小説「夢結ぶ星りんご」~言葉の刃~

驚いているカービィ達とは対象的に、マホロアは目をつり上げて更に怒る

マホロア「どういう意味ダヨ!ボクがいつ浮気したっテ言うんダ!!」

アイシェ「だってマホロアが…スージーを押し倒してた…!」

まさか見られていたなんて!マホロアは驚いたが、今は怒りの感情の方が勝っていて…

マホロア「アレは事故ダヨ、アンナ事デ浮気なんて疑われタラ堪ンネーヨ!」

アイシェ「っ……!」

マホロア「馬鹿なコト言ってないデ帰るヨ!」

アイシェ「嫌…今のマホロアは怖い…帰りたくない…!」

そう言って怒るマホロアだが、アイシェは更に怯えてしまうばかりで…耳をペタンと垂らし、自分を抱きしめているカービィに顔を埋めてしまった。

バンワド「アイシェ…!」

カービィ「怒鳴らないであげてマホロア、アイシェがもっと怖がっちゃう…!」

しかし…今のマホロアにはカービィの言葉も、自らの怒りと言う名の火に油が注がれていく結果となり…

マホロア「…ハァァ~~~いい加減にシテヨ!!」

怒鳴るマホロアにアイシェはビクッとしつつ、口を開いて…

アイシェ「…スージーは素敵だし…機械のお話も出来るし…マホロア…私に飽きちゃって…だから押し倒してたのかなって…思って…。」

その言葉に、マホロアの中でプツンと何かが切れる音がした。

マホロア「……ナラ、アイシェもそうなんダロ?」

アイシェ「えっ…?」

マホロア「きっと生前アイシェが遊んでたゲームの世界みたいに、ボク達の事も飽きテすぐに忘れチャウんダロウネ。」

アイシェ「そんな…私は……」

デデデ「おい、やめろマホロア!」

今まで黙って聞いていたデデデも流石にマズイと思って口を出したが、マホロアは手に持っていたリボンと通信機チャームを握り締め…

マホロア「アイシェなんテ……元カラコノ世界に居た住民じゃない癖ニッ!!」

そう叫んで、マホロアはアイシェに向かってリボンと通信機チャームを投げた!

心にも思っていないのに…そんな事を言ったらどうなるか分かっているはずなのに…マホロアもアイシェもお互いに感情を抑えきれず、それは鋭い言葉の刃となってお互いの心に突き刺さった!

カービィ「マホロア!!」

自分の名前を呼びながらリボンと通信機チャームを掴んだカービィに、マホロアは漸く我に返りハッとした!

マホロア「カー……ビィ……!!」

しかし…もう遅かった

アイシェ「っ……ひ…っ…く…ひっく……!!」

バンワド「アイシェ!」

その場に崩れ落ちて、両手で顔を覆って大泣きしているアイシェの声が響き…

マホロア「ア…アイシェ…アイシェ……ッ……!!」

青ざめてガタガタと震えながら、マホロアはアイシェの元へ行こうとしたが…

デデデ「バンワド、カービィと一緒にアイシェを部屋へ連れて行け。」

バンワド「はい。」

マホロア「アッ……!」

デデデの命で、カービィと共にバンワドはアイシェを抱き上げて後ろの通路から部屋を出て行き…

マルク「マホロア…お前…。」

バツが悪そうなマルクが声を掛けたが、最早マホロアには何も聞こえていなかった…。

またアイシェを傷つけた…今度こそ嫌われた…

罪悪感と絶望、悲しみに襲われるマホロアに、デデデがポンっと頭に優しく手を乗せた。

デデデ「マホロア。」

マホロア「大王…ボク…ボク…ッ…!!」

デデデ「お前がアイシェを大事に想ってるのは分かってる、けど今はお互いに時間を置いてからの方がいい。アイシェも分かってるはずだ、今日はローアに帰って落ち着いてから、2人でゆっくり話せ。」

マホロア「……ウン…。」

失意のどん底の中、マホロアはマルクと共にローアに戻り…

マルク「客人用の部屋を借りるのサ、とりあえずお前も今日はゆっくり休むのサ…。」

そう言ってマルクは部屋へ向かい、マホロアはヨロヨロとソファに向かったが…

ウィン…暗い中でローアのモニターが勝手に付いて、アイシェがお弁当を作っている様子が映し出された

マホロア「ローア……コレは…?」

その後はキッチンへ向かう様にメッセージが表示され、マホロアが向かうとそこには蓋が乗ったお皿が置いてある

まさかアイシェが自分に…?そう思いながらそっと蓋を開けると…そこには自分の形のおにぎりや好物のおかずばかりが詰められていて…傍にはラベンダーと桜のクッキーが入った小さな袋もあった。

アイシェ『ふふっ、マホロアは甘い卵焼きが大好きだもんね。』

いつの日か、アイシェと卵焼きを作りながらそんな話をした事を思い出して…痛いくらいぎゅっと胸が締めつけられる中、近くに置いてあったフォークでそっと卵焼きを取り口にすると…ふわっと甘い香りが口内に広がる

マホロアは手袋を脱ぐと、一心不乱におにぎりを頬張り、おかずを次々と口に運んだ

その黄色い瞳からはボロボロと大粒の涙が零れ落ちて服を濡らしていくが、お構いなしに食べ続けて手に付いたご飯粒やおかずも全て舐め取り、クッキーも頬張って…あっという間に完食した。

お腹が満たされた所で改めて自分に対して腹を立て、アイシェへの申し訳無さで心は苦しくなり…更に涙が溢れる

マホロア「ボクは……何て酷い事ヲ……ッ……!!」

その場に蹲って声を上げて泣くマホロアは、ローアの優しい風に撫でられ…しばらくして泣き疲れてそのまま眠ってしまった。

それぞれの場所で沈んだ気持ちのまま夜は更け…

夜中…泣き疲れて眠っていたアイシェがそっと目を覚ますと、窓の外では今も激しい雨が降っていて…まるで自分の心を映している様だった。

マホロアが自分を責めている様に、アイシェもまた自分を責めていた

浮気を疑われた時に言ってしまった、心にもない言葉…何て酷い事を言ってしまったんだとアイシェは激しく後悔した

もう彼の傍に居られない…居る資格が無い…

アイシェは乾いた自分の服に着替え、リボンとチャームを持ってそっとデデデ城を抜け出して走り出した。

真っ暗な道の中ひたすらに走り続け…気がつくとワールドツリーの根元に来ていた。

アイシェ「うっ…ぐすっ…!」

あの時のマホロアは怒りつつも、悲しい顔をしていた…

とても酷い事をしてしまった…きっとマホロアに嫌われてしまった…

どうしてこの世界に生まれ変わったのだろう…

こんなに苦しく悲しいのなら………

深く絶望して、そのまま蹲って泣いているアイシェだったが…その暗闇に紛れて大きな影が迫る…

その影はそっとアイシェの体を包み込み…囁いた

影『少女よ、絶望しているのですか?』

アイシェ「ぐすっ…ひっく……誰…?」

溢れ出る涙を拭いながらゆっくりと顔を上げるアイシェだが、周りには誰も居ない…

影『この世界に絶望しているのですね…ならば、ワタクシに捧げなさい。』

そう言うと、アイシェの目の前にドロリと闇の塊が現れて…そこから黄色く光る鋭い瞳が覗く。

アイシェ「っ………!!」

色こそ同じだが、マホロアとは明らかに違う…今まで見た事の無い悍ましい瞳に、アイシェは恐怖で声が出ない…

するとその瞳は弓なりに細められ、ズズズ…と真っ白な両手が現れて震えるアイシェを包囲する様に左右に置かれた。

影『ワタクシの力が察知したのですよ、貴女の深い悲しみと苦しみ、絶望をね。』

そこから徐々に顔、体が姿を現したが…その姿はかつてのクラウンに囚われたマホロアよりもずっと大きく邪悪で、アイシェは青い瞳を見開いて恐怖に怯える事しか出来ない。

アイシェ「あ…あぁ……!!」

漸く声を絞り出しても、言葉は出てこなくて…逃げようにも体は震えて動かない…

影『ククク…ワタクシがゆっくりと絡め取ってあげましょう…貴女の中でねっ!!』

アイシェ「嫌…やめて……っ……!!」

震える体で弱々しくも抵抗するアイシェだが、足下から徐々に体が闇に包まれて…完全に包み込まれた直後に影は消え、アイシェはワールドツリーの根元に倒れた。

朝…

タランザ「昨日は酷い雨だったの、ワールドツリーが無事だといいんだけど…。」

降りが弱くなってきたので、ワールドツリーを心配したタランザが様子を見に降りて来ていた。

しばらく飛んでワールドツリーに辿り着き、いつも通り美しい花を咲かせていて安心したが…ふと下を見ると根元にアイシェが倒れている!

アイシェ「……………。」

タランザ「アイシェ、どうしたのね!?」

驚いたタランザが降り立ってアイシェを抱き上げると…

アイシェ「はぁ…はぁ…。」

全身ずぶ濡れのアイシェは、酷く震えていて体は熱く…

タランザ「酷い熱なの!」

そのままアイシェを連れて城へ戻ったタランザは、アイシェの服の上からタオルで包んで暖炉に火を付け、座りながら彼女を抱き抱えた。

同じ頃…居なくなったアイシェを捜して、デデデがローアへ来ていた

マホロア「ソンナ…ココにも帰って来て無いヨ…!」

デデデ「メタナイトも捜してくれてるんだが見つからなくてな…引き続き捜してくる!」

そう言うとデデデは出て行き、マホロアも捜しに出ようとしていたその時!ローアのモニターにアイシェの通信機チャームから連絡が入った。

マホロア「アイシェ!ドコに居るノ!?」

タランザ『マホロア!』

心配したマホロアが声を掛けたが…帰ってきたのはタランザの声だった。

マホロア「タランザ、どうシテ…!?」

タランザ『ワールドツリーの様子を見に行ったら、アイシェが倒れてるのを見つけたの…けど酷い熱を出してるのね!』

マホロア「エッ!?」

タランザ『今は雨が段々弱まって来たから、すぐに迎えに来て欲しいの!』

マホロア「分かっタ!」

タランザとの通信を終えたマホロアは、マルクを叩き起こして用件だけ伝えると替えのマントを持ち、ローアを飛び出してフロラルドへ向かった!

To be continued…