まめお「……………。」
この日、まめおはスルメさんのお店の手伝いで家を空けていた。
まめみがポナと2人でバイトに行っていたのは知っていたが、夕方帰るとまさかこんな意外な「客」を連れ帰っているとは思いもしなかったわけで…。
子ジャケ「キュッ、キュッ!」
まめみ「どうしたの、まめお?」
まめお「…どうしたのじゃねぇよ…どうすんだよお前…こいつシャケの子だろ…。」
まめみ「だって、弱っててあのままだと死んじゃってたかもしれないもの…。」
まめお「まぁ…状況が状況だったみてぇだけど…だからといってこのままここで面倒見る訳には…。」
ポナ「とりあえず、怪我が治るまではって話だから…ね、まめお…。」
まめお「ん…まぁ今の所は攻撃してくる様子は無いからな…ポナの言う通り、怪我が治ったらすぐに帰すぞ。」
まめみ「うん、約束する。」
子ジャケ「キュッ!キュッ!」
この子ジャケは生まれたばかりなのもあってか、武器のスプーンも持っていなければ敵意を向ける気配も全くない。
まだ傷は痛々しいものの、元気いっぱいだ。
まめみ「そうだ、せっかくだし名前は付けてあげようよ。」
まめお「まぁ、このまま名無しでいるわけにもいかないしな。」
まめみ「あたし、可愛い名前思いついてるの。」
ポナ「へぇ~どんな名前なの?」
まめみ「この子、ちょっとふっくらしててドスコイに似てるし、『ドスコイまる』!ね、可愛いでしょ?」
まめお「……………。」
ポナ「……………。」
ドスコイまる……可愛いというより…何て安直な名前なんだ…2人は内心そう思って言葉を失った。
まめみ「2人共どうしたの?」
まめお「どうしたって…お前センスな…ぐふっ!」
いつもの調子で軽口を叩こうとしたまめおに対して、ポナは肘で彼の脇腹を突いた。
ポナ「(まめお!)流石まめみ、可愛らしい名前だと思うよ。」
まめみ「ほんと!?ありがとうポナ君!」
まめお「(おいポナ!何するんだよ!)」
ポナ「(ここでまめおがあんな事言ったら、まめみがまたブキ担いじゃうかもしれないでしょ…前みたいにハイドラントで家中撃たれたらたまんないし…。)」
まめお「(た…確かに…あれは酷かったぜ…!)」
流石ポナ、2年も一緒にいれば彼女の事もよく分かっていて…まめおは脇腹をさすりつつも事前に防いでくれたポナに感謝した…。
まめみ「貴方はどうかな?」
子ジャケに向かって優しく笑いながら問うまめみに、赤い瞳をキラキラ輝かせながらじっと見て…
子ジャケ「キュッ!キュッキュッキュッ~!」
どうやら名前を気に入ったらしく、ジャンプして大喜びした。
まめみ「よかった、気に入ってくれたみたい!それじゃあ、今日からよろしくね、ドスコイまる!」
ドスコイまる「キュッ!」
まめお「やれやれ、また賑やかになりそうだな。」
ポナ「俺もお世話を手伝うよ、よろしくね…ドスコイまる。」
ドスコイまる「キュッ!」
こうして、シャケの子供である「ドスコイまる」を一時的に面倒を見る事にしたまめみ達。
同じ頃…海上集落シャケト場では、ある一組のシャケの夫婦が肩を落としていた…。
???「あぁ…私の赤ちゃん…。」
???「……すまない…あっしがもっと早くに付いてきてると気づいてればこんな事には……。」
???「貴方のせいでは無いわダーリン…これも私達シャケの運命…全てが生き残れる訳では無い…自然の摂理には逆らえないもの…。」
そう言って一筋の涙を流した妻を、夫のシャケ…ヘビは何も言わずに優しく抱き寄せた。
あれから一週間後…すっかり真夏になった暑い日の事、まめみはまめお、ポナと共にバイトへ…。
まめみ「ドスコイまる、大丈夫かな…。」
まめお「風呂場の洗面器や湯船にたっぷり水張ってきたし、卵焼きもそばに置いてエアコンもかけて来たから大丈夫だろ。」
まめみ「うん…でも念の為、あたしはバイトが終わったら帰るよ。」
ポナ「うん、分かった。俺とまめおは少しナワバリもやってくよ。」
まめお「何かあったら呼べよ。」
まめみ「うん、ありがとう。」
3人は着替えてバイトへ…
~トキシラズいぶし工房~
まめお「そっちにタワーが出たぞ!」
ポナ「了解、任せて!」
カンカンカン…
まめみ「モグラが行くよー!」
まめお「おう!」
3人ではあるものの、見事な連携で着々と金イクラを集めていく…
そして、ノルマ達成した後は集めずになるべく引いて負ってくるシャケを倒していく…必要以上には倒したくないという、まめみ達のスタイルである。
しかし…1匹のヘビの様子が明らかに違った…。
ヘビ「……………!(この匂いは…!)」
まめみ「な…何…!?」
ヘビ「(間違い無い…この匂いは…!)」
まめお「まめみ!」
ポナ「危ない!」
遠くに離れたまめみに対してヘビがどんどん迫っていて…まめおとポナはシャケの攻撃をかわしつつまめみの元へ急いだ。
追い詰められたまめみ、後ろには海が…
まめみ「あぁ…!」
しかしヘビはまめみの周りをぐるぐると周り、攻撃してくる様子は無い…。
すると…バイト終了のお知らせが流れた…。
しかし、他のシャケが海の中へ戻っていく中、ヘビはいまだにまめみの周りをぐるぐると回っていた…。
まめみ「な…何なの…!?」
動揺を隠せないまめみ…すると、インク散布装置を止めて機械から操縦手であるヘビが降りて来た…。
ヘビ「……………。」
まめみ「……………!」
シャープマーカーを胸元でぎゅっと握り、警戒をしているまめみ…
すると、ヘビがマスクを外して口を開いた…。
ヘビ「…嬢ちゃん、お前さんこの前ドン・ブラコに居たよな?」
まめみ「ド…ドン・ブラコ…うん…居た…よ……。」
ヘビ「あの時…」
何かを言いかけたヘビだったが……
ズドン!
ヘビの足下にはオレンジのインクが…
まめお「まめみに近づくな!」
ポナ「俺達が相手だ!」
まめみ「まめお…ポナ君…!」
上を見ると、高台からリッター4Kを構えたまめおとラピッドブラスターを構えたポナがヘビを睨みつけていた。
ヘビ「…また日を改める……機会があったら今度こそ話を聞かせて貰おう。」
そう言うとヘビは機械に乗り、海へと戻っていった…。
まめお「まめみ!」
ポナ「大丈夫、まめみ?」
2人はヘビが海に消えたのを確認すると、飛び降りてきてまめみの傍へ駆け寄った。
まめみ「こ…怖…かった…!」
2人が来た事で安心したまめみは足下からふにゃりと崩れ落ち、ポナが優しく支えた。
まめお「あのヘビ…一体何がしたかったんだ…?」
まめみ「何か…あたしに聞きたそうにしてた…。」
ポナ「まめみに…?一体何を…。」
3人は疑問を抱えたまま、迎えの船が来るまでずっとヘビが消えた海を眺めていた…
その後3人は船で戻り…ポナとまめおはナワバリをする予定をキャンセルして、まめみと共に家に戻った。
同じ頃…シャケト場では先程のヘビが家の外で夕陽を眺めつつ、愛用しているパイプを取り出して咥えた。
ヘビ「……………………。」
パイプを咥えながら夕陽を眺める彼の赤い瞳には、様々な感情が映し出されているのだった。
To be continued…