同じ頃…アイシェは彼女達の本拠地へと連れて来られていた。
アイシェ「…ぐすっ……。」
パルル「…アイシェ。」
主へ報告を終えて部屋を訪れると、アイシェは傍にあるクッションに顔を埋めて泣いていて…ザン・パルルティザーヌはそっと近づいて、彼女の背中に触れた。
アイシェ「っ……!!」
パルル「手荒な事はしない、落ち着くまでこうしている。」
一瞬ビクッとしたアイシェだったが、彼女の声音はとても優しく手も温かくて…ゆっくりと起き上がった。
アイシェ「ぐすっ…どうして…?」
泣きながらも疑問をぶつけたアイシェに、ザン・パルルティザーヌはそっと手を伸ばして、優しく頬を撫でながら涙を拭った。
パルル「アイシェが悲しむ姿を見ると…心が苦しくなるのだ。」
アイシェ「私が…?」
パルル「…もしかしたら、昔のわたしと重ねてしまっているのかもしれないな。」
アイシェ「昔の…ザン・パルルティザーヌに…?」
パルル「…長くて呼ぶのも大変だろう、パルルで良い。」
そう言いながら、ザン・パルルティザーヌはアイシェが泣き止んで落ち着くまで頬を撫でてくれた。
アイシェ「ありがとう…パルル…。」
パルル「どういたしまして。…わたしはかつて全てを失った……追い打ちをかける様に登った塔に雷が落ちて、息絶える寸前だった時…あの御方…我らが主ハイネス様から魔力を授かり、雷の力を身に付けたのだ。」
アイシェ「そんな過去が…。」
パルル「キッスとルージュも似た様な境遇でハイネス様に助けられ、魔力を授かった。」
アイシェ「とても大切な人なんだね。」
パルル「ハイネス様は我々の恩人であり、敬愛する大切な御方なのだ。」
そう話すパルルだが、どこか寂しげで…アイシェは心がぎゅっと締めつけられた。
アイシェ「パルル…大切な人のお話なのに…寂しそう…。」
パルル「えっ…?」
アイシェ「気のせいだったらごめんなさい…でも…寂しげな気持ちを感じたの…。」
パルル「…アイシェに隠し事は出来ないのかもしれないな。」
そう言って寂しげに笑いながら、パルルはアイシェの頭を優しく撫でた。
アイシェ「パルル…?」
パルル「…ハイネス様もつらい過去をお持ちなのだ…だがそれを我々が癒やす事は出来ない…。」
アイシェ「パル…」
声をかけようとしたアイシェだったが…
ビート「キッス様、ルージュ様…その怪我は一体どうされたのですか!?」
キッス「うっ…!」
ルージュ「大丈夫よ…それよりもあの娘に食事を…。」
ビート「でも…!」
扉の外でビート達の会話が聞こえたと思ったら、フラン・キッスとフラン・ルージュ、そしてビートが一気に入って来た。
ルージュ「アイシェ、食事よ…今日はたっぷり盛ったからしっかり食べなさ……ってパルル?」
パルル「ルージュ、キッス…その怪我はまさか…!」
アイシェ「酷い…すぐに手当てしなきゃ…!」
キッス「これくらい大丈夫ですわ…。」
ルージュ「そうよ…余計な事を気にしてないで食べなさい…。」
2人の怪我を見たパルルは察した表情をして、アイシェは驚いたが…当の2人は苦しそうにしつつも気にせず食事を勧めてくる…
アイシェ「そんな事出来ないよ!パルル、救急箱はある?」
パルル「あ…あぁ…。」
アイシェ「ここに持って来て、すぐに手当てするから。」
あんなに怯えたり泣いていたとは思えないくらいに、アイシェはしっかりしていて…パルルは内心驚いていた。
パルル「…ビート、救急箱を持ってきてくれ。」
ビート「ジャ…ジャイ!」
命令されたビートは急いで取りに行き、ザン・パルルティザーヌはフラン・キッスとフラン・ルージュに近づいてローブを少し捲り、傷の具合を確認する。
キッス「っ…!」
ルージュ「うっ…!」
パルル「…ハイネス様に折檻されたのだな…とはいえここ最近は特に酷いな…。」
アイシェ「っ……!!」
キッス「うぅ…パルルさん…貴女もハイネス様に折檻されたはずですわ…隠していても分かりますのよ…。」
アイシェ「そうなの、パルル…!?」
パルル「…応急処置はした…だから大丈…」
アイシェ「ダメ、パルルも見せて!」
あぁ…まただ…その瞳から強さと優しさが溢れていて…自然とその優しさに触れたいと思ってしまう…
パルル「アイシェ………分かった。」
そう言うと、パルルも手袋を脱いでローブを少し捲った。
ビート「持って来ました!」
アイシェ「ビート、一緒に手当てをお願い。」
ビート「ジャイ!」
アイシェ「少しだけ我慢してね…。」
ルージュ「っ!!」
アイシェは慣れた手つきで手当てを始め…消毒液のしみる痛さで目をぎゅっと瞑り顔を歪めるフラン・ルージュだが、振り払う事も無く大人しく手当てを受けていた。
アイシェ「これで大丈夫、次は貴女ね。」
そう言うと、次はフラン・キッスの手当てを始め…ビートから薬や包帯を受け取りながら、丁寧に塗って巻いていく。
キッス「…ジャマ…カッシャ……感謝の言葉ですわ。」
アイシェ「どういたしまして、最後はパルルね。」
まだ少し戸惑いつつも、お礼を言うフラン・キッスにアイシェは優しい笑みで返事をして、ザン・パルルティザーヌの手当てを始めた。
パルル「くっ…うぅ…!」
アイシェ「血が滲んでる…こんな酷い怪我、応急処置だけで済ませちゃダメだよ。」
巻かれていた包帯を取り、消毒をした後に薬を塗って新しい包帯を丁寧に巻き…手当ては完了した。
パルル「終わった…のか?」
アイシェ「うん、これで大丈夫。でも消毒と薬を塗るのはしばらく続けないとね。」
パルル「そうか……ジャマカッシャ、アイシェ。」
ルージュ「あ…アタシも…ジャマ…カッシャ…。」
アイシェ「どういたしまして。」
にっこりと微笑むアイシェに、3人の心は暖かくなるのを感じて…長い間感じていなかった感覚に戸惑いと同時に安心感も覚えていたその時…
ぐうぅ…誰かのお腹が鳴る音が聞こえた。
パルル「今のは…?」
キッス「………ジャゴメーナ…。」
ルージュ「キッスちゃん…すぐに食事を準備す…」
ぐうぅ~~~今度はフラン・ルージュのお腹からも音が鳴った…
アイシェ「ねぇ、みんなでご飯食べようよ。」
パルル「アイシェ…?」
アイシェ「こんなにたくさん食べれないもの…それにみんなで食べると美味しくて幸せなんだよ。」
そう言ってそっとパンを分け始めたアイシェをじっと見ていたザン・パルルティザーヌだが…そっと口を開いた。
パルル「…ビート、5人分の食器を持ってきてくれ。」
ビート「5人分…ですか?」
パルル「わたし達と…お前の分だ、共に食べよう。」
ビート「ジャ……ジャイ、すぐにお持ちします!」
胸の奥が熱くなるくらいの喜びが湧きあがったビートは、その感覚に少しだけ戸惑いつつも、食器を取りに部屋を出て行った。
To be continued…