小説「緑髪の少年(出会い編)」~失敗を恐れないで~

抱きしめる彼女の吐息が耳にかかり、少しくすぐったい。

伝わってくる温もり…それは暖かくて心地良い安心感を与えてくれるもので…

抱きしめたまめみの体は自分より小さく華奢で、強く抱きしめたら壊れてしまいそうで…

まるでガラスを扱うかの様にそっと抱きしめていたけれど、彼女は抱きしめる力を強めた瞬間…僕は彼女を守りたい気持ちが強くなり、抱きしめた腕の力を精一杯強めた。

ポナは布団の上で横になっていたが、昨日から続く酷い体調不良のせいで苦しくて眠れずうなされていた…

ポナ「う…うぅ…。」

まめみ「ポナ君…。」

心配するまめみは、傍で彼の手を握り続けている

すると、スルメさんが水を持ってやって来た。

スルメさん「ポナ、水を持って来たで…少しでも飲んだ方がええよ。」

ポナ「う…ん…。」

まめみがポナを起き上がらせて、ポナはスルメさんから水の入ったコップを受け取り、ゆっくりと飲み始めた

すると今度は、よっちゃんとまめおがやって来た。

よっちゃん「まだつらそうね…。」

まめお「あれからもずっと心配してたんだ…。」

ポナ「ありがとう…でも少しは…大丈夫…だよ…。」

水を飲み終わったコップをスルメさんに渡して、ポナはふぅ…とため息を吐いた。

まめお「さて…ナワバリバトルでもうひと頑張りしてくるか。」

まめみ「うん、そうだね。」

ポナ「………!」

自分も行く!そう思って自力で立ち上がろうとしたポナだったが…体に力が入らず、上手く立ち上がれない…。

まめみ「ダメだよポナ君、休んでなきゃ!」

よっちゃん「まめみちゃんの言う通りよポナ君、今日は体調も悪いんだから休んでてね。」

まめお「ここでまた無理したら、いつまでも治らないぞ。」

ポナ「…うん、そうだね…今日は大人しくしてるよ…。」

まめみ「元気になったら、また一緒にナワバリやろうね。」

まめお「俺達ずっと待ってるから…しっかり治せよ、ポナ。」

ポナ「ありがとう…まめみちゃん、まめお君。」

立ち上がるのを止め、布団の上に座りながら2人を見送ったポナ。

2人の姿が見えなくなった後、スルメさんが口を開いた。

よっちゃん「ポナ君、私が居なかった時に何かあった?」

ポナ「…………。」

よっちゃん「大丈夫よポナ君、何も気にしなくていいわ…何でも言ってちょうだい。」

ポナ「…実は……」

そう言って…ポナは正直に話した

吐き気を催し、トイレにまめみが付き添ってくれたが間に合わず少し床に吐いてしまった事…まめみがずっと傍に居てくれた事…

俯きがちにか細い声でポツリ…ポツリと話すポナだったが、よっちゃんは話し終わるまでずっと…うん、うんと相槌を打って…親身に聞いてくれた。

よっちゃん「可哀想に…つらかったわね…。でもねポナ君、失敗は気にしなくても良いの、間に合わなかったとしてもみんなは許してくれるわ。」

それを聞いたポナは、目を見開いて驚いた顔をした

今までそんな事を言ってくれた人は居なかった…

でも…ここにいるみんなは…許してくれる…

ポタッ…ポタッ…

ポナの頬を伝って涙が零れ落ちた。

体は凄く重くて苦しいのに…その表情は苦しそうにしながらも笑顔だった。

夕方、2人は家に帰り…ポナはよっちゃんが作ってくれたお粥を少し食べた。

スルメさん「顔色もええし、今の所は大丈夫そうやな。ポナ、まめみやよっちゃんも言ってたけど何にも気にせんでええんや、だから安心してな。」

そう言ってスルメさんは優しく笑い、ポナの頭を撫でた。

ポナ「ありがとう…スルメさん…。」

スルメさんに感謝すると、相変わらず優しい笑顔でポナに布団を掛けた

あぁ…体も心も暖かい…ありがとうみんな…

安心感に包まれて、ポナは布団の中で眠りにつき…

朝、目が覚めた時にはもう開店する寸前の時間だった

スルメさん「おはようポナ、顔色もええな。」

よっちゃん「おはようポナ君、今おかゆを準備するわね。」

ポナ「おはようスルメさん、よっちゃん。ありがとう、お願いします。」

スルメさんはお店の準備を進め、よっちゃんが台所へ行ってすぐにまめみが来た

まめみ「おはようスルメさん、ポナ君はどう?」

スルメさん「おはようまめみ、ポナは起きてるで。大分顔色も良くなって、よっちゃんがおかゆ作ってくれとるわ。」

まめみ「よかった、あたしポナ君のお部屋に行って来るね。」

そう言うとまめみは、店の奥へ入りポナの元へ。

ポナ「あ…まめみちゃん、おはよう。」

まめみ「おはようポナ君、本調子まではもう少しかかりそうだね。」

相変わらず心配そうな表情をしながら、まめみはポナの手を優しく握るその手はやっぱり温かくて、ポナは安心感に包まれた。

しばらくして、まめおもやって来た

まめお「おはようポナ、具合はどうだ?」

ポナ「おはようまめお君、少しは良くなったよ。」

まめお「そっか、ゆっくり休んでしっかり治せよ。」

ポナ「うん、ありがとう。」

スルメさん「まだ誰も来んから、様子を見に来たで。」

よっちゃん「ポナ君、おかゆが出来たわよ。あら、2人共来てたのね。」

まめお「おはようよっちゃん。」

まめみ「おはよう。」

よっちゃん「おはよう、2人はご飯食べてきたの?」

まめみ「うん、食べてきたから大丈夫だよ。」

まめお「大盛りのご飯2杯も食ってたもんな。」

まめみ「食べてないわよ、それはまめおでしょー!」

まめお「へへっ!」

ポナ「あはは…相変わらずだなぁ。」

からかわれて怒るまめみに対して、イタズラな笑みを浮かべるまめお。

相変わらずな光景に、ポナは笑ってしまった。

そして、まだ苦しそうにしているものの、息で少し冷ました後におかゆを食べ始めた。

しばらくして、ポナがおかゆを食べ終わった後…

まめお「それじゃあ、ナワバリ行くか。」

まめみ「ごめんまめお、あたし今日はここに残るよ。」

ポナ「僕なら大丈夫だから、行っておいでよ。」

まめみ「ううん、ポナ君が心配なの…だから今日は一緒に居させて?」

ポナ「まめみちゃん…!」

体調が悪い為…瞳の色がずっと「黒」いままのポナだったが、この時一瞬だけ「オレンジ」に変わった。

まめお「そうだな、スルメさんとよっちゃんも店があるから…ポナ1人では心細いだろ…まめみでも居ないよりはマシだろうしな?」

まめみ「どういう意味よ、まめおの意地悪!」

そう言ってまた意地悪な笑みを浮かべるまめおに、まめみはムキになって怒る

まめお「冗談だよ、ポナの事を頼んだぞ。」

まめみ「うん、任せといて。」

そう言うとまめおは1人、ナワバリバトルへ出かけて行った。

スルメさん「ほなボクらもお店に戻ろうか、よっちゃん。」

よっちゃん「そうね、そろそろ賑わってくる頃だし。」

スルメさん「まめみ、後は任せたで。」

まめみ「うん。」

後は彼女に任せて、スルメさんとよっちゃんは調理場へ行った。

またもやポナとまめみの2人きり…

しかしポナはこの時「恥ずかしさ」よりも「嬉しさ」の感情の方が上だった

さっきは「僕なら大丈夫だから、行っておいでよ。」なんて言ったけど…

本当は…まめみちゃんに傍に居て欲しかったんだ

そして…まめみちゃんは残ってくれる

何となく分かっていたんだ「そう言ってくれる」って

…こんな風に、甘えても良いんだよね?

そして1日中、ポナはまめみと共に過ごした。

昼間は体調も安定しており、一緒にいる時間はとても楽しい

しかし楽しい時間はあっという間で、夜になってしまった。

まめお「それじゃあ、帰るかまめみ。」

まめみ「…………。」

まめお「…どうした?」

まめみ「……あたし、今夜はここに泊まる。」

まめお「まめみ…心配なのは分かるけどな、ポナだってお前がずっと居たら緊張して疲れちまう…今日は帰って、ポナをゆっくり休ませてやろうぜ。」

スルメさん「ポナなら僕らが見てるさかい、まめみも休んだ方がええで。」

よっちゃん「そうよまめみちゃん、今日はずっとポナ君を看ててくれたから私達もお店に専念出来たし…まめみちゃんもしっかり寝ないと…。」

まめみ「分かってる…けど傍に居たいの…今日は傍に居させて欲しいの…。」

そう言って少し俯いたまめみは目に涙を溜めて、体は小さく震えていた…。

まめお「まめみ…。」

すると…ポナが口を開いた。

ポナ「……僕からも…お願いして良いかな?」

まめお「ポナ…?」

ポナ「今日…まめみちゃんが傍に居てくれてすごく楽しくて安心したんだ。あっ…もちろんまめお君やスルメさん…よっちゃんが傍に居ても安心だよ、でも…僕も今夜は…まめみちゃんに傍に居て欲しいな。」

まめみ「ポナ君…!」

まめお「ポナ…。」

スルメさん「どうする…よっちゃん?」

よっちゃん「2人がそこまで望むのなら…良いんじゃないかしら?体を休めるのも大切よ、でも…心と体は繋がってるわ、心が休まらなければ体も良くならない…お互いに強く望んでいるのなら、それが一番の薬になると思うの。」

まめお「そうだな、ポナがそこまでみんなを信頼してくれるのなら…俺達はそれに全力で応えるまでだ。」

スルメさん「そうやな…分かった、今日は泊まっていき…まめみ。」

まめみ「ありがとうスルメさん!」

まめお「俺は大丈夫だ、ポナの傍に居てやってくれ。」

よっちゃん「何かあったら、夜中でもすぐに呼んでね。」

まめみ「うん、ありがとう…まめお、よっちゃん…!」

ポナ「僕からも…ありがとう…みんな。」

彼が感謝を口にすると、みんなは優しく笑っていた

そして…まめおは1人で家に帰り、スルメさんとよっちゃんも眠りについた

ポナは新しいパジャマに着替え、まめみも白いワンピースに着替えた

家着用だというそのワンピースは、彼女の体にピッタリとフィットしており…彼女の女の子らしい体型が強調されてしまい…

そこから覗く白い肌と鎖骨…胸元…具合が悪いとはいえどもポナも思春期の男の子、目のやり場に困ってしまう…

しかし天然な彼女はそんな事には全く気付いていないのだ。

ドキドキしつつも、並べられた布団に入ると…まめみが手を握ってきた。

あぁ…君の手も心も…何て暖かいんだろう…

まめみ「おやすみ、ポナ君。」

ポナ「おやすみ、まめみちゃん。」

2人はいつの間にか眠りについたが…

その手はお互いを決して離さなかった。

To be continued…