小説「夢結ぶ星りんご」~マルクの心~

起きてきたタランザとマルクが最初に目にしたのは、マホロアとアイシェが2人で仲良く談笑しながら朝ご飯を準備している光景だった。

アイシェ「あ、おはようタランザ、マルク。」

マホロア「ご飯出来てるカラ、顔デモ洗ってきなヨ。」

マルク「ヘイヘイ、分かったのサ。」

タランザ「行ってくるのね。」

昨日の荒れ具合から一転してご機嫌なマホロアに2人は安心して顔を洗い、その後は4人で朝ご飯を食べたが…

マホロア「マルク、タランザ。」

食べ終えて寛いでいたマルクとタランザに、マホロアが声を掛けた。

マルク「ん、どうしたのサ?」

タランザ「珍しく真剣な様子なのね。」

マホロア「一言余計ダヨ。それより……ソノ…エット…。」

悪態を吐きつつも、少し気恥ずかしい様子でモゴモゴしているマホロアに、アイシェが優しく寄り添う

アイシェ「マホロア。」

マホロア「…ウン、マルク……キミの心の中を見せテ。」

アイシェの手をぎゅっと握り、突然そんな事を言い出すものだから…マルクは驚きで紫の瞳を見開いた!

マルク「なっ…突然何を言い出すのサ!?」

タランザ「心の中を見るってどういう…大体ボクに何の関係があるのね?」

マホロア「言葉通りダヨ…キミの魔力を一時的にロックして、タランザの操りの魔術で心の声を聞かせテ欲しいんダ。」

マルク「何でそんな事する必要があるのサ!?」

マホロア「ホント~にアイシェの事を友達としか思って無いのか不安なんダヨ!ボクだってコンナ事頼みたく無いヨォ…デモ…デモ……ッ…!!」

そう話すマホロアの黄色い瞳は揺れていて…表情からも本気で不安を抱えているのだと伝わってくる

マルクはマホロアをじっと見た後に、はぁぁ~っと盛大に溜息を吐くと口を開いた。

マルク「…ボクがいくら言った所で不安なんだろ?」

マホロア「……ウン…。」

マルク「…全く、仕方無いのサ…。」

マホロア「マルク…!」

マルク「勘違いするなよ、ボクはお前の為に協力するんじゃないのサ。アイシェと一緒に遊んだり散歩に行ける為なのサ。」

マホロア「分かってるヨォ。」

あくまでもアイシェとの為にと強調するマルクに内心は感謝しつつ、マホロアは今度はタランザの方を向いた。

タランザ「…………。」

マホロア「タランザ、お願いダヨォ…。」

タランザ「…今回は特別なのね。」

マホロア「タランザ…アリガトウ!」

ふぅ…と溜息を吐きつつも、タランザは穏やかな笑みを浮かべていて、マホロアは安心した。

その後、準備が進められて…マホロアの部屋に全員が集まった。

アイシェ「どんな風に魔力を封じるの?」

マホロア「まずボクが、マルクの魔力を一時的に封じる魔術をかけるんダ。」

タランザ「そしたらボクがマルクに操りの魔術をかけるのね。」

マホロア「アイシェはベッドの上で待っててネ。」

アイシェ「うん。」

彼に言われた通りにアイシェはベッドの上で待機し、マホロアは床に座るマルクの前に立って詠唱を始めた

すると床に大きな魔法陣が出現し、マルクの体が淡く光り…そのまま体の外に出てきた

マホロア「ヨシ、ロックするヨ。」

マルク「分かったのサ。」

目を閉じたマホロアが再び詠唱すると、キラキラと輝く青白い鎖が出現して…マルクから出てきた光に絡みついてそのまま消えた。

マホロア「一時的に魔力がロックされたヨ、気分は悪くないカイ?」

マルク「脱力感があるけど、他は問題ないのサ。」

マホロア「コレなら大丈夫そうダネ、タランザ。」

タランザ「分かったのね、それじゃあマルク…ボクの目をよく見て。」

そう言うとタランザはマルクの目の前に来て、マルクとじっと見つめ合う…

マルク「…男同士で見つめ合うのはちょっと不思議な光景なのサ…。」

タランザ「でも目を反らさないで、ちゃんと見ててね。」

じーっと見つめ合う2人…すると、マルクの紫の瞳が段々と光を失って虚ろになっていく

アイシェ「(大丈夫かな…。)」

心配するアイシェが様子を見守る中、タランザはマルクの様子を見てからマホロアの方を向いて頷いた。

マホロア「それじゃあ行くヨ…マルク、キミはアイシェの事をどう思っテル?」

マルク「…好きなのサ。」

アイシェ「(マルク…まだ私の事を…!?)」

マホロア「ッ………ソレは、1人の女の子としてなのカイ?」

動揺を隠せないマホロアだったが、何とか落ち着かせて質問を続けた

すると…

マルク「…前は1人の女の子として好きだったのサ……初めて会って…アップルパイを貰ったあの時からずっとずっと好きだったのサ。マホロアなんかに取られたくなくて…勢いで告白したけどな…。」

アイシェ「(……………!!)」

あの時から彼は自分の事を…初めて知った事実に、アイシェの青い瞳は驚きで見開かれた。

マホロア「……今はどう思っテル?」

正直、返事を聞くのが怖かった…

しかし、聞かずにはいられなかった…

この不安を解消して、あんな風に喧嘩にならない様にしたい…

湧きあがる不安を押し殺して、マホロアは質問をした。

マルク「……今は……。」

マホロア「…………。」

マルク「今は、大切な友達なのサ。」

アイシェ「(マルク…!)」

マルク「…こんな事言うのはガラじゃねーけど…アイシェはこれからもずっと「大切な友達」なのサ。」

タランザ「…もういいのね、マホロア?」

マホロア「ウン、充分ダヨ。」

タランザ「分かったのね。」

彼の答えを聞いたマホロアは安心し、タランザがマルクの前で指をパチンと鳴らすと瞳が元に戻った。

マルク「これでいいのサ?」

マホロア「キミの本心が聞けたカラネ、もう大丈夫ダヨ。」

そう言うとマホロアは呪文を詠唱し、マルクの前に再び鎖と光が現れ…

パキンッ…鎖は小さな音を立てて砕けると、光はマルクの体に戻っていった。

マルク「おー、体が軽いのサ。」

そう言うとマルクは座ったまま翼を出して、煌めきの羽もより一層輝いていた

マホロア「…回りくどい事をしテ悪かったヨ。」

マルク「ま、コレでアイシェと気兼ねなく夜の散歩にも行けるからいいのサ。」

魔法陣が消えたのを確認して、アイシェはマルクの元へ歩いて行き…

アイシェ「マルク、ありがとう。」

改めて彼の気持ちを知ったアイシェは、お礼を言った。

マルク「全く……お前はホントに鈍かったのサ!」

そう言うと、マルクはアイシェの弱点である脇腹を少しくすぐった

アイシェ「あははっ…くすぐったいよぉ…!」

くすぐったさに笑うアイシェに、マルクもちょっぴり意地悪な笑みを浮かべつつも口を開いた

マルク「早速だけど、今夜一緒にどうなのサ?」

夜の散歩に誘うマルクの表情は一転して穏やかで、アイシェも優しい笑みを浮かべて返事をしようとしたが…

マホロア「ダメダヨォ、今夜はボクと一緒に過ごすんダカラ。」

突然マホロアがそう言って、アイシェをぎゅっと抱きしめた。

アイシェ「え、マホロア…?」

マルク「はぁ!?お前話が違うのサ!」

マホロア「2人で出かけてもイイケド、今夜はダメって言ったダケダロォ。」

マルク「お前いつも一緒に居られるんだから、今夜くらい譲れよ!」

マホロア「今夜と言わず常に一緒に居たいくらいなんだカラ、ボクに感謝して欲しいヨ!」

せっかく夜の散歩に行けると思ったのに、譲らないマホロアの態度にマルクは段々とビキビキし始めて…

マルク「お前何も変わってねーな!」

マホロア「ハァ~コンナに心が広いのに何言ってんノ!」

マルク「心が狭いの間違いだろ!」

マホロア「テメーの頭の中身に比べれば格段に広いヨ!」

アイシェ「2人共、落ち着いて…!」

タランザ「マホロアは今夜くらい行かせてあげるの、マルクも挑発しないのね!」

アイシェとタランザが制止に入るも、2人が止まる事は無く…

マルク「ボクが馬鹿って言いたいのサ!?」

マホロア「それ以外にネーダロ馬鹿ピエロ!」

マルク「この性悪腐れ魔術師が!」

マホロア「このクソピエロ、やんのかヨ!?」

マルク「やってやるのサ、イカサマタマゴ!」

アイシェ「(どうしたら止められるの…!?)」

口喧嘩が止まらない2人はビキビキしていて、アイシェが困り果ててオロオロしていると…

タランザ「いい加減にするのね!」

マルク「んー、んんんんんっ!!」

マホロア「ンーンンンッンンー!!」

ついに乱闘寸前までいった所で、怒ったタランザによって繭ポンポン状態にされてしまったのだった。

To be continued…