小説「2人の過去」~ブキと会話が出来るイカの話~

時系列は「幼き記憶とダイオウイカ」~「緑髪の少年(出会い編)」の間。

まめみ「今日もお疲れ様、ハイドラント。」

ハイドラント「(ハッハッハッ!今日も良い動きだったぞ、まめみ!)」

まめみ「ふふっ、ありがとう!」

ハイドラント「(我をここまで上手く扱えるのは、まめみしかいないであろう。)」

まめみ「えぇ~そんな事無いよぉ…!」

褒められて恥ずかしいらしく、まめみは頬を真っ赤にして照れている。

ハイドラント「(ハッハッハッ!そういう所も可愛いな、まめみ。)」

まめみ「もう…ハイドラントったら…!」

そんな風に仲睦まじげに話す様子を、まめおは気に入らなさそうに頬杖をついて見ていた。

まめお「………。」

まめみ「まめお、どうしたの?」

まめお「随分楽しそうだな。」

まめみ「うん!」

まめお「…………。」

嬉しそうにしているまめみを見て、まめおは更に不機嫌になる…。

ハイドラント「(我とまめみの仲に妬いているな小僧。ハッハッハッ!)」

まめお「なっ…そんな事無ぇよ!」

まめみ「そうだよハイドラント。あたしは、まめおもハイドラントも大好きなんだから!」

まめお「だからそういう事じゃ無ぇんだよ…!」

ハイドラント「(そんな所もまめみらしいな…。)」

相変わらず天然なこのガールに、まめおとハイドラントはため息を吐いた。

よっちゃん「さぁ、2人共ご飯が出来たわよ~!」

まめみ「やった~!」

まめお「美味そう!」

スルメさん「今日はお店も休みさかい、皆で食べようや。」

4人「頂きます!」

そう言って4人は、お昼ご飯を食べ始めた。

よっちゃん「今日のナワバリはどうだったの?」

まめみ「絶好調だよ!」

まめお「パーマネント・パブロでの俺なりのダイオウイカの戦い方も安定して来たぜ!」

スルメさん「それは良かったわ~!まめおは力強さと洞察力に優れてるさかい、極めればもっと凄い戦いが出来るで!」

まめお「そんなに褒めるなよスルメさ~ん。」

とは言いつつ、珍しく頬を赤く染めて嬉しそうに笑うまめおに、皆も自然と笑顔になる。

よっちゃん「ハイドラントとはどんな会話をしてたの?」

まめみ「今日も疲れ様って挨拶と、ハイドラントに褒められちゃった!『我をここまで上手く扱えるのは、まめみしかいないであろう』って!」

よっちゃん「良かったわね、まめみちゃん!」

まめみ「うん!」

スルメさん「まめみは華奢な体の割には力が強いさかい、ハイドラントとも相性がええんやろうな。けどまめみは動きも素早いから、パブロを持たせた時も強いで。」

まめみ「スルメさんまで…!そんなに褒められたら恥ずかしいよぉ…!」

そう言って再び頬を真っ赤にして照れるまめみに、スルメさんは笑顔で頭を撫でてくれた。

そして食事は終わり、ブキと会話が出来る2人の話になった。

スルメさん「しかし…最初に2人がブキと会話できるって知った時は驚いたで。」

よっちゃん「でも…私達は昔聞いた事があったからね、全然気にならなかったわ。」

まめお「知られた時は焦ったぜ。」

まめみ「また…差別されて…酷い事言われるかと思ったからね…。」

よっちゃん「殆どのイカは知らないからね…。」

スルメさん「とはいえ、それを異端児扱いして認めない、だから差別するのは絶対に間違っとるで。ボクらはそう思うんや。」

まめみ「ありがとうスルメさん、よっちゃん…。」

まめお「2人が受け入れてくれたから、今の俺達がいるんだ。」

スルメさん「…いつか、ボクら以外にも受け入れてくれる人がきっと現れるで、2人共。」

よっちゃん「その人が受け入れてくれた瞬間に、初めてのお友達が出来るのね。」

まめお「…本当にいるのかな…。」

まめみ「あたし達は…昔から苛められてきたから…友達がいない。まめおやスルメさん、よっちゃんがいたから生きて来れたけど…そうじゃなかったら…。」

よっちゃん「まめみちゃん…。」

スルメさん「不安になるのも無理ないわ、けど…信じるんや。必ず出会えるとな。」

まめお「…そうだな。」

まめみ「…うん、信じる。」

スルメさん「お前達は人の痛みが分かるんや。だから…大丈夫や。」

そう言うとスルメさんは、2本のゲソで2人の頭を撫でた。

よっちゃん「…少しだけ、昔の話をしましょうかね。」

まめみ「昔の話?」

スルメさん「そうやな…あれはボクとよっちゃんが19歳の頃…」

~回想~

よっちゃん「スルメさん!敵が来るぞ!」

スルメさん「何の!ここで回り込んで…どうだ!」

敵を倒した!

スルメさんはランク50、ウデマエS+カンスト済みのホクサイ使いで、素早い動きで敵を翻弄しながら戦うそのスタイル、そして殆どのイカを寄せ付けないその強さから「黄緑の韋駄天(いだてん)」の異名で呼ばれ、当時のイカからは尊敬と憧れの眼差しを受けていた。

一方よっちゃんもランク50、ウデマエS+カンスト済みのバレルスピナー使いで、見た目に少し改造を加えて重たくして使っていた。

これが後のハイドラントのモデルになったとの噂もあるが、真意は定かではない…。

2人共、とても強かった。

毎日ナワバリバトルに明け暮れていた。

そんな毎日を楽しみ没頭していたが…

…互いに「恋」を見つけた。

ハイカラシティのバーで出会った、「黒インク」の双子の女性。

双子の姉は青い瞳。双子の妹は桃色の瞳。

不思議な雰囲気を持ちながらも、心優しいその姿に、2人は次第に惹かれていった。

スルメさんは姉と、よっちゃんは妹と付き合い出した。

2人は幸せだった。

ナワバリに出かける時は優しく見送ってくれて、帰ってきた時も暖かく出迎えてくれる。

休みの日には出かけ、たくさんの思い出を作り…

次第に…体も結ばれていった…。

…ある日、スルメさんとよっちゃんは短期契約でショッツル鉱山に働きに出る事に。

その時…彼女達は妊娠していて…姉は出産間近、妹は妊娠が判明したばかり。

2人は告げた。

戻ってきたら…結婚しようと。

それぞれ彼女達に結婚の意思を告げて…約束をした。

そして…3ヶ月間、ショッツルで汗水を流して働いた。

仕事の合間に仲間達とやるナワバリバトルも、2人には楽しくてしょうがなかった。

しかし…………短期契約の仕事を終えてハイカラシティへ戻った時…

彼女達の姿は…無かった。

~回想終~

まめみ「黒インクの双子…青い瞳と桃色の瞳…。」

まめお「俺達の死んだ母さんと同じだな…。」

スルメさん「けどな…彼女達がブキと会話出来るとは聞いた事無いさかい…。」

よっちゃん「そういう所も見た事無いしね…。」

まめみ「多分…偶然お母さん達と似た様な人達だったのね。」

まめお「黒インクは珍しいって聞いてたけど…他にも居たんだな。」

スルメさん「けど、あれ以来黒インク見たんは、シオカラーズのアオリちゃんだけやな。」

よっちゃん「珍しい事に変わりは無いんでしょうね~。」

まめお「そっか…。けど…ナワバリの話聞いてたら、行きたくなってきたぜ。」

まめみ「も~まめおったら!………あたしも行っていい?」

まめお「あぁ、もちろんだぜ。」

スルメさん「元気があってええわ。気をつけて行っておいでな!」

よっちゃん「ケガしない様にね!」

2人「はーい!」

元気よく返事をして、2人は再びナワバリバトルへ出かけて行った。

よっちゃん「そういえば……まめお君は、顔つきがどことなくスルメさんに似てる気がするわね…。」

スルメさん「そうかいな?気のせいとちゃうん?」

…真実は…もう誰にも分からない…?

けれど…彼らは今、とても幸せなのだ。

これは…「緑髪の少年」との運命の出会いを果たす少し前のお話…。