小説「緑髪の少年(再会編)」~償いと和解、再び夢へ向かって~

スルメさんのお店に住む事になったフーとスーの兄妹。

あれから2週間…最初は戸惑うばかりの2人だったが…スーはナワバリをしつつもよっちゃんの料理を手伝い、フーも接客は出来ないものの、開店準備をしたり洗い物をしたりとそれなりに手伝っていた。

すると、開店前にまめおとまめみがやって来た。

まめお「おはよう。」

まめみ「おはよう!」

スー「おはようまめお、まめみ。」

まめお「ここの暮らしには慣れてきたか?」

スー「うん、まだ戸惑う事もあるけど…2人共優しいし、親の愛情を知らないあたし達にはすごく温かく感じる…。」

まめみ「スーちゃん…。」

そう話す彼女の表情は穏やかで…2人も優しく笑った。

すると、奥からフーが出てきた。

フー「……………。」

まめみ「あ、おはようフーさん!」

そう言ってまめみが近づいて行ったが…

フー「……俺にそんなに優しくするな…本来なら俺はお前に合わせる顔が無いんだ。」

そう言ってフーは行ってしまった…。

まめみ「フーさん…。」

仲良くなりたいと思い毎日話かけるものの、フーは拒み続けて馴染めずにいた…。

悲しそうにするまめみに、スーが後ろから頭を優しく撫でた。

スー「ごめんねまめみ…兄貴、ぶっきらぼうなのよ…それだけじゃなくて、やっぱりあの事で強く責任を感じてるみたい…。」

まめみ「そんな…だってフーさんには何もされてないのに…!」

スー「…兄貴、本当はすごく正義感の強い人なの。だけどおカネを稼ぐにはチームが必要で、簡単に離脱するわけにはいかなかった…そしてそれ故にリスティヒを止める事も出来なかった自身が許せないでいるのよ…。」

まめみ「そんな…。」

まめお「そこまで自分一人で責任を背負う必要なんて無いだろ…。」

3人は何とも言えない複雑な心境で、フーの去った方を見ていた…。

一方フーは…お店を抜け出していた。

向かったのは誰も居ない空き地。

そこで…彼が唯一手放さなかった物…愛用ブキの3Kスコープを構えた。

緑の鋭い瞳は木から落ちてきた小さな葉っぱを捉え、チャージをして…

ズドンッ!!

発射されたインクは一直線に向かい…落ちてきた葉っぱを撃ち抜いた!

そのままブキを構え直し、再び落ちてきた別の葉っぱを撃ち抜いて…無言のまま、ひたすらに同じ事を繰り返しているフー。

スルメさん「……………。」

その様子を、後をつけてこっそり覗いていたスルメさんも、何か思いにふけている様子だった。

夕方、リビングで1人、ライムグリーンのイカクッションを抱きしめて悲しそうな顔をしているまめみ。

すると、ポナが声をかけた。

ポナ「どうしたの、まめみ?」

まめみ「ポナ君…。」

ポナ「何か悲しい事があったの…?」

まめみ「…あのね…」

そう言うとまめみは朝の出来事をポナに相談し始め、ポナは真剣な表情で聞いていた。

ポナ「そうなんだね…でもまめみの思い、きっとフーにも届いてるんじゃないかな。」

まめみ「え…?」

ポナ「今はきっと自分の中でまだ納得がいかないんだと思う、あいつの中で答えが出た時…まめみの仲良くなりたい気持ちにも応えてくれると思うよ。」

そう言うと、ポナはまめみを優しく抱きしめた。

まめみ「ポナ君 …ありがとう。」

ポナ「やっと笑ってれた。まめみは明るくて笑顔なのが一番だよ。」

まめみ「ふふっ…ポナ君ったら…。」

そう言うまめみの頬は赤く染まっていて…とても嬉しそうだった。

まめお「(まめみが元気無いから励まそうと思ったけど…ポナが上手いことやってくれたみたいだな。)」

2人のやりとりを廊下からそっと見ていたまめおだが、その表情は穏やかで口元は優しく笑っていて…そのままお風呂に入る為に浴室へ向かって行った。

一方まめみと楽しく話していたポナだが…

ポナ「ケホッ…ケホッ…。」

まめみ「ポナ君、咳してるけど…どうしたの?」

ポナ「ん…何かお昼過ぎくらいから時々こうして咳が出る事があって …。」

まめみ「大丈夫?もしかして風邪かな…。」

ポナ「喉は痛くないし、他におかしな所は無いから大丈夫だと思うよ。」

まめみ「それならいいんだけど…。」

記憶を失ったポナの変化の一つ…それは瞳の色がターコイズブルーのまま、感情によって変わらなくなった事。

記憶を失う前は、ポナが無理をしていても「瞳の色の変化」ですぐに気づいた。

しかし今はそれが無い故に、時折ポナの感情の変化を読み取れず…まめおとまめみは少し戸惑う事もあった。

正直、まめみは不安な気持ちを拭えきれずにいたが…ポナが大丈夫だと言うのでそのまま様子を見ることにした。

…夜…食事をしていた4人だったが…

フー「………ごちそうさん…。」

そう言うとフーは席を立った。

スー「兄貴、待ってよ。」

フー「スー…どうした?」

立ち上がった彼を見つめて、スーは口を開いた。

スー「もう…自分を責めるのはやめて…。まめみ達だって、兄貴と仲良くしたくて毎日話しかけてくれるのに…兄貴がいつまでも拒んでたら、先へ進まないわよ。」

フー「…お前やあいつらはそれでいいかもしれないが…俺はそれでもやっぱり…。」

そう言うとフーは、3Kスコープを持って出て行ってしまった。

スー「兄貴…!」

スルメさん「スー、フーの事…ちょっとボクに任せてくれや。」

スー「スルメさん…?」

よっちゃん「スーちゃん、フー君を大事に思ってるのは分かってるわ。けど…ここはスルメさんに任せてあげて。」

スー「…うん、分かった。スルメさん、兄貴をお願い…。」

スルメ「おう、任せときや。」

席を立ってフーを追いかけようとしたスーだが…。スルメさんとよっちゃんに説得され、スルメさんに任せる事に。

昼間の空き地へ行くと…フーは3Kスコープを抱えたまま地面に座り、夜空の月を見上げていた。

スルメさんは何も言わず、フーの隣に座った。

フー「……何の用だ、俺は…」

スルメさん「お前、もう一度ナワバリをやりたいんやろ?」

フー「………!」

スルメさん「店を度々抜け出しては3Kスコープで練習してるの、見てたんや。」

フー「なっ…!」

スルメさん「フー、お前の洞察力は並大抵のモンやない…そこまで極めるのに相当な努力があったはずや。」

フー「…………。」

スルメさん「お前がまめみの事で責任を感じてるのは知ってるんや、けどな…お前がそこまで自分を責める必要も無いし、まめみもそれは望んでおらんわ。」

フー「……俺がリスティヒをもっと早く止めてれば、今までの被害者も………まめみも助けられたんだ…それなのに、どうしてあいつは俺にまであんな明るい笑顔を向けられる…?」

スルメさん「そこが…まめみのいい所なんや。」

フー「いい…所…?」

スルメさん「まめみは人見知りが激しくてな、普段は誰かと話すのは苦手で大人しい子やけど…まめおやポナ、気を許す相手にだけはああして底抜けに明るい笑顔を見せてくれるんや。」

フー「…俺にまで…気を許してくれるのか…?」

スルメさん「まめみだけやない…まめおもポナもペコも…ボクとよっちゃんも…スーも…みんなお前の事を本当に心配してるし仲良くなりたいって思ってるんや。」

フー「……っ……!」

スルメさん「お前とスーは親の愛情を知らんやろ、だからボク達が与えたいんや。ボク達にとっては、大事な子供同然…何も遠慮せんでええんやで。」

フー「……っ……スル…メ…さん…っ………!」

スルメさん「…今までよう我慢したな…ホンマによく頑張ったわ。」

フー「…っ…うっ…うぅ……!」

今までの辛い事を思い出し…そしてスルメさん達の暖かさに触れて泣き出したフーを、スルメさんは優しく肩を抱いて離さなかった。

スルメさん「これからは、ボクらが守る。ナワバリも好きなだけやっていいんや。」

しばらくして…落ち着いたフーが静かに口を開いた。

フー「…スルメさん…俺、ナワバリやりたい…。けど…もう一つ…あるんだ。」

スルメさん「おう何や?言うてみい。」

フー「……俺、子供の頃からずっと…夢があって………警察官になりたいんだ。」

スルメさん「ほー警察官か!」

フー「鍛えた3Kスコープの腕でみんなを守りたい、俺…ずっと…ずっと憧れてたんだ…けど……親も居ないし、あんな事してた…ウデマエも剥奪されたし…諦めてた…でも俺…叶えたいんだ…!」

スルメさん「お前ならなれるで、フー。」

フー「ほ…本当か…!?」

スルメさん「あぁ、ボクが保証する、お前のその強い決意があれば必ず叶えられる。ウデマエももう一度上げたらええ、みんなで応援するさかい…頑張るんやで!」

フー「ありがとうスルメさん、俺…頑張って、必ず警察官になる。」

そう話すフーの表情は穏やかで少し無邪気で…安心しきっていた。

そして次の日…まめお達がやってくると…

まめみ「おはようスーちゃん、フーさん!」

スー「おはようまめみ。」

フー「………。」

まめみ「………。」

今日も拒まれてしまった…そう思って俯いてしまったまめみだが…

フー「…おはよう、まめ…み…。」

まめみ「……………!!」

フー「(……くそっ…柄にも無く照れちまったぜ…。)」

頬を少し赤らめて照れながらそっぽを向いてしまったフーだが…まめみは嬉しさで桃色の瞳を輝かせていた。

ポナ「よかったね、まめみ。」

まめみ「うん!」

そう言って笑うまめみは、最高の笑顔だった。

To be continued…