小説「夢結ぶ星りんご」(夢幻の歯車編)~酒場の罠~

宿に到着し荷物を置くと、マホロアは魔法空間で結界を張り、アイシェと共に待ち合わせの噴水の場所へ向かった

全員が集まった頃には夕方になっていて、夕陽が海に沈んで行くのを眺めた後に食事をする為に歩き出した。

ドロッチェ「聞き込みをして、美味い店を見つけておいたぜ。」

彼の案内で辿り着いたお店は、たくさんの客で賑わうレストランで…美味しそうな香りが漂ってくる。

一行は席に座りメニューを見ながら注文をして、しばらくして料理が到着し、楽しく会話をしながら食べ始めた。

カービィ「んん~~~美味しい!生き返るよー!」

大盛りのナポリタンにグラタン、コーンスープにサラダ…たくさんの料理は次々とカービィの中に消えていく…

デデデ「お~美味いな!」

そう言うデデデも、特大ステーキを頬張り上機嫌だ

バンワド「相変わらず、よく食べるなぁ…。」

メタナイト「ん、ドロッチェ…トマトは要らないのか?」

オムライスを食べつつバンワドが驚き、メタナイトはトマトを器用に避けるドロッチェを見ている。

ドロッチェ「…トマトは苦手でな、アイシェにやるよ。」

そう言って、ドロッチェはトマトを全てアイシェのお皿に移してしまった。

マホロア「チョット!何勝手ニ入れ…」

アイシェ「私トマト大好きなの、ありがとうドロッチェ!」

ドロッチェ「ははっ、それはよかった!」

マホロア「ムウゥ…!(言ってくれればボクがいくらデモ食べさせてアゲルのに…何でコイツのトマトなんか受け取るんダヨォ!)」

怒るマホロアだったが、アイシェは逆に喜んでいて…ドロッチェと仲良く話す彼女に、マホロアは眉間に皺を寄せて少しムッとしてしまった…。

楽しい時間はあっという間に過ぎ、食事を終えた頃にはすっかり夜になっていて…上空には星が輝いている

メタナイト「明日の朝8時に、この噴水の前で集合しよう。」

マホロア「分かったヨ。」

デデデ「じゃあまた明日な!」

カービィ「おやすみー!」

バンワド「ゆっくり休んでね!」

そう言うとデデデ達は歩いて行ってしまい…

メタナイト「我々も行こう、ドロッチェ。」

ドロッチェ「あぁ。それじゃあ、おやすみ。」

マントを翻し、メタナイトとドロッチェも宿へ戻って行った。

マホロア「ボク達も帰ロウ、アイシェ。」

アイシェ「うん。」

2人は手を繋いで宿に向かって歩き出したが…マホロアはさっきのトマトの件をまだ根に持っていた

しょうもない「やきもち」なのは分かっているが、それでも大切なアイシェを他の男に…ましてや別世界とはいえ「ドロッチェ」に触れられたり食べ物を譲られたりするのは気に入らなかった。

モヤモヤした気持ちのままアイシェと一緒に歩いていたマホロアだが、ふと横の狭い路地にある酒場に気がついた

マホロア「アイシェ、酒場があるヨ。」

アイシェ「ほんとだ。」

マホロア「ネェ、せっかくダカラ…チョット2人で飲もうヨォ?」

アイシェ「えっ…でも明日も早いし戻って休んだ方が…。」

マホロア「チョット飲むダケダヨォ~すぐに終わるカラ、ネ!」

アイシェ「ま、マホロア…!」

お酒の力を借りてこのモヤモヤを吹き飛ばし、程よく酔った所で帰って2人でゆっくり休もう…そう思ったマホロアは、アイシェの手を引いて酒場へと向かった。

中に入ると、こちらもレストランと同じく賑わっていて…ダンスをしたり歌っていたり…皆が自由に楽しく飲みながら過ごしていた。

マホロアはウォッカを、アイシェはカクテルを頼み…2人で飲み始めた。

マホロア「ンン~美味しいネェ、最高ダヨォ!」

強いお酒を飲んでご機嫌なマホロアは、雲の夢を口ずさんでいる

アイシェ「マホロア、強いお酒だから飲み過ぎない様にね。」

マホロア「大丈夫ダヨ、ちゃんと調整するカラネェ~。」

返事はするものの、既にほろ酔い気味のマホロアをアイシェは心配していたが…ちゃんと割りながら飲んでいたので、大丈夫そうだと安堵した。

しばらく2人で飲んでいると…

商人「おや、貴方は昼間の!」

マホロア「ン、アァ~また会ったネェ!」

声を掛けてきたのは昼間の商人で、マホロアと会話を始めた。

アイシェは話を聞きつつ飲んでいたが、商人が他の商人仲間にマホロアを紹介したいと言い出し、彼と共にそちらの席へ移ってしまった。

アイシェ「マホロア…。」

1人残されたアイシェはポツリ…とマホロアの名前を呼んだ

一方のマホロアは頬を真っ赤に染めて、上機嫌で商人達と談笑している…

寂しさと不安から俯き、空になったカクテルのグラスを両手でクルクル揺らすアイシェ

すると…

ガタンッ!

少し大きな音を立てて、知らない男がアイシェの近くの床に倒れ込んできた!

男「うぅ…。」

アイシェ「大丈夫ですか!?」

驚いたアイシェは席を立ち、男に近づいて声を掛けると…

男「お酒が回って、外で風に当たって酔いを醒まそうと思ったんですがふらついてしまって…すみませんが、手を貸して頂けませんか…?」

アイシェ「いいですよ。」

男「ありがとうございます…!」

アイシェは男に手を貸してそのまま2人で外に出てしまい、マホロアは全く気づかずに商人達とお酒を嗜んでいたが…アイシェが出て行って少しして、席に彼女の姿が無い事に気がついた。

キョロキョロと辺りを見渡してもアイシェの姿は無く、マホロアは不安に襲われた。

マホロア「アイシェ…ドコに行ったノ…?」

商人達との会話を切り上げ、お金を払って外に出たマホロアは辺りを見渡すもアイシェの姿は無く…

目を閉じて彼女の気配を探そうとしたが、酔いが回っているのもあって集中出来ない…

少し飲み過ぎたと己に苛立ちを覚えつつ、マホロアは辺りを捜し始めた。

一方…アイシェは男に連れられて酒場から離れた路地裏まで連れて来られていた

アイシェ「あの…もうそろそろ大丈夫ですか…?」

明かりが殆ど無い暗い路地裏に、アイシェは強い不安を覚えた。

流石にもう酔いも醒めただろう…そう思って男から離れて戻ろうとしたアイシェだったが…

男「へへっ、こんな簡単に引っ掛かるなんてな。」

顔を上げた男は、ギラギラと目を輝かせながら自分を見ていて…

ドクン…ドクン…アイシェは胸の鼓動が嫌な意味で速くなるのを感じる…。

アイシェ「な…何を…。」

男「とっても楽しくて気持ちイイ事をしようぜ。」

怯える声で尋ねるアイシェだが、厭らしい笑みを浮かべながら近づく男に背中を嫌な汗が流れる…

アイシェ「わ…私…帰らなきゃ…」

何とかここから逃げなければ!そう思ったアイシェだが…

男「おっと、逃がさないぜ。」

逃げようとしたアイシェの腕を男が掴み、そのまま抱き寄せられると両手首を掴まれて上げられ…そのまま壁に押しつけられた!

アイシェ「っ…やめて…!」

声を絞り出し、震えながら訴えるアイシェだが…男は相変わらず厭らしい笑みを浮かべたまま舐める様にアイシェの体を見ていて…

男「店に入って来た時から目を付けてたんだ。隣の男が邪魔だったが、タイミングよく席を離れてくれたから絶好のチャンス到来だったぜ。」

アイシェ「や…やだ…!」

抵抗するアイシェだが男はビクともせず、そのままアイシェの首元のリボンに手を伸ばしたが…

バチッ!!

守護の魔術が発動し、男が驚いて離れると魔法陣が現れてそのまま割れた。

男「何だ、今のは?」

アイシェ「(守護の魔術が…!!)」

男「ビックリしたぜ…まぁいい。」

驚いた様子だったが、男は再びアイシェの首元に手を伸ばし…そのままリボンを解いてしまった。

カシャンッ…リボンに付いていた通信機チャームも共に地面に落ち、アイシェの胸元がグイッと引っ張られ…少しだけ開けて胸の膨らみが覗いている。

アイシェ「や…いやぁ…やめて…!!」

必死に抵抗するアイシェだが、男の手がスカートにスルリと手を入れてきて太ももを撫で回し…アイシェは気持ち悪さにゾクリと寒気がした。

マホロアとは全然違う、嫌悪感と恐怖…どれだけ抵抗しても逃げ出せず、男の手が体を厭らしく這っていく…

男「へへ…楽しませてもらうぜ。」

そう言って男の手がアイシェの胸元に伸び…

アイシェ「い…や…いやぁ…マホロアぁ!!」

青い瞳から大粒の涙を流し、マホロアの名前を叫んだ次の瞬間!

マホロア「アイシェから離れろヨ。」

低く悍ましい声が聞こえて来て、声のした方を向くと…そこに居たのは禍々しいオーラを放つマホロアの姿!

守護の魔術が発動した事でアイシェの居場所が分かり、急いで駆けつけたのだ。

アイシェ「マホロア…!」

マホロア「ボクのアイシェに何をシテるんダ。」

暗闇に光るマホロアの黄色い瞳は、アイシェに手を出そうとしていた男に刺すような鋭い視線を向けていた。

To be continued…