あれから数日…タキはまめみの部屋に籠もりがちになり、まめおもまめみに連絡はするものの返事は無く…焦りや不安が募る一方だった。
夜…まめおが眠る中、タキはそっと外へ出てハイカラシティへ向かった
広場に到着してベンチに座り、見上げると冬の夜空には星が輝いていて…
タキ「……まめみ……。」
モンガラキャンプ場で想いを伝え合った2年前、その後も何度も彼女と見てきた夜空の星
いつも2人で見てきたのに今は1人…
想いを伝え合った時も、こんな冬の日だった
あの時まめみの頬は赤くて、吐き出す息は白くて…
でもその笑顔は太陽の様に暖かく、月の明かりの様に優しく包み込んでくれて…
自分が事故で記憶を失った時も、いつも傍で支えてくれた
いつだってまめみは傍に居てくれた…お互いを愛して、どんな時だって共に乗り越えて来た
それなのに俺は……自分の感情に流されてまめみの事を拒んで突き放して…
一番守りたい存在なのに…失いたくない最愛の人なのに…
ツネの居場所さえ分かれば今すぐにでも助けに行けるのに…
………まめみ………
彼のターコイズブルーの瞳から、一筋の涙が頬を伝って零れ落ちた…。
すると、少し離れた場所から声が聞こえてきて…
ツネ「こんな時間に何をしている?」
ハッとして顔を向けると、そこにはツネが立っていた!
タキ「ツネ、まめみは…まめみはどこに居る!?」
ツネ「まめみは僕の家で休んでるよ。……君にこれを渡しに来た。」
そう言うとツネは、ポケットからある物を取り出しタキに向かって投げた
タキがそれをキャッチして手を開くと、そこにはまめみの付けていた緑のハートのペンダントがあった…。
タキ「これは…まめみの…!」
ツネ「まめみに記憶を取り戻される脅威の1つになりかねないからね。」
タキ「ツネ…どこまでも…どこまでも俺からまめみを……!!」
憎しみの眼差しを向けるタキに対し、ツネの眼差しは氷の様に冷たくて…
ツネ「……決着をつけようじゃないか。」
タキ「何…!?」
ツネ「まめみから君を完全に取り除くには、君自身を消すしかないみたいだからね……この前はまめみに指示したけど今度は僕が直接、消してあげるよ。」
そう話すツネの黄色の瞳はタキを…獲物を捕らえた目をしていた
ツネは本気だ…タキは彼の瞳からそれを察した。
しかし自分も引くわけにはいかない
絶対に諦めない…まめみを…最愛の彼女を命がけで取り戻す!
タキ「受けて立つ、俺も本気だ…まめみを全力で取り戻す!」
ツネ「ふん、強がりもいつまで続くかな。…3日後、場所はモンガラキャンプ場だ。」
タキ「モンガラキャンプ場…!」
まめみとの大切な思い出の場所…
ツネ「まめみと君の思い出の場所で始末してやる、それじゃあ僕は戻るよ。」
そう言って、ツネは暗闇へ姿を消した…。
タキ「…………………。」
1人その場に立ち尽くすタキは、思考を巡らせていた。
まめみは洗脳されている…呼びかけた事で記憶を取り戻しかけたけどツネの事だ、さらに強く催眠をかけているだろう…
そしてあの催眠は話かけるだけで完全に解けるほど簡単なものではない…
どうする!?
…………………そう言えば……
1号がタコ達に攫われた時…
「サイミングラス」で催眠術にかかっていて…
それを解いたのは2号の歌声…
そして、その催眠術を弱めたのが……
彼女の特製「スミソインク」!!
もしかしたら、それさえあればまめみも…!
タキはある人物に連絡をした
その人物に会いに行く為に歩き出し、マンホールの中へ入りタコツボバレーへ向かうと…
そこに居たのはアタリメ指令では無く、2号「ホタル」であった。
ホタル「こんな深夜に突然連絡来たからびっくりした~夜更かしは乙女のお肌の天敵なんよ。」
タキ「それについては申し訳無いと思ってるよ、でもお肌の天敵だったら25時からのラジオは断るんじゃ無いの?」
ホタル「はは~ん…言うようになったな。…冗談はさておき、一体何の相談ね?」
タキ「急を要するから用件だけ伝えるよ…2号、「スミソインク」を調合して欲しい。」
ホタル「スミソインク…アオリちゃんの時に使ったアレね、あれは特殊な方法で作るインクだから滅多な事では調合せんよ。」
タキ「ある人の洗脳を解く為にそれが必要なんだ。」
ホタル「…………………。」
タキ「…お願いだ、2号。」
ある人…タキの真剣な表情を見てホタルはその人物が誰なのかを察した。
ホタル「……分かった、特製のスミソインクを作るけん、待っとるんよ。」
タキ「どれくらいかかりそう?」
ホタル「明後日には出来そうかな。」
タキ「(明後日…ツネとの約束は3日後、ギリギリ間に合うな。)分かった…頼んだよ2号。」
ホタル「任せな~、さて…早速作るからインクを取るよ。」
タキ「俺のインクを渡せばいいんだよね?」
ホタル「さすが3号、この容器にインクを入れてね。」
タキ「これだね。」
そう言うとタキは、ホタルから渡された容器に自身のインクを入れた。
ホタル「これだけあれば大丈夫、それじゃあ明後日の夜に取りにおいで。」
タキ「分かった。」
ホタルにインクを託し、タキはひとまずハイカラシティへ戻り…
再びまめおの家へ向かい…眠りについた。
翌朝…タキはまめおに昨夜の出来事を全て話した。
まめお「スミソインク…それがあればまめみは元に戻るんだな。」
タキ「1号と同じ催眠術の類いなら、元に戻るはずだよ。」
まめお「だがタキ…問題はツネの方だ、罠かもしれないぞ?」
タキ「いや、ツネは本気だよ…あの瞳を見れば分かった…罠ではない、本気で俺を消すつもりだ。」
まめお「…タキ…俺は……」
タキ「分かってるよ、まめお…何も出来無いって悔やんでるんだよね?」
まめお「あぁ…こんな時に本当にすまねぇ…!」
タキ「まめおは何も悪くないよ、これは俺とツネの問題だ…しっかり決着をつけてくる。」
まめお「タキ、まめみを頼んだ…そして必ず無事に戻って来てくれ…まめみとお前まで失ったら俺は…!」
タキ「うん、ありがとうまめお…必ず戻るよ、約束する!」
そう言うと、2人はお互いに堅い握手を交わした。
それから2日後の夜…タキは約束通り、再びホタルの元へ向かった。
ホタル「お、ちょうどよかった3号~今完成した所だよ。」
そう言うとホタルは、タキに小さな小瓶を2本渡した。
タキ「あの容器でこの少量…?」
ホタル「スミソインクは普通のインクと違って、その成分を凝縮する分あまりたくさんは作れないんよ。」
タキ「そうなんだ、でも2本あれば…ありがとう2号!」
お礼を言ってタキは帰ろうとしたが…
ホタル「待つね、3号。」
後ろからホタルが呼び止めた。
タキ「どうしたの?」
ホタル「スミソインクは量こそ少ないけど効き目は抜群…インクを与えたい相手の体により近いほど効果は強く出るんよ。」
タキ「より近いほど…。」
ホタル「体内に含ませれば、確実に正気には戻せる…。」
タキ「分かった、ありがとう!」
ホタル「あ、3号待つね…まだ話は…!」
そう叫んだホタルだが…既にタキの姿は無かった。
…………イカにとって口の中に他のインクが入るのはすごく気持ち悪い感覚…故に体内にインクを入れられるというのは想像を絶する苦痛…でもその分、効果は確実に現れる…
いかに吐き出させないように体内で効果を発揮させるかが問題…
…何があったかは詳しくは知らないけど……
4号…まめみちゃんを必ず無事に連れもどすんよ、3号…!
ホタルはふぅ…とため息をついたが…心の中で呟いた彼女の瞳はタキの去ったマンホールを見つめ、吉報を信じて待つ事にするのだった。
翌朝…タキは早朝から準備を整え…ツネとの決戦に備えていた。
F-190に身を包み、まめみのペンダントをコートの中に着ているワイシャツの胸ポケットに、スミソインクの小瓶をコートのポケットにしまい…玄関へ行ってモトクロスソリッドブルーを履いた。
すると…見送る為に一緒に来ていたまめおが声をかけた。
まめお「タキ、決戦に行く時にこいつを…ハイドラントを連れてってくれないか?」
タキ「ハイドラントを?」
まめお「ハイドラントはまめみとお前を繋ぐ思い出のブキ…スミソインクを与えた後に…もしかしたら思い出すキッカケになるかもしれない。」
ハイドラント「(タキ…我の主はまめみだけ、そしてまめみの傍に居るべき相手はお前だけなのだ…我はその手助けをしたい、我を連れて行ってくれ。)」
まめお「ハイドラント…。」
タキ「まめお、ハイドラントは何て…?」
まめおがハイドラントの言葉を伝えると、タキは強く頷いた。
まめお「タキ、お前に託すぞ。」
タキ「任せて、まめお。」
まめおから渡された「まめみのハイドラント」は…
今まで扱ってきたハイドラントよりも重く力強く感じた。
まめみの思いが詰まったこのハイドラントで…まめみを必ず取り返す!
ツネの強さを知って…まめみが彼と共にいる時間が不安で怖くて…
もっともっと強くなりたい…まめみを取られたくない…そんな思いで焦って…まめみの気持ちを正面から受け止める事が出来なくて…冷たく突き放して傷つけて……
でも…それでも俺は…まめみが必要なんだ…
まめみじゃないとダメなんだ…
待ってて、まめみ…俺が必ず助け出す!
強い決意を胸に、タキは思い出と決戦の地であるモンガラキャンプ場へ向かった。
To be continued…