小説「夢結ぶ星りんご」~洗濯日和は危険な香り?~

ある日の事

ポカポカ陽気で洗濯日和だったので、アイシェはたくさんの洗濯物を洗って干していた。

マホロア「天気イイカラ、よく乾きそうダネ。」

アイシェ「せっかくだから、シーツやカーテンも洗っちゃうよ。」

マホロア「今夜はお日様の香りで、よく眠れそうダヨォ。」

アイシェ「ふふっ、マホロアお日様の香りがお気に入りだもんね。」

マホロア「お日様の香りは安心するんダ、デモ一番はアイシェの香りダヨ。」

そう言ってマホロアはぎゅーっと抱きついて来たが、右手を素早くアイシェの腰に回してきて…

アイシェ「マホロア…!」

マホロア「今からた〜っぷりアイシェの香りに染まりたいナァ~?」

アイシェ「今は朝だし、洗濯物を干してるからダメ。」

そう言ってアイシェがマホロアの頬を手でやんわりと押すと、ぷにっと柔らかい感触が伝わる。

マホロア「ムゥ~お預けかヨォ…………ま、イイヤ。」

アイシェ「えっ?」

珍しくマホロアがすぐに諦めたので、少し驚いてしまったアイシェだが…

マホロア「ボクは部屋で魔法の研究をしてくるヨ。」

アイシェ「魔法の研究?」

マホロア「薬を作ったり、新しい魔法を会得する為の研究ダヨ。危ないカラ入らないデネ。」

アイシェ「うん……でも、マホロア自身は大丈夫?」

危ないと聞いてマホロアの身を心配したアイシェに、マホロアは優しく笑って彼女の頬にキスをした

マホロア「大丈夫ダヨ、ボクにとってはモウ慣れてる事ダカラネ。」

アイシェ「よかった…でも無理はしないでね。」

マホロア「ウン、約束するヨ。」

お互いに抱き合い、アイシェが安心したのを確認してマホロアは部屋へ向かったが…その瞳は弓なりに細められて、マフラーの下では口元が弧を描いていた。

その後…アイシェが別に洗った分の洗濯物を干していると、マルクが遊びに来た。

マルク「アイシェ、遊びに来たのサ!」

アイシェ「マルク、いらっしゃい!」

マルク「随分とたくさんの洗濯物なのサ。」

アイシェ「絶好の洗濯日和だったから、カーテンやシーツも洗っちゃったの。」

マルク「今日はいつにも増して、天気がいいもんな。」

アイシェ「私のお部屋で待ってて、干し終えたら行くから。」

マルク「分かったのサ。」

彼女に言われた通り、マルクは部屋へ向かって寛ぎ始めた。

アイシェの部屋は綺麗で、彼女の甘くて良い香りがする…そしてマルクはそれをとても心地良く感じていた。

一方…マルクが遊びに来ている事を知らないマホロアは、部屋で1人完成した「金平糖」を見て喜んでいた

マホロア「完成したヨ、やっぱりボクって天才ダネッ!」

自画自賛しながら完成した一粒の金平糖を眺めるマホロア…実は何日か前に読んだ魔術の本で「ある薬」の作り方を見つけて以来、それを作る機会を伺っていたのだ。

一見すればごく普通のピンク色をした金平糖だが、実は仕掛けがあって…早くアイシェに食べさせたくて仕方が無かったマホロアはルンルン気分で部屋を出て行き、外で洗濯物を干しているアイシェの元へ向かった。

そして彼が出て行った直後…なかなか戻って来ないアイシェに痺れを切らしたマルクが、冷蔵庫を漁ろうと部屋から出てきた

マルク「アイシェ遅いのサ、何かねーかな。」

そう呟くマルクだったが、マホロアの部屋から何やら甘い香りがする事に気づいた。

行ってみると扉は開いたままで、奥の方では何かの実験をした様で器具が置きっ放しに…

そして一粒の金平糖に気がついて、翼を出してそれをつまんでみると、金平糖は綺麗なピンク色で甘い香りがして…マルクはそれを食べてしまった!

ふわっ…甘い香りが口内に広がり満足したマルクは再びアイシェの部屋に戻って寛ぎ始めた一方で、マルクが部屋に入った事など知る由も無いマホロアは、アイシェに抱きついてスリスリしていて…

マホロア「アイシェ~ボクのお部屋に来てヨォ!」

アイシェ「マホロア、研究は?」

マホロア「モウ終わったんダ、今からはアイシェとイチャイチャしたいヨォ~?」

そう言ってマホロアはアイシェの腰を撫で回しているが…

アイシェ「ま、マホロアぁ…まだ洗濯物が残ってるから…それにマ……」

マホロア「ムゥ…それナラ、終わったら来てヨォ~ボク待ってるカラネッ!」

アイシェ「あっ、待ってマホロア…!」

マホロア「楽しみダヨォ~!」

そう言い残してマホロアはウキウキしながら飛んで行ってしまい、残されたアイシェは青い瞳をぱちぱちさせつつ見ていた。

アイシェ「行っちゃった…マルクが遊びに来てるのに…。」

マホロアには悪いが、洗濯物を干し終えたら先にマルクの元へ行こう…そう思ったアイシェは残りの洗濯物を干し始めた一方で、マホロアは部屋へ戻ったが金平糖がどこにも無くて探していた。

マホロア「おっかしいナァ~ココに置いておいたハズなのニ?」

どこかに転がってしまったのか?そう思いながら部屋中を探すマホロアに対して、ようやく洗濯物を干し終えたアイシェが自分の部屋に戻った。

アイシェ「お待たせマルク。」

マルク「……………。」

声を掛けてもマルクは背を向けたままで、小さくプルプルと震えている…

アイシェ「マルク?」

マルク「っ……あっ……うっ…!」

不思議に思ったアイシェがマルクに近づき、改めて声をかけると…苦しそうな声を出していた。

アイシェ「マルク、どうしたの!?」

マルク「うっ…ぐぅ…あっ…あぁ…!」

アイシェ「どこか痛いの!?」

心配してマルクの背中に触れたアイシェだったが…

マルク「あっ…アイシェ…今は触るな…!」

アイシェ「えっ…?」

マルク「うっ…うぅ…!」

頬を真っ赤にして息は荒く、翼で自身の体をぎゅっと抱きしめてうずくまっている様子に、アイシェはとても心配していて…

アイシェ「マルク、どこが苦しいの…?」

触れない代わりにマルクを覗き込むと、ゆっくりとアイシェの方を向いたが…

マルク「……っ………!!」

アイシェの青い瞳、綺麗な銀髪…みずみずしい唇…それらを見たマルクは紫の瞳を小さくして…

ガシッ!アイシェの腕を掴んでそのまま床に押し倒した!

アイシェ「きゃあっ!」

マルク「あっ…あぁぁ…!」

アイシェ「マルク、マルク大丈夫!?」

心配するアイシェだが、掴んでいる腕の感触からマルクの全身をゾクゾクとした電気の様な感覚が駆け巡り、紫の瞳をギラギラさせながら見下ろしている。

マルク「アイシェ…ェ…ボクから…逃げ…うっ…あぁ…!」

アイシェ「マルク…!?」

目の前で苦しそうなのに何も出来ない…押し倒されているにも関わらずアイシェはマルクを心配し、その青い瞳は揺れていた…。

マホロア「…やっぱり無いヨォ!」

部屋中を探しても金平糖は出てこない…知らない内に誰かがローアに侵入して、部屋に入って食べたに違いない!

そう思ったマホロアは、アイシェを心配して部屋から出て外へ向かおうとしたその時…

アイシェ「マルク、どこがつらいの…!?」

マルク「うっ…ぐっ…っ…!!」

アイシェの部屋から、彼女自身の声とマルクの呻き声が聞こえてくる!

マホロア「アイシェ!!」

驚いたマホロアが部屋へ向かうと、そこにはアイシェを押し倒して息の荒いマルクが居た

 アイシェ「マホロア、マルクが苦しそうなの…!」

 マルク「あっ…っはぁ…はぁ…ぐっ…!!」

泣きそうな顔で助けを求めるアイシェに、マホロアはマルクの様子を見て確信した様で…

マホロア「(コイツ、アノ金平糖を食べたナ!)ボクの部屋で見てみるヨ、アイシェは待ってテ!」

そう言ってマホロアはマルクをアイシェから引き離して、そのまま自分の部屋へと勢いよく連れて行ってしまった。

To be continued…