いつもより少し遅い朝食の後に、マホロアはアイシェが焼いてきてくれたクッキーを食べた。
ふわっ…食べた瞬間にラベンダーの良い香りが口内に広がり、マホロアの瞳はキラキラ輝いた。
マホロア「ワァ…すごくイイ香りダネ!」
アイシェ「タランザがね、そのラベンダーっていうお花にはリラックス効果があって、眠れない時や疲れてる時に効果は抜群って言ってたの。」
マホロア「ボクがテーマパークの事デ休んでない時があるノ、ソコまで心配してくれてたんダネ。」
アイシェ「うん、いつもすごく心配だったの…声をかけてもなかなか休んでくれない時もあったし…。」
マホロア「アイシェ…。」
アイシェ「これからはいつでも作れるから、遠慮無く言ってね。」
そう言って優しい笑みを浮かべる彼女に、マホロアの心は嬉しさで溢れて…そのまま抱きしめた。
マホロア「アリガトウ、アイシェ…大好きダヨ。」
アイシェ「どういたしまして、私も大好き。」
抱きしめ合っているだけなのにお互いにどんどん愛情で溢れてくる、2人はそれをとても心地良く感じていて…この日はずっと傍を離れずに、2人だけの時間を過ごした。
それから数日後…この日はタランザが遊びに来て、アイシェがアップルパイを焼いている間、マホロアとローアの外に置いたカフェテーブルでお茶をしながら待つ事に。
タランザ「アイシェから聞いたけど…ラベンダーのお花のクッキー、キミによく効いたみたいなのね。」
マホロア「お陰様デネ、溜まっていた疲れも取れタヨ。」
タランザ「それは何よりなのね。」
マホロア「ククク…違う意味で溜まってたのも解消されて、スッキリしたヨォ。」
タランザ「…深くは聞かないでおくのね。」
マホロア「ンン~~ボクはまだ何にも言ってないヨ、それなのにどうシテ顔が赤いんダイ?」
タランザ「なっ…!」
マホロア「クックック…キミはホント~に初ダネェ。」
タランザ「マホロアァ…キミって奴は…!」
マホロア「ソンナに油断しちゃうと…危ないヨォ?」
そう言いながらマホロアはアップルティーを口にしたが…
タランザ「…そうはいかないのね。」
パチッ…!小さく音がしてタランザの右手が握られ…そのまま開くとキラキラした小さな欠片の様な物が落ちて消えていった。
マホロア「コレくらいでは効かないカ…。」
タランザ「ボクだって実力はあるの、キミには劣らないのね。」
マホロア「フ〜ン、言うネェ…じゃあキミの実力を見せてヨ。」
タランザ「クフフ、操りの魔術師の力を見せてあげるのね。」
マホロア「イイ度胸ダネェ、真実の魔術師の力にひれ伏すがイイヨ。」
タランザ「キミは真実の魔術師じゃなくて虚言の魔術師なのね!」
マホロア「エ~何の事か分からないナァ~。」
こうして…虚言の魔術師マホロアと、操りの魔術師タランザの「術返し」が始まった。
お茶をしながらお互いに隙を伺う高度な心理戦…雑談をしながら自然に、かつ相手にバレない様に魔術をかけるのだ。
最初は1年前のマスタークラウンの件で話が始まった
タランザ「欲に溺れてそんな物に手を出すなんて、あまりにも愚かなのね。」
マホロア「ソレに関しては反論の余地もないネェ。」
タランザ「アイシェとカービィが助けてくれなかったら、今頃キミはここに居ないのね。」
マホロア「ホント〜にその通りダヨ。」
タランザ「キミにしては珍しく素直なのね。」
そう言いながら、タランザはテーブルの下でそっと手を回し…マホロアの下に小さな魔法陣を出したが…
マホロア「バレバレなんダヨネェ~。」
パンッ!魔法陣はそのまま割れて消滅した。
タランザ「相変わらず掴みづらい奴なのね、キミは…。」
その後、話はフロラルドでの事になり…
マホロア「キミの幼馴染み、やってた事が過激なんダヨ。」
タランザ「…あの鏡…ディメンションミラーがあんな力を持ってたって知ってれば、彼女はあんな事にならなかったのね。」
マホロア「ま、ボクはアイシェさえ無事ならどうでもイイケドォ。」
タランザ「アイシェは今のボクにとって、ワールドツリーと同じくらい大切な希望…彼女には感謝しかないのね。」
マホロア「アイシェに感謝してもらうのはいいケド…ボクから奪おうとしたらブッ殺すヨ。」
タランザ「発言が物騒なのね!」
マホロア「当たり前ダロ、アイシェはボクの恋人なんだカラ!」
そう話しつつ、マホロアは座ったまま伸びをしたが…
タランザ「引っかからないのねっ!」
ポシュンッ!マホロアの魔法陣がタランザの技「タランザボウル」で消された。
一方でマホロアも…
マホロア「ソレで出し抜いたつもりカイ?」
タランザの出した魔法陣を、魔力球で消した。
タランザ「むぅ、やるのね…。」
マホロア「ヤレヤレ…キミと術返しをすると、決着が着かないネェ…。」
タランザ「このままだと日が暮れるのね…。」
そんな話をしていると…焼きたてのアップルパイのお皿を持って、アイシェがローアから出てきた。
アイシェ「マホロア、タランザ!」
マホロア「アイシェ!」
アイシェ「お待たせ、アップルパイが焼けたよ。」
マホロア「ワォ、今日も美味しそうダネェ!」
タランザ「良い香りなのね~!」
喜ぶ2人にアイシェも嬉しそうに笑いながら向かって来る。
マホロア「タランザ、術返しはこれで終わりダヨ。」
タランザ「賛成なのね、アイシェのアップルパイを食べて楽しく過ごした方がいいのね。」
アイシェ「術返しって?」
タランザ「術返しっていうのは…」
興味津々に聞きながら歩いてくるアイシェに、タランザが説明を始めたその時…
マホロアはマフラーの下でニタァ…と口角を上げると、聞こえないくらい小さな声で何かを呟いた。
ブワッ!!
突然強い風が吹き、アイシェのスカートが下からの風を受けて捲れ上がる!
アイシェ「きゃあっ!」
両手が塞がっていて抑える事が出来ないアイシェは目を瞑り、風は勢いよく吹いてよろけてしまった拍子に彼女の太ももが見えて…何ならもう少しで下着も見えてしまうギリギリの状態で…
タランザ「あわわっ…!」
彼女の太ももが正面から目に入ってしまって驚くタランザ、するとマホロアが…
マホロア「油断したネ。」
アイシェに聞こえないくらいの声でそう言うと、タランザに向かって小さな魔力球をぶつけた!
タランザ「あ痛っ!!」
するとどうだろう、風は弱くなり…アイシェはそのまま転びそうになってしまい…
アイシェ「きゃあぁ!」
マホロア「オット、大丈夫カイ?」
アップルパイごと倒れそうになったアイシェをマホロアが右手で抱き留め、左手でアップルパイをふわふわと浮かせている。
アイシェ「ありがとう、マホロア。」
マホロア「どういたしましテ。」
アイシェ「今の風、何だったんだろう…?」
マホロア「きっと風が、ボク達の仲に嫉妬したんダネ!」
アイシェのピンチを救ったマホロア…一見すると微笑ましい光景だが、タランザは魔力球をぶつけられたおでこを摩りながら頬を真っ赤にしてプルプルしていて…
タランザ「何するのねっ!」
そう言って怒るタランザだが、マホロアは黄色い瞳を弓なりに細めて笑い…
「チェックメイト!ダネ、ボクの勝ちダヨォ。」
タランザ「キミがズルしたからなの、無効なのね!」
マホロア「言いがかりはよくないヨ?」
タランザ「事実なのね、もう一度正々堂々と勝負するのねっ!」
そう言ってタランザは抗議したが、マホロアは全然耳を貸さずにアイシェを抱き留めたまま彼女の頬にスリスリしていて…
マホロア「アイシェからも、アップルパイの香りがするヨォ~。」
アイシェ「えぇ…ほんと?」
マホロア「何ならボク、アイシェも食べちゃいたいナァ~!」
アイシェ「ま…マホロア…!」
タランザ「………はぁぁ〜〜。」
頬を真っ赤にするアイシェの反応がマホロアは心底楽しそうで…タランザはそんな彼の様子を見て、盛大に溜息を吐いた。
その後、アイシェがアップルパイを切り分けて3人で食べ始めて…
アイシェ「すごい、お話しながら術を返し合う…そんな事も出来るんだね。」
術返しの話をタランザから説明してもらったアイシェは、青い瞳を輝かせて関心している
タランザ「例え目を合わせていなくても、魔力を張り巡らせて気配を察知するのね。」
マホロア「腕の立つ魔術師じゃないト出来ないカラ、普段はコンナ事しないケドネ。」
アイシェ「2人共とっても強いもんね、ふふっ…かっこいい。」
マホロア「タランザ聞いたカイ!?アイシェがボクをかっこいいって褒めてくれたヨォ!」
タランザ「2人共って言ってたのね、どんな都合のいい頭してるの!?」
マホロア「羨ましいカラって嫉妬は醜いヨォ〜。」
タランザ「嫉妬じゃないのね!」
アイシェ「もう、喧嘩しないで仲良くしてね。」
じゃれ合う2人に困った様に笑いつつ、アイシェが席を立ってアップルティーを補充しに再びローアへ戻った隙に、マホロアが口を開いた。
マホロア「…アレくらいで狼狽えるナンテ、キミもまだまだダネェ〜。」
タランザ「やっぱりあの風は、マホロアが起こしたのね!」
マホロア「キミはアイシェに術返しの説明をしようとシテ、一瞬だけ隙が出来たんダ…その時にアイシェの足元に小さな魔法陣を出したのサ。」
タランザ「な…ななな…!」
驚いて言葉が出てこないタランザに、マホロアは再び瞳を弓なりに細めて意地悪な笑みを浮かべ…
マホロア「クックック…アイシェの太ももを見たダケであの反応なんだモン、ホント~に耐性が無いんだネ。ま、今回は特別だったケド、今度アイシェの太ももを見たら生きて帰さないヨ。」
タランザ「(コイツ…やっぱりそういうところは全く変わってないのね!!)」
クックックと笑いながらアップルパイを美味しそうに頬張るマホロアに対し、頬を真っ赤に染めつつ何も言えないタランザは心の中で毒づいた。
マホロア「(ブラボー!アイシェの太ももは、やっぱり最高ダネェ、後でた~っぷり撫で回そうっト!)」
タランザを出し抜いた事に満足するマホロアは、先程見たアイシェの太ももを思い出して内心喜びつつ、アップルパイを食べるのだった。
To be continued…