小説「緑風と桃花は愛を紡ぐ(共存編)」~小さな少女の初恋は~

まめみとシャケの出来事から数日後の、ある夏の日…

暑い日差しが照りつける道を歩く2人の親子。

アマナツ「大丈夫、ベリア?」

ベリア「うん、もうちょっとでおうちだもん。」

9ヶ月になったアマナツのお腹に配慮して荷物を持って歩くベリアはすっかりお姉さんである。

しかし彼女はまだ5歳…まだまだ甘えたい盛りの好奇心旺盛な子供だ。

道を歩いていると、一瞬強い風が吹いてベリアの帽子が飛ばされてしまった。

アマナツ「大変…!」

ベリア「あたしのぼうし!」

そう言うとベリアは荷物をその場に置いて大慌てで走りながら帽子を追いかけた。

やっとの思いで追いついて帽子を拾い上げて安堵したが、そこは道路で…

ブー!!

ベリアの背後から車が!

アマナツ「ベリア!!」

ベリア「きゃあぁぁぁ!!」

帽子を握りしめてぎゅっと目を瞑ったその時!

???「危ない!」

ふわっ…

知らない男性の声が聞こえたと思ったら、体が浮いているかの様に軽く感じて…

次に目を開けた時は、歩道の方に戻っていて…でも地面からは浮いていた。

アマナツ「ベリア!」

ベリア「ママ!」

フー「危ない所だったな…大丈夫か?」

声の主はパトロールの最中に車に轢かれそうになったベリアを見つけ、急いで駆けつけて助けてくれたフーだった。

ベリア「うん…!」

その後フーはベリアを抱っこしたままゆっくりとアマナツの元へ…

アマナツ「ベリア…無事でよかったわ…!」

ベリア「ママぁ…!」

フー「お久しぶりです、アマナツ部長。」

アマナツ「ふふっ、それはもう半年前の話よ。娘を助けてくれてありがとう、フー。」

ベリア「ママ、このおにいさんしってるの?」

アマナツ「えぇ、ママが警察官だった頃に新人だった子よ。」

フー「俺が警察官になって最初の配属先の上司が部長でしたからね、お元気そうで何よりです。」

アマナツ「おかげさまでね、フーも元気そうで安心したわ。あ、紹介するわ、娘のベリアよ。」

ベリア「は…はじめまして…ベリアです…。」

もじもじしながらも挨拶をしたベリアに、フーは優しく笑った。

フー「初めましてベリア、俺はフーだ。」

ベリア「フー…さん…。」

フー「それじゃあ俺は仕事に戻ります。ベリアはお母さんのお手伝いをして偉いな、気をつけて帰るんだぞ。」

そう言うとフーは敬礼をして、ベリアの頭を優しく撫でるとパトロールに戻っていった。

アマナツ「すっかり逞しくなったわね…それじゃあ行きましょう、ベリア。」

ベリア「うん…。」

この時ベリアは撫でられた場所を触りながら、頬を赤くしてフーの後ろ姿を眺めていた…。

フーさんって…

かっこいい…おうじさまみたい…

これがキッカケとなり…フーは時々カフェに顔を出すようになった。

フーはオフの日はペコやスーと共に来てベリアの遊び相手をしたり、話し相手になったりするのだった。

それからしばらく経ったある日の事…

まめお「ここはこうして攻めた方が…。」

ポナ「そうすると、ここから高台のチャージャーが狙ってくるよ。」

まめお「ん、そうかぁ…難しいな…。」

ブドーのカフェでまめおとポナ、まめみの3人がお茶をしながら休憩し、まめおとポナの2人はナワバリでの戦略を話し合っていた。

すると、ベリアがやってきた。

ベリア「なんのおはなししてるの?」

まめみ「ナワバリバトルでの作戦のお話をしてるのよ。」

図を見ようと一生懸命背伸びするベリアを、まめみは優しく笑いながら抱き上げて自分の膝の上に乗せた。

ベリア「…ぐちゃぐちゃしててぜんぜんわかんない…。」

ポナ「あはは、ペンで結構書き込んじゃったからね。」

まめお「でもこういうのは大事なんだぜベリア、連携を取りつつ状況を見定めて塗っていく…それが勝利への鍵だ。」

ベリア「そうなんだね。」

図をじっと見つめていたベリアだったが…

カランカラン…お店の扉が開くベルが鳴り…

アマナツ「あら、いらっしゃい。」

フー「こんにちは、今日はオフなんで来ました。」

ベリア「あ、フーさん!」

フーの姿が見えた途端、ベリアはキラキラと目を輝かせながらまめみの膝から飛び降りて走って行った。

まめみ「ベリアちゃん…?」

フー「おーベリア、今日も元気だな。」

そう言うとフーはベリアを優しく抱き上げた。

ベリア「フーさんきょうもかっこいい!」

フー「はははっ、ありがとうな。」

そう話すフーの表情はとても穏やかで、まめみ達も優しく笑った。

ベリア「フーさん、きょうはおみせにいきたい!」

アマナツ「ベリア、わがままいわないの。」

ブドー「そうだぞベリア、フーさんも暇じゃねぇんだ。」

ベリア「いや、いきたいの!」

ブドー「ベリア…」

フー「俺なら大丈夫ですよ、行こうかベリア。」

ベリア「わーい!」

アマナツ「フー…本当にごめんなさい…。」

フー「とんでもない、気にしないで下さい。」

そう言うと、フーはベリアを肩車してカフェを出て行った。

まめみ「ベリアちゃん、フーさんにすごく懐いてるのね。」

ポナ「フーは見た目は強面だけど、優しいからね。」

まめお「フー兄もどことなく嬉しそうだよな。」

ブドー「ベリアはフーさんをすっかり気に入った様だな…。」

アマナツ「そうね…でも……。」

そう言うとアマナツは少し表情を曇らせた…。

まめみ「アマナツさん、どうかしたんですか…?」

アマナツ「…ベリア、フーに恋をしてるみたいで…。」

まめみ「え…えぇ!?」

まめお「まぁ…あれくらいの子供からしたら魅力的だよな…。」

ポナ「しかも警察官なんて子供が憧れる職業だから、なおさらね…。」

アマナツ「フーには感謝してるわ…でも…最近あの子オフの度にこっちに来てくれてるみたいだけど…ペコちゃんとの時間は取れてるのかしら…。」

ブドー「彼女との時間も大切にしねぇとな…ずっと娘に構って貰うわけにもいかねぇからさ…。」

まめみ「ブドーさん…アマナツさん…。」

その頃…

プルルルル…

フー「もしもし、ペコ?」

ペコ「フー、今日はお休みよね…新しく出来たケーキ屋さんでケーキ買ったんだけど、一緒に食べましょ…」

ベリア「わぁ~すごいすご~い!」

ペコ「(ベリア…)……………。」

フー「…悪い、ベリアと店に行く途中で…今度埋め合わせするから…!」

ペコ「………えぇ、分かったわ…気にしないで…。」

フー「…本当にすまない…。」

プツッ…ツー…ツー…

ペコ「……………。」

最近、フーは休みの度にベリアの元へ行ってしまう…

自分と2人だけの時間がほとんどなくて…

でも…こんな…小さな子供相手に…

やきもち…なんて………

俯いたペコの茶色の瞳は、とても寂しそうにしていた…。

To be continued…