小説「夢結ぶ星りんご」~大人になりたい…~

夜、アイシェの姿は夜空にあった。

結局マルクと一緒に夜空のお散歩へ行く事を選び、マホロアは不機嫌になりつつも見送ってくれた。

アイシェ「わぁ~今夜も綺麗!」

マルク「やっぱり雲一つ無い日が最適なのサ!」

雲の上に座りながら見ている夜空を見るアイシェは青い瞳を輝かせ、マルクも満足気に笑っていて穏やかな時間が流れていく。

アイシェ「ふふっ。」

マルク「どうしたのサ?」

アイシェ「こんな風に夜空のお散歩に行くの、少し久しぶりだね。」

マルク「最近はマホロアが煩かったからなー。」

アイシェ「でも、これからはいつでも行けるよ。」

マルク「今度はカービィやアイツも一緒に来るといいのサ。」

アイシェ「うん、みんなで見たらもっと楽しくなるもんね。」

青い瞳と紫の瞳はお互いを映していて…おでこをコツンと当てて笑い合う。

こうして楽しい時間は過ぎていき…マルクはアイシェをローアまで送ってくれた。

マルク「じゃーな!」

アイシェ「ありがとうマルク、またねー!」

笑顔で手を振るアイシェに、マルクも煌めきの翼をヒラヒラと振りながら飛んで行き…彼を見送ったアイシェはローアに入った。

マホロア「お帰り~アイシェ。」

行く前は不機嫌だったマホロアだが、今はパジャマ姿にご機嫌な様子でワイングラスを手にしていて、りんごワインが揺れている。

アイシェ「ただいま、マホロア。お酒飲んでるけど大丈夫…?」

昨夜の様子から心配するアイシェだが、今日は落ち着いている様子で飲んでいる

マホロア「タランザに煩く言われたカラネェ…今夜はちゃんと割って飲んでるヨ。」

ワイングラスをクルクルと回しながらそれを眺めてゆっくりと飲むマホロアの姿はどことなく大人の色気があって…アイシェは頬を赤く染めてじっと見惚れてしまった。

アイシェ「……………。」

すると、その様子に気づいたマホロアが優しい笑みを向ける

マホロア「フフッ、どうしたんダイ?」

アイシェ「…あっ…ううん、何でもない…お風呂入って来るね!」

ハッとしたアイシェは頬を真っ赤にしたままそう言い残してパタパタと行ってしまい…

マホロア「アイシェはホント~に可愛いネェ。」

そんな彼女の様子にマホロアは瞳を弓なりに細めて、再びワイングラスをクルクルと回して飲み干した。

一方、アイシェは目を閉じてシャワーを浴びながら、マホロアの事を考えていた

お酒を飲むマホロアの姿は大人で色っぽく、まるで知らない人の様にすら見える…まだ自分の知らないマホロアがそこに居て、アイシェはドキドキが止まらなかった。

アイシェ「(マホロアは大人なのに私は…。)」

自分は本当にマホロアと釣り合っているのだろうか?

ふとアイシェの脳裏にはそんな不安が過った。

普段こそ子供っぽい部分のあるマホロアだが、時折見せる一面はとても大人で落ち着いていて、自分はいつもそんな彼に甘えてばかり…

すると、あのディスクの事を思い出して…

マホロアは二度と見ないと言ったが、本当は見たいのを我慢していて…私では物足りないと思っているのかもしれない…そんな恐怖が心を支配してアイシェの心はぎゅっと苦しくなり、青い瞳からは涙が溢れてシャワーと共に流れていった。

その後お風呂に浸かって温まったアイシェは、沈んだ気持ちのまま着替えてマホロアの元へ向かうと…

マホロア「ン、珍しいネ~アイシェ…今日は乾かしてないのカイ?」

いつもは洗面所で乾かしてくるのに、濡れたままで来た事にマホロアは珍しがっている。

アイシェ「ん…もう少ししたら乾かすよ。」

どことなく元気の無いアイシェの様子に、マホロアはワイングラスを置いてゆっくりと近づき…

マホロア「ボクが乾かしてアゲルヨ。」

アイシェ「大丈夫だよ、自分で乾か…」

マホロア「イイカラ、座っテ。」

アイシェ「…うん。」

ほろ酔い状態のマホロアに座るように促され、アイシェはソファに静かに座り…

マホロアはドライヤーを持って来て、アイシェの髪を優しく持って乾かし始めた。

マホロア「アイシェの髪は柔らかくて軽いネ、すぐに乾いちゃうヨ。」

アイシェ「ありがとう…。」

長い髪を丁寧に乾かしていくマホロアに返事をするアイシェだが、その声は元気が無くて…

マホロア「アイシェ、何かつらい事デモあったのカイ?」

心配するマホロアはアイシェの耳元でそう尋ねたが、首を横に振って否定する彼女に今は何も言わずに髪を乾かす事に専念した。

しばらくして…髪を乾かし終えたマホロアはドライヤーを止めて、アイシェの髪をブラシで優しく梳かしてあげると彼女は俯いてしまい…

アイシェ「ありがとう…マホロア…。」

お礼を言う声は震えていて…マホロアは心がぎゅっとした。

マホロア「どういたしましテ…アイシェ、一体何があったノ?」

ブラシを置いてゆっくりとアイシェの前に回って尋ねるが、俯いたまま震えていて…

アイシェ「久々の空のお散歩で…疲れちゃっただけ…。」

そう話すアイシェの両手はぎゅっと握られていて、本当は今すぐにでも抱きしめて聞き出したい所だが今の様子では打ち明けてくれそうにない…そう判断したマホロアは、まずアイシェの気持ちを落ち着かせる事にした。

マホロア「…ホットミルク飲もうカ、今作ってくるネ。」

そう言って頬にちゅっとキスをして、台所へ向かった。

俯いていたアイシェがそっと顔を上げると、台所からカチャカチャと食器の音が聞こえて…マホロアがマグカップにミルクを注いでいるのが見える

ふとテーブルに視線を移すと、そこには飲みかけのお酒があって…

アイシェ「(お酒が飲めれば…私も大人になれるのかな…。)」

再びマホロアに視線を移すと、彼はレンジにミルクをセットしていて…こちらに気づいている様子は無い。

アイシェは立ち上がるとテーブルに向かい、ワイングラスに手を伸ばし…

ゴクリ…それを飲み干してしまった。

喉を通って体は一気にポカポカと温まり、気持ちはふわふわする

マホロア「すぐに出来るカラネ……ってアイシェ!?」

テーブルの前に立つアイシェは自分のワイングラスを持っていて、その中身は空になっている!

そして当のアイシェはその場でふらふらしていて…

アイシェ「っ……!」

割っていてもこんなに強いなんて…アイシェはそう思いながらグラスを置いたが、意識は徐々に薄れ…

ドサッ!

マホロア「アイシェ!!」

驚いたマホロアが慌てて駆けつけると、アイシェは頬を真っ赤にしたままその場で倒れて気を失ってしまった!

しばらくして…

アイシェ「んっ……。」

マホロア「アイシェ。」

意識を取り戻したアイシェは、マホロアの声を聞いてゆっくりと彼を見た。

アイシェ「マホロア…。」

マホロア「アイシェ、ボクのお酒を飲んで倒れちゃったンダ…覚えテル?」

アイシェ「うん…覚えてる…。」

マホロア「どうシテあんな事……とりあえず水を飲もうネ。」

そう言うとマホロアはアイシェを起こして、背中を支えたまま水の入ったグラスを口元に持って来てくれた。

アイシェ「あり…がとう…。」

まだ少しボーッとしているアイシェは、そっと手を添えてコップの水を飲み干して大きく深呼吸をした

マホロア「少し落ち着いタ?」

アイシェ「うん…。」

少なくとも頭のグラグラ感は消えていて、マホロアも安心した表情を見せる。

マホロア「アイシェ、何であんな事したノ…?」

アイシェ「……お酒が飲めれば…私も大人になれる…から…。」

マホロア「エッ!?」

突然彼女の口から出てきた「大人になれる」という言葉に、マホロアは驚きで黄色い瞳を見開いた…。

To be continued…