も関係ない、これは俺達の問題だ。」
そう言うと、ザンナはジェレラとルゴスの前に立ちはだかった。
シャケ1「またお前が相手してくれんのかよ?」
シャケ2「あの子ジャケとイカの件…ここで晴らさせてもらうぜ。」
シャケ3「覚悟するんだな!」
ザンナ「ジェレラとルゴス殿には手出しさせない、必ず守る!」
ジェレラ「ザンナさん…!」
ルゴス「……………!!」
あの乱暴者として名を轟かせていた隻眼ザンナからそんな言葉が…それにあの瞳、何も迷いが無い…!
何故だ…お前をそこまで突き動かしたキッカケは何だと言うのだ…!?
シャケ1「ギシャアァァァァーーーー!!」
ザンナ「グワアァァァーーー!!」
威嚇や雄叫びと共にシャケ達は一斉に飛びかかり、ザンナはそれらを単身で相手をし続けた!
ガキンッ!!
ビシャッ…
その戦いは1時間にも及び…
シャケ1「ちっ…引き上げるぞ!覚えてやがれ…!」
ボロボロになったシャケ達は引き返し…
ザンナ「はぁ…はぁ……ここは危険だ…すぐにルゴス殿を連れてシャケト場へ帰ろう…。」
ジェレラ「ザンナさん…またこんなに傷だらけに…!」
ザンナ「お前を守れた…これくらい何でも無い…ぐっ…!」
ジェレラ「ザンナさん!」
ザンナ「大丈夫だ…手当をして休めばまた回復する…。」
息を切らし傷だらけになったザンナは、心配するジェレラに優しく笑いつつ、ルゴスを背中に乗せた。
ルゴス「ザンナ…お前…!」
ザンナ「少し急ぐ…はぁ…はぁ…しっかり捕まっていろ…。」
そう言うと、ザンナはジェレラと共にシャケト場へ戻るのだった。
To be continued…