小説「束の間の春」最終話~季節と共に変化は起きて~

タキとツネが入れ替わった騒動から2週間…皆はそれぞれの思い思いの時を過ごしていたが…

この日、ツネはタコワサに呼ばれて地下へ戻っていた。

タコワサ『おぉ、待っていたぞツネ。』

ツネ『ただいま、お爺様。』

タコワサ『まずはお前の地上での様子を報告しておくれ。』

ツネ『地上ではまめみと毎日楽しくやってるよ、余計な奴もいるけどね…でも春の暖かさから段々と初夏になり始めてて…綺麗な緑が広がってる。』

タコワサ『そうか、お前が楽しく過ごせているのならワシはそれが一番だ。』

ツネ『お爺様、この間電話で話した事だけど…。』

タコワサ『テンタクルズというユニットの事か?』

ツネ『うん、あの歌声と機械への知識…間違いないよ。』

タコワサ『やはりそうであったか…。』

ツネ『処分は?』

タコワサ『2年前の話だ、もう良い。だがもし接触する機会があれば、こう伝えておくれ…。』

そう言ってタコワサはツネに耳打ちし、彼も深く頷いた。

その後いつもの様に深く抱き合ったタコワサとツネだが、彼の格好はいつもと違っていて…

オシノビニットにフロントジップベスト、タコゾネスブーツネオに身を包むツネ…これは彼の戦闘服であり、即ち「任務」である事を意味していた。

ツネ『ところでお爺様、今日は何の任務?』

タコワサ『まずはこれを見て欲しい。』

そう言ってツネの頭を撫で回しつつも、タコワサはあるリストを纏めた紙を渡した。

そこに書かれていたのは『行方不明』のタコ達…

いずれも最近のものばかりで主にタコトルーパー等の下っ端が多く、その数も日に日に増えているのだ…

ツネ『お爺様、これは…!』

タコワサ『実は先日、ざくろにも任務で調べてもらったのだが…居なくなったタコ達の消息は全く掴めなかった…。』

ツネ『ざくろでも掴めない足取り…一体どこに…。』

タコワサ『今日はお前にも任務に加わってもらって調査してもらいたいのだ。』

ツネ『分かった、すぐに向かうよ。』

タコワサ『場所はタコツボバレーの付近にあるナンタイ山だ、気をつけて行くのだぞ。』

ツネ『うん、ありがとうお爺様。…将軍護衛隊長ツネ、これより任務に向かいます!』

そう言ってタコワサに敬礼をした後、ツネはタコゾネス達の元へ向かうと…そこにはざくろの先輩で護衛隊の副隊長であるデラタコゾネスの「サマーニャ」が居た。

サマーニャ『ツネ隊長、お待ちしてましたわ。』

ツネ『サマーニャ、話はお爺様から聞いた…すぐに調査に向かう。』

サマーニャ『分かりました、すぐに準備します。』

彼女の号令ですぐに隊員は集まり…最後に来たのは…

ざくろ『ツネ!』

ツネ『少し遅かったね、ざくろ…相変わらず鈍くさいんじゃないの?』

ざくろ『失礼ね~鈍くさくないもん!』

ツネ『どうだろうね?』

ざくろ『酷ーいツネの意地悪!』

そう言ってオシノビニットのマスクの下でニヤニヤするツネにざくろは頬を膨らませて怒り…サマーニャを含めた隊員達も見慣れた光景に笑ってしまうのだった…。

サマーニャ『隊長、ざくろはいつも優秀でとても助かっていますわ、だからあまりからかわないであげて下さいませ。』

ざくろ『サマーニャ先輩~!』

嬉しそうにしながらざくろはサマーニャに抱きつき、サマーニャもまた、優しく笑いながら抱きしめて頭を撫でた。

ツネ『ふふっ、相変わらずサマーニャはざくろに甘いね…ごめんよざくろ、ちょっとからかい過ぎた。』

そう言って彼女の頭を優しくポンポンすると、ざくろはまだ少しだけ頬を膨らませつつも、ツネの顔をじっと見上げた。

サマーニャ『隊長、今度こそ準備が整いましたよ。』

ツネ『うん、それじゃあ行くよ。』

そう言ってツネ達はナンタイ山の方へと向かう為に地上へ続く通路へと向かった…

その途中…任務を終えたであろう1人のタコガールとすれ違った…

部隊こそ違うものの、その実力はかなりの物で…一部のタコゾネスの間では…『デラタコゾネス並みのタコゾネス』と僅かな皮肉も込めて噂される紫の髪のタコガールは、ツネを見て敬礼をしてまた歩いて行き…そのまま自室へと消えて行った。

また少し歩いた先ではタコボーイの隊員達が練習を終えて休憩していて、ツネ達はそのまま通り過ぎて行き…

隊員1『お前ま~だその古いタコゾネススコープ使ってるのかよ。』

隊員2『ダッセェな~。』

そう言って隊員達はゲラゲラ笑って行ってしまったが…その言葉を掛けられていたタコボーイは動じる事無く、古いタコゾネススコープを手入れしていた。

タコボーイ『何とでも言えよ、僕はこれがいいんだ。』

そう言って再び手入れをしている彼の白い瞳は、自信に満ちていた。

一方…ここは地上のまめみの家…。

タキ「こうして…よし、また俺の勝ち!」

まめお「うわぁぁぁまた負けたー!」

タキ「へへっ!」

まめお「くっそ~タキ相変わらず強いな!」

タキ「まめおだって強かったよ~俺だって結構押されてたもん!」

まめみ「2人共盛り上がってるね~。」

2人で楽しそうにゲームで盛り上がる様子を見て優しく笑いつつ、まめみはお菓子の準備をしていた。

タキ「だって久々に3人で遊べてるんだもん、楽しいよ。」

まめお「スルメさんの店の手伝いや、ツネとの入れ替わり騒動とかで最近まで遊べなかったもんな。」

タキ「まだまだ行くよ、まめお!」

まめお「お、第3試合か…受けて立つぜタキ!」

まめみ「熱くなるのはいいけど程々にね。」

タキ「まめみも一緒にやろうよ。」

まめお「ああ、いつまでも見てるだけよりは3人モードで大乱闘しようぜ!」

まめみ「ふふっ、うん!」

暖かな春の終わりが近づき…初夏が見え始めている穏やかな日々…

最近はタキの任務も無く、平和で幸せな日々が続いている…

この穏やかな時間がずっと続きますように…

まめみはそう願いつつ、お菓子と飲み物の入ったコップをお盆に乗せて、2人の元へ向かうのだった。

一方、ここはシャケト場…。

ザンナ「…してあるからして、相手がたとえイカ1人であろうと油断はせず、最後まで心してかかる様に。」

シャケ達が思い思いの時間を過ごす中、ザンナが次の遡上に向かうシャケ達に指導をしていたが…

タマ「わわっ…!」

荷物を運んでいたタマヒロイのタマがバランスを崩し…

ドッシーン!!ザンナにぶつかってしまった!

ザンナ「うぉっ……タマ、またお前か!」

タマ「あ、ザンナ隊長…ごめんなさい!」

ザンナ「お前はいつもいつも…!」

そう言って怒るザンナだったが…

パ~ララ~パ~ララ~

ドーン!!今度はテツがザンナに突進してぶつかった!

テツ「お、悪いなザンナ!」

ザンナ「テツ、今度は貴様か!!」

テツ「悪かったよ、そうカリカリすんなって~俺が押してやるから少しは遊ぼうぜ?」

そう言うとテツはタマをクルマにヒョイと乗せて、ザンナをクルマでグイグイと押し始めた。

ザンナ「テツ、貴様何をする!?」

テツ「見ての通り、遊んでるんだぜ。お前もカリカリしてねぇで少しは楽しめよ~。」

ザンナ「俺はクルマで無理矢理押されてるだけだろう!」

タマ「でもあんまり進まないですね。」

テツ「ザンナ~、もう少し痩せたらどーお?」

ザンナ「な、何だと!?」

タマ「ザンナ隊長は筋肉の重みなんじゃないですか?」

テツ「そんなガッチガチに鍛えたら美味くならねぇぞ~。」

楽しそうに笑いながらテツはタマを乗せてザンナの周りをブンブン走り回り…

ザンナ「ぐぬ~グルルルル…!!」

青筋を立ててプルプルと震えるザンナ…

しかし遊びに夢中になるテツとタマは全く気づかず…

頭に被った帽子の袋はどんどん膨らんでいき……

数分後…

テツ「お、おいやめろザンナ!」

ザンナ「黙れ、この馬鹿共がー!!」

ドカァァァン!!

テツ「ぐわあぁぁー!!」

タマ「ぎゃー!!」

クルマは吹き飛び…テツとタマも一緒に吹き飛んで…

ボチャン!海に落ちてしまった…。

それを遠くで見ていたシャケ達は笑い…賑やかになり…

とぐろ「やれやれ…あいつらまたザンナを揶揄って…。」

シャケ子「ふふっ…でもザンナさん、前に比べたら穏やかになったわね。」

とぐろ「あぁ。」

そう話しながらとぐろとシャケ子は優しく笑い合い…

おシャケさま「ザンナも皆も楽しそうだね。」

そう言いながら、おシャケさまも穏やかな笑みを浮かべた。

そして…そんなザンナの様子を遠くから眺めているオオモノシャケが1匹…

誰にも気づかれぬように物陰からそっと眺める青い瞳…その主である「コウモリ」は持っていた鋼鉄製の傘を閉じると、赤く染まる頬を隠すようにそのまま家の中へ姿を消した。

同じ頃、ナンタイ山では…

ざくろ『ツネ。』

ツネ『どうだった?』

ざくろ『やっぱりダメ…何も手がかりが見つからない…。』

ツネ『そうか…。』

サマーニャ『ツネ隊長。』

ツネ『サマーニャ、君の方も?』

サマーニャ『えぇ…こちらも何も見つかりませんでした。』

ツネ『居なくなる場所までは特定出来ているのに手がかり1つ見つからないとは…とはいえこれ以上いると暗くなってくる、今日は引き上げよう。』

サマーニャ『分かりました。』

結局何も手がかりは掴めないまま、ツネ達は引き上げて地下に到着したのは夕方で…

ツネ『ただいま。』

タコワサ『どうだ?』

ツネ『手がかりは何も見つからなかった…。』

タコワサ『そうであったか…ご苦労だったな。』

ツネ『あまりにも奇妙だ、場所は特定出来ているのに痕跡1つないなんてね…。』

タコワサ『エン達の研究チームも探りを入れてくれている、引き続き調査を頼みたい。』

ツネ『分かった。』

一通り報告を終え、ツネはタコワサと抱き合った後に食事等を済ませて眠りに着いた。

それから数日後の夜…

サマーニャ『…………………。』

そこには単身ナンタイ山に向かうサマーニャの姿があった。

少しでも早く手がかりを見つけて仲間を助けたい…

ツネやざくろ、部下達を危険な目に遇わせたくない…

そんな思いから彼女は独断で調査に来ていた。

ナンタイ山は霧に包まれて視界は悪く、サマーニャは慎重に歩いていたが…ふと背後に気配を感じて…!

バッと振り向きオクタシューターを構えたが…

ざくろ『きゃあっ!』

サマーニャ『ざくろ…どうしてここに…!?』

ざくろ『寝ようと思ったら、先輩が出て行くのが見えて…先輩こそ何でここに…?』

サマーニャ『それは………ざくろ、こっちへ!』

説明をしようとしたサマーニャだが…ふと気配を感じて、ざくろを連れて岩陰に隠れた。

すると…そこに現れたのはタコトルーパー

タコトルーパー『……………。』

まるで催眠術にでもかかった様な表情で彷徨う様にゆっくりと歩く姿に、2人は岩陰からじっと様子を見ていた。

ざくろ『あのタコトルーパー、様子がおかしい…。』

サマーニャ『一体どこに向かうのかしら…?』

しばらく様子を伺っていたが…突然…歌のような曲が響き……

足下に大きな穴が開いて…タコトルーパーは落ちていって…穴はすぐに塞がって消えた…。

ざくろ『せ…先輩…!』

サマーニャ『あの穴から攫われていたのね…!それにあの曲は一体…!?』

ざくろ『先輩、すぐに戻って将軍に報告を!』

サマーニャ『そうね、急ぎましょう!』

そう言って2人がその場を後にしようとしたその時!

???『見タナ…ソノママ帰ス訳ニハイカナイ。』

謎の声が響いた直後…2人の足下には暗くて大きな穴が出現して…ズルズルと底なし沼の様に引きずられていく…!

ざくろ『きゃあぁ…!』

サマーニャ『ざくろ!』

ざくろ『先…輩…!』

2人は手を伸ばして、お互いの手をしっかりと握った…

そして、そのまま2人は地面の穴に吸い込まれて…姿を消した。

地面は何事も無かったかの様に元に戻り…

その場には、ざくろの付けていたタコマスクと、愛用しているスプラスコープコラボが残されているのだった…。

次の日の朝…

サマーニャとざくろが居なくなった知らせを受けたツネは、エンと共にナンタイ山へ向かった。

ツネ『ざくろ!サマーニャ!』

エン『2人共…一体どこへ…!』

しばらく捜し回った2人だったが、ツネは地面に落ちていたタコマスクとスプラスコープコラボを見つけた。

ツネ『これは…!』

エン『ツネ…それはざくろのタコマスクとブキ…!』

しかし、やはり何一つ手がかりは無くて…

ツネ『間違いない…ざくろとサマーニャはここへ来たんだ…!くそっ…くそっ!!』

そう言うとツネはタコマスクを抱き、地面に拳を何度も叩きつけて項垂れ…エンもその場に静かに膝をついた…。

同じ頃…まめみはタキと朝ご飯を食べていた。

タキ「ん、今日もまめみのごはん美味しい!」

まめみ「ふふっ、嬉しい…いっぱい食べてね。」

穏やかな朝の時間…

今日は何をしようか、そんな会話をしていた2人だが…

ピリリリリ…タキのイカスマホが鳴った。

タキ「あれ…誰だろう?」

そう言ってタキが画面を見たら…そこに書かれていたのは…

アタリメ指令

まめみ「タキ君…。」

タキ「…出るね…。」

まめみ「…うん…。」

ピッ…タキが通話ボタンを押すと…

アタリメ「3号、急じゃが任務を頼みたい。」

タキ「分かりました…今回の任務は?」

アタリメ「最近ナンタイ山の付近でタコがよく出るという話を聞いての…パトロールに向かいたいんじゃ。」

タキ「パトロールはいつからですか…?」

アタリメ「明後日から2週間じゃ…タコツボバレーからナンタイ山にかけてのパトロールじゃからの、少し時間はかかるが…。」

タキ「分かりました…明後日の朝、向かいます。」

アタリメ「すまんのぅ3号、頼んだぞい。」

タキ「はい。」

ピッ…タキは通話を終えてまめみの顔を見た。

まめみ「…任務のお願いが来たんだね…。」

タキ「…うん、タコツボバレーからナンタイ山へかけて明後日から2週間…パトロールをする事になったよ…。」

まめみ「…2週間…。」

タキ「…ごめんね…まめみ…。」

まめみ「…ううん、大丈夫…。」

タキ「…明後日の出発まで一緒に居たい…まめみと一時も離れたくない…。」

まめみ「…うん…あたしも…あたしも離れたくない…タキ君の傍に居たい…。」

2人はぎゅっと抱きしめ合い…お互いの温もりを確かめ合った…

タキ「…まめみ…。」

まめみ「…タキ君…。」

自分を見つめるまめみの桃色の瞳は寂しげに揺れていて…タキは彼女の頬に手を添えて…その唇に優しくキスをした。

束の間の春~Fin~

海賊ダイルです。小説を読んで頂いた皆様、本当にありがとうございます!

小説「束の間の春」はこれにて完結しました。

春という短い季節の中、タキとツネが幼児化したり体が入れ替わる様々なハプニング、ツネの過去も語られる一方で年相応の表情を見せる様になってくる等の僅かな変化も見られた今回のお話…変わらず優しく温かく包み込むまめみ、そして2人のまめみに対する想い…

3人の関係を中心に書いた今回のお話でしたが、その中で新キャラが複数出てきたり…新たな出来事の始まりを予感させる不可解な出来事も…

小説「緑風と桃花は愛を紡ぐ(試練編)」でも書きましたが、次回は新たなお話である長編へと突入します。

不可解な事件の原因…居なくなったツネの仲間は…その先に彼らを待ち受けているものとは…?

是非読んで頂けたら嬉しいです。

それでは次のお話でお会いしましょう!

ここまで読んで頂きありがとうございました!

2019/3/27 海賊ダイル