小説「夢結ぶ星りんご」〜マルクの家へ〜

翌日、マホロアとアイシェはマルクの家がある深い森を歩いていた。

アイシェ「マホロア、こっちだよ。」

マホロア「アイシェ、ココは迷いやすいカラ危ないヨ!」

アイシェ「大丈夫、マルクの家の方向はすぐに分かるもの。」

マホロア「(コンナに迷いやすい森ナノニ…?)」

不思議に思うマホロアに優しく笑いかけるアイシェは、彼の手をしっかりと握って案内して行く…

アイシェ「ふふっ。」

マホロア「アイシェ、嬉しソウ。」

ご機嫌で雲の夢を口ずさむアイシェに対し、マホロアは少し不満気な様子だ。

アイシェ「だってマルクの家にお泊まりだもん、マホロアも一緒だから更に楽しみだよ。」

マホロア「フーン?」

アイシェ「マホロアは嫌?」

マホロア「マルクの家ってコトを除けば嫌ジャナイヨォ?」

アイシェ「もう、またそんな事言って…。」

マホロア「ケド、アイシェがずーっと浮かれテルのは気に入らないネェ…。」

そう言うと、マホロアはアイシェの手首を掴むと抱き寄せて…そのまま近くの木の幹に優しく押さえつけた。

アイシェ「マホロア…?」

マホロア「ローアにお泊まりに来たあの時と今ハ、どっちが楽しみなのカナァ?」

薄暗い森の中に光るマホロアの瞳の中では嫉妬の炎が燃えていて…そのままアイシェに顔を近づけるとマフラーを下ろし…

そっと熱く甘いキスをした。

アイシェ「もちろん、ローアにお泊まりに来た時だよ。」

マホロア「フフッ…嬉しいヨォ。」

頬を真っ赤に染めながらもそう答えたアイシェに、マホロアは満足そうに口角を上げて…再び優しく口づけた。

アイシェ「マホロアが居るんだもの、素敵なお泊まりになるよ。」

マホロア「アイシェ…キミはホントに暖かいネェ。」

全てを包み込む優しさという名の暖かさに触れたマホロアの心も、いつの間にか自然と楽しみという感情で溢れ…アイシェにもう一度キスをすると再び2人で仲良く歩き出し、それから程無くしてマルクの家に到着した。

アイシェ「わぁ…薔薇が今年も綺麗に咲いてる!」

マルクが大切に育てている赤い薔薇を、嬉しそうに瞳をキラキラ輝かせながら眺めるアイシェを、マホロアはじっと見ていた。

マホロア「(赤い薔薇も似合うケド、アイシェはやっぱり青い薔薇が一番ダヨネェ。)」

すると、家の扉が開いてマルクが出てきた。

マルク「お、もう着いたのサ?」

アイシェ「うん、今日はお世話になります。」

マルク「キシシ、ゆっくりしてけばいいのサ。」

マホロア「フ〜ン、マルクにしてはイイ家に住んでるジャン。」

マルク「自慢の家だからな、さぁ入るのサ。」

そう言ってマルクはさっさと家の中に消えて…アイシェとマホロアもゆっくりと中に入った。

最初は真っ暗だったが…入った途端にふわっと灯りが点き、豪華なシャンデリアが出迎えてくれた

色とりどりな灯りは、まるでマルクの煌めきの翼の様にキラキラと輝いて幻想的な世界を魅せてくれる。

アイシェ「これ、マホロアが渡したお土産の魔法石だね。」

マルク「貴重な物だからな、大事に飾ってあるのサ。」

意外な一面もあるもんだと思いながら、マホロアが飾り棚に置かれた魔法石を眺めていると…

マホロア「…アッ!コレあの時の宝玉ジャン!」

数ある魔法石の中、1つの宝玉が置かれていて…マホロアは黄色い瞳を驚きで見開きながら指を差した。

アイシェ「その宝玉を知ってるの?」

マルク「知ってるも何も、ボクとコイツの因縁の証なのサ。」

アイシェ「因縁の証…?」

マホロア「ボク達、元々ハ仲が悪かったデショ?」

マルク「今も仲良しでは無いのサ。」

マホロア「ウルセーヨ!…コレは「星の雫」っテいう魔法の宝玉デ、2人デ一緒に持ち出して使うハズだったモノ…ソレをマルクの嘘で嵌められテ、盗られたコトがキッカケで険悪になったんダヨネェ。」

マルク「その代わり、お前はあの魔術書をボクから盗んだだろ。」

マホロア「チョッ…!」

アイシェ「魔術書って…マホロアがいつも読んでるあれ?」

マホロア「……ウン。」

マルク「だからお互い様なのサ。」

アイシェ「…あははっ!」

キシシと笑うマルクにマホロアは渋い顔をしていたが、2人の様子を見て嬉しそうに笑うアイシェに、2人はキョトンとしていて…

マホロア「どうしタノ、アイシェ?」

マルク「何がおかしいのサ?」

アイシェ「嬉しいの、あんなに仲の悪かった2人がこんなに仲良しな友達になれたんだもの。」

マルク「友達とかこの先もありえねーのサ!」

マホロア「例えパラレルワールドの世界デモ絶対にネーヨ!」

そう言って猛抗議する2人だが、アイシェは嬉しそうに笑うばかりで…

アイシェ「ふふっ、素直じゃないんだから。」

マホロア「モウッ!ところでマルク、どうしてソレをまだ持ってたんダヨ?」

マルク「知りたいのサ?」

マホロア「…何か深い理由があるのカイ?」

マルク「答えは1つ………いつかお前に復讐してやろうと思ってたからなのサ。」

マホロア「なっ…そんなコトカヨ!?」

マルク「ま、アイシェの事もあるし、今となってはもうどーでもいいけどな。」

マホロア「グッ……!」

そう言って翼を出して鉤爪を眺めながらニヤニヤと笑うマルクに、マホロアは何とも言えない表情をしていた。

その後はマルクが紅茶を用意してくれて、アイシェが焼いてきたクッキーと共に庭に咲く薔薇を眺めながら楽しく穏やかなティータイムを楽しむと、お絵描きをしたり庭で遊んだり魔法を見せて貰ったり…楽しい時間はあっという間に過ぎて、気づけば夕方になっていた。

アイシェ「それじゃあ、お風呂入ってくるね。」

着替えとタオルを持って向かったアイシェを見送ったマホロアは、傍のソファで寛いでいるマルクの方を向いて口を開いた

マホロア「マルク、聞きたいコトがあるんダケド…。」

マルク「何なのサ?風呂の覗きならオススメしないのサ。」

マホロア「違ぇヨ!アイシェ、何故か迷うコトなくキミの家に辿り着いたんダヨネ。」

マルク「初めて来た時以来、アイシェは1人でも迷わずにここに来れるのサ。」

マホロア「こんな薄暗クテ迷いやすい森をどうシテ…。」

マルク「前にアイシェに聞いたら、薔薇の香りとほんのりした灯りが見えるって言ってたのサ。」

マホロア「灯り…もしかシテ、アイシェは魔力が見えてるノ!?」

それはマルクが自分の家への道を示す灯りだが、普通の灯りとは違い「魔力を持つ者しか見えない灯り」で、本来ならマルク自身やマホロアの様に魔力を持つ者にしか見えない為、軽い気持ちで森に入ればたちまち迷子になってしまう

しかし何故か、魔力を持たないアイシェはその灯りが見えているらしく…マホロアはとても驚いた。

マルク「ボクも最初は驚いたけど、お前も知っての通り、アイシェ自身から魔力は微塵も感じないのサ。」

マホロア「前にスージーが、アイシェは妖精族に近いッテ言ってたヨネ…ソレが関係してるのカ?」

マルク「さーな、気になるならお前が調べて見ればいいのサ。」

マホロア「チョッ、無責任ダナァ…。」

全く気にする様子も無く丸投げしてくるマルクに、マホロアは呆れて文句を言いつつも、ローアに帰ったら書物を調べてみようと思うのだった。

To be continued…