小説「緑風と桃花は愛を紡ぐ(共存編)」最終話~共存へ向けて~

絶体絶命のピンチに突如現れたキンシャケ…

それはシャケ一族の長である「おシャケさま」だった。

タマ「とぐろ先輩、テツ先輩…間に合ってよかった!」

とぐろ「タマ…どういう事だ…!?」

おシャケさま「私が帰る途中に迎えに来てね、全て話してくれたのだよ。」

そう言うとおシャケ様はとぐろの家の前に上がり…辺りを見渡した。

まめみ「……………!」

おシャケさま「ふむ…私が留守にしている間に…何やら騒がしかった様だね。」

とぐろ「おシャケさま…。」

ザンナ「おシャケさま、とぐろはイカと裏で通じて我々に危機を及ぼした!今ここでイカ共を根絶やしにしようとしてた所です!」

とぐろ「ザンナお前…!」

おシャケさま「まぁ待ちなさいザンナ、とぐろも大変だったね…一族を追われ…シャケ子に会えない日々はとてもつらかっただろうに…。」

とぐろ「はい…。」

おシャケさまはとぐろの背中を優しく撫でると、今度はまめみ達の方を向いた。

おシャケさま「君達が、とぐろを助けてくれたイカだね。」

まめみ「はい…。」

おシャケさま「本来なら敵対する存在である我が一族の者を助けてくれた事、一族を代表して心から感謝するよお嬢さん。」

まめみ「いえ、あたしはそんな…それに…あたしは敵対するつもりはありません…仲良くしていけたらと思っています。」

おシャケさま「ふむ…君の瞳…そして…その匂い…私が昔交流していたイカにそっくりだね。」

まめみ「え…?」

まめお「まめみが…?」

ポナ「昔交流していた…イカに…?」

ザンナ「おシャケさま、こいつらの話など聞く必要は…!」

おシャケさま「まぁ待ちなさいザンナ…ね?」

ザンナ「……っ………!」

強気だったザンナも、おシャケさまには勝てない様で…大人しく引き下がった。

おシャケさま「…あれは…どれくらい前だったかな…。」

そう言うと、おシャケさまは話し始めた…。

とぐろと亡き姉ヒュドラーが小さい頃…尻尾に怪我をしたとぐろをあるイカが助けてくれた

そして…それがキッカケとなり、短い間だったが交流を深めていった

そのイカはとてもゲソが長く…黒いインクで…桃色の瞳…

名は…『さくら』と言った…。

まめみ「さくら…!?それ…あたしの…あたしのお母さんの名前…!」

ポナ「え…まめみのお母さん…!?」

まめお「あぁ…確かにまめみの母さんの名前はさくらだ…でも…俺達シャケの話は聞いた事も無かった…。」

おシャケさま「ふむ、それでは瞳や匂いが似ていたのも…さくらの娘だったからなのだね。」

とぐろ「あっしがまめみの瞳を似ていると感じたのは…そういう事だったのか…。」

まめみ「とぐろさん…。」

おシャケさま「お嬢さん…いや、まめみちゃん。我々シャケがイカと同盟を結んでいない事…そして…一部の心ないイカによって傷つけられ…ヒュドラーの様に命を落とした者もいる事は知っているね。」

まめみ「はい…。」

おシャケさま「私はとぐろと同様…イカもシャケも適度な距離を保ちつつ仲良くしていければ、それが理想なんだよ。」

まめみ「おシャケさま…。」

おシャケさま「だがね…その道のりはとても険しく遠い…たとえ個人同士の付き合いであってもね。それに…ザンナの様に体にも心にも深い傷を負ったシャケ達の気持ちも…どうか理解して欲しい。」

まめみ「はい…でも…それでもあたし達…交流していきたいんです…たとえ険しい道であったとしても…!」

おシャケさま「……………。」

まめみ「ザンナさん達の気持ちも…もちろん理解してます…。だからこそすぐにとは言いません…あたし達の様に…心から仲良くなりたいと願うイカもいる事…全てのイカがそうではないと…いつか分かってもらいたいから…。」

まめお「俺からもお願いします…。」

ポナ「俺も2人と同じ気持ちです…お願いします…。」

おシャケさま「…ふむ、君達はとてもまっすぐな目をしているね、迷いのないとても綺麗な…意思の強い目だ。」

とぐろ「おシャケさま…。」

おシャケさま「とぐろの事を頼んだよ、どうかこれからも仲良くしてやって欲しい。」

そう言うとおシャケさまは優しく笑い、まめみ達にヒレを差し伸べた。

まめみ「おシャケさま…ありがとう!」

3人も嬉しそうに笑い、おシャケさまのヒレを取った。

おシャケさま「良い友に恵まれたね、とぐろ。」

とぐろ「はい…!」

ザンナ「おシャケさま…!」

とぐろ「ザンナ…お前の憎しみの気持ちも痛い程よく分かる…でもね、全てのイカがそうではないのだよ…彼女達の様に本当に仲良くなりたいと願う者もいる…少しずつ…お前も彼女達に歩み寄ってみてはどうかな?」

ザンナ「……………。」

何も答えなかったザンナだが、その瞳はとぐろやテツ、シャケ子やまめみ達をじっと見ているのだった…。

おシャケさま「ところでまめみちゃん。」

まめみ「はい。」

おシャケさま「君はどうやら…我々にとって大切な命を助けて育んでくれてた様だね。」

ドスコイまる「キュッキュッ!」

まめみ「この子…帰してあげたいけど親も分からないんです…どうすれば…。」

おシャケさま「親なら目の前にいるよ。」

まめみ「え…?」

そう言っておシャケさまはとぐろ達の方へヒレを向け、まめみは驚いた顔をした。

とぐろ「…初めて見た時から確信していた。…この子は…ドスコイまるは…あっしとシャケ子の子供だ。」

まめみ「ドスコイまるが…とぐろさんとシャケ子さんの子供…!」

とぐろ「あの日、産まれたばかりの我が子があっしに付いてきてると気づかずに仕事に行ってしまってな…やむを得ず連れて行ったんだ…けど…あの時の攻防戦であっしの元から落ちてしまったみたいでな…あの後すぐに捜しに来たが…姿がなかった。」

まめみ「とぐろさん…。」

とぐろ「…殺されてしまったんだと思ってた…けど…お前さんから子供の匂いがして…何か手がかりが掴めるのではと気になってたんだ…。助けてくれてありがとう、まめみ…。」

まめみ「ううん、あたしこそ…ドスコイまるを助けられて本当によかった…。」

ドスコイまる「キュッ、キュッ!」

まめみ「ドスコイまる…貴方のパパとママだよ。」

そう言うと、まめみはドスコイまるを優しく抱っこして、シャケ子に渡した。

ドスコイまる「キュ、キュッキュッ!」

シャケ子「可愛いわ…大事な大事な私達の子…。」

ヒレの中で嬉しそうに笑うドスコイまるを見て…まめみは嬉しさと寂しさの混じった複雑な感情になった。

まめみ「………………。」

ポナ「まめみ…。」

まめお「別れは寂しいけど…ドスコイまるも本当の家族の元へ戻れたんだ…笑って別れよう、まめみ。」

まめみ「うん…。」

頬を伝って零れ落ちる涙を拭い、優しく笑ったまめみ。

それに応える様に、ドスコイまるも優しく笑った。

シャケ子「まめみちゃん、いつでもドスコイまるちゃんに会いに来て頂戴。」

まめみ「シャケ子さん…。」

とぐろ「あっしからも頼む、お前さんはあっしらを繋いでくれた大切な存在だからな。」

まめみ「ありがとう…とぐろさん…シャケ子さん…!」

そう言ってお互いに抱き合ったとぐろとまめみ。

その後とぐろは家に戻り、いつもの平穏な日々が戻って来た。

後日…まめみ達は6人でシャケ達の元を訪れた。

とぐろやシャケ子、テツやタマ…子ジャケ達…おシャケさまも来てパーティーを開き盛り上がった。

その晩、満月が綺麗な夜空の下テツはある場所…ヒュドラーの墓の前にいた。

テツ「あれから随分経ったな…。色々なことがあった……ザンナ達も相変わらずやんちゃして…タマもでかくなってタマヒロイの職をこなしてて…とぐろはシャケ子ちゃんを嫁さんに貰ってそして…あるイカの嬢ちゃん達と交流を深めてるぜ。お前が願っていた世界…『イカとシャケは仲良くなれる』ほんの少しだけ叶ってきてるぞ…。俺達は少しずつ共存の道を歩んでいく、お前の分までな……俺の嫁さんは生涯お前だけだ…ヒュドラー。」

そう言うとテツは話しかけていた目の前の墓を大きなヒレで何度も優しく撫で、月光に照れされた彼の赤い瞳は美しくも…少し儚く輝いた。

ヒュドラー『テツ、この仕事が終わったら私達は夫婦になるのね。』

テツ『あぁ、これからは夫婦としてずっと一緒だ。』

ヒュドラー『泣かしたりしたら許さないわよ。』

テツ『おいおい、俺がそんな事すると思うか?少しは旦那の事を信じたらどうだ。』

ヒュドラー『えぇ、もちろん信じているわ、貴方がそんなことしないって。』

テツ『お前って奴は……愛してるぜ、ヒュドラー。』

ヒュドラー『私もよ、愛してるわテツ。』

そう言って頬を紅く染めて笑う彼女の目は普段のつり目が緩み、とても幸せそうな笑顔だった。

それが最後の姿になるとは知らずに……。

すると、とぐろがやって来た。

とぐろ「テツ、またここに居たのか。」

テツ「あぁ。」

とぐろ「姉貴も、喜んでくれてるといいな。」

テツ「ヒュドラーは喜んでると思うぜ。」

とぐろ「…テツ、お前さん姉貴以外にいい相手を見つけて身を固める気は無いのか?」

テツ「…俺は生涯身を固めるつもりは無ぇよ、これまでもこれからもずっとヒュドラーだけだ。お前とシャケ子ちゃんが、ドスコイまると一緒に過ごしてまめみ達と交流を深めて幸せになってくれるのが、俺の幸せでもあるんだ…とぐろ。」

とぐろ「テツ…ありがとな。」

2匹はしばらくその場で語り合った…。

昔の事…タマの事…そして…ヒュドラーの事…

それからしばらくして…

シャケ子「ダーリン、テツさん!パーティの最後、乾杯をするわよ。」

とぐろ「あぁ、分かった。」

テツ「今行くぜ。」

そう言うと、2匹はとぐろの家へ戻り…

みんなで乾杯をして…パーティーの最後を締めくくった。

こうして…ほんの僅かだがお互いに歩み寄る事が出来たイカとシャケ…

彼女達の「共存」へ向けた交流は、まだまだ始まったばかりである。

緑風と桃花は愛を紡ぐ(共存編)~Fin~

海賊ダイルです。小説を読んで頂いた皆様、本当にありがとうございます!

小説「緑風と桃花は愛を紡ぐ(共存編)」はこれにて完結しました。

今回はバイトを始めた事によって出会ったシャケ…

そしてその子供であるドスコイまるを拾った事によって始まるシャケとイカの関係…

ザンナの様に傷を負ったりした者もいれば、とぐろの様にイカとの交流を望む者…それによって起こる衝突…様々な思いが巡り、まめみ達も悩んだりしつつも自らの思いを貫き、その強い思いは一族の長であるおシャケさまにも通じ…お互いにほんの少しでも歩み寄る事が出来ました。

まめみ達とシャケの関係は始まったばかりですが…彼らはこれからも交流を深めていけると私は信じています。

さて、第三部である共存編は終了しましたが…次のお話は第四部「試練編」と突入します。

試練編…ここではポナとまめみの2人を今までに無い大きな試練が襲います。

いつも仲良しでお互いを大切に想い合う2人ですが、ある少年の出現によって少しずつ変化が生まれて…?

果たしてこの2人はこの試練に打ち勝つ事は出来るのでしょうか?

それでは第四部でお会いしましょう!

ここまで読んで頂きありがとうございました!

2018/8/10 海賊ダイル