小説「緑風と桃花は愛を紡ぐ(試練編)」~強くなりたいのに…~

※『』はオクタリアンの世界の言語。

夜…

まめみ「すー、すー。」

ポナ「……………………。」

隣でぐっすりと眠るまめみを見つめながら、ポナは今日の試合の事を考えていた。

ツネの動きは全く無駄が無くて、試合後の成績もダントツだった

まめみは純粋に彼を尊敬し…ツネと楽しそうに話していた…

自分は決していい成績とは言えず…何よりもまめみの危機にすぐに対応出来なかった…

それがポナにとっては何よりもの苦痛だった…

まめみ「んっ…すぅ…すぅ…。」

しかし彼女は隣に…自分の傍に居てくれている

ポナはまめみをぎゅっと抱きしめ、じきに眠りについた。

それから数日後、ポナは単身ナワバリをしていた

もっと強くなれるように…

まめみをもっと守れるように…

しかし…

ポナ「…………っ…………!」

彼の思いとは逆に全く調子は上がらず連敗ばかり…敵との撃ち合いになっても照準が上手く合わずやられてしまう

ポナは焦った…しかしその焦りはエイムをずらし、更なる負の連鎖を呼んでしまう…

イライラしたポナは試合終了後にロビーを出て家に帰った。

まめみからメッセージが来ていたが今のポナには返信する気力は無く、そのままテレビを付けてゲームの電源を入れて始めたが…

ゲームでも上手くいかず失敗ばかり…

ポナのイライラはピークに達して、コントローラーを乱暴に投げてそのままベッドに横になった。

ピンポン

チャイムが鳴ったがポナは出なかった、すると…

ガチャ…

まめみ「ポナ君…?」

いつまで経っても返事が無かったため、まめみが心配して様子を見に来たのだ。

ポナ「…まめみ……。」

まめみ「お返事無かったから、具合悪いのかと思って…。」

ポナ「………………………。」

まめみ「…何かあったのかな…。」

ポナ「まめみ…っ…!」

乱暴に投げ捨てられているコントローラーを拾いながら心配しているまめみ…するとポナは彼女の名前を呼びながら近づき、もたれかかる様に彼女を抱きしめた。

まめみ「ポナ…君…。」

ポナ「う…うぅ……。」

まめみ「今日はずっと一緒に居るよ、ごはん作ってあげるね。」

ポナ「…うん……。」

震えるポナを優しく抱きしめ頭を撫でるまめみに対して強い安心感と同時に、ポナは自分への情けなさを感じるのだった…。

同じ頃…ツネは地下世界へ戻っていた

タコワサ『ツネよ、地上の世界はどんな感じだ?』

ツネ『とても活気に溢れているよ、色んな店もあるし…皆がそれぞれ自由な時を過ごしてる。』

タコワサ『そうか………まめみとはどうなった?』

ツネ『…まだあの話は出来てない…『彼氏』とかいう邪魔者がいるからね、まずはそいつからまめみを引き離さないと。』

タコワサ『(彼氏……3号の事か……しかしツネが決めた相手とはいえ、本当にそれでよいのだろうか…………いや、ワシはツネが幸せになってくれればそれでよい…。)』

ツネ『お爺様?』

タコワサ『…いや、何でも無い。無理はしないようにするのだぞ、ツネ。ワシはいつでもお前の味方だ。』

ツネ『ありがとう、お爺様…そろそろ戻るよ。』

タコワサ『分かった。』

ツネ『お爺様の事、頼んだよ2人共。』

彼が暗闇に向かって話すと…奥から2つの影が現れた

姿こそ薄暗くて見えないが、赤い瞳と紫の瞳が怪しく光る…

タコガール『任せてよ、あたしは将軍の護衛部隊だもの。』

タコボーイ『私は部隊こそ違うものの、戦闘力に引けは取りませんよ、ツネ。』

ツネ『ふふっ…うん、分かってる。それじゃあお爺様、行ってきます。』

タコワサと優しく抱き合い、ツネは再びオシノビニットで素顔を隠して地上へと戻っていった。

2日後、ポナは単身でナワバリをしていたが…やはり結果は変わらず不調が続いていた…

ポナ「……くそっ…何で上手くいかないんだ!」

誰も居ないロビーで壁をドンと1回殴って項垂れるポナ…

あんな情けない姿をこれ以上晒したくない…

まめみにこれ以上心配をかけたくない…

強くなるんだ、誰よりも…

あいつよりも強くなってまめみを守るんだ

ポナの決意は強かった

しかしその強い決意は焦りとなって彼の精神を追い込み、連敗へと続けてしまう…。

結局ほとんど勝てず納得のいく結果も出せないまま、ポナは項垂れながらロビーを出てきた

すると、頭に冷たい感覚が

ピチャ…ピチャ…

ポツ…ポツポツ…

サアァァァー!

雨が降ってきた…まるで今の彼の心を現すように…。

周りのイカ達は建物に避難したり傘を差している中…

ポナは失意のまま何も考えず…ただ項垂れながら家に向かって歩き出した。

家に着き、鍵を開けて入ると…

部屋の奥は灯りがついていて…玄関には小さな可愛らしい靴と傘が…

そして奥から出てきたのは…まめみ。

まめみ「ポナ君!」

ポナ「………まめ…み…。」

まめみ「朝、ナワバリ行くって言ってたから帰り待ってたんだけど、雨が降ってきて心配してたの…急いでタオル持ってくるね!」

そう言って大慌てでまめみはタオルを取りに行ったが…

ポナの表情は暗いままで…

また情けない姿をまめみに晒してしまった…そんな思いで胸が苦しくなり、まるで心の中で流す涙を現す様にポナの髪から雫が零れ落ちて…玄関を濡らしていった。

そうとは知らず、まめみはタオルを持ってきてポナの頭や体を拭いた

まめみ「すぐにお風呂入った方がいいね…今沸かすからね。」

しかし無表情だったポナは、まめみが頭に巻いていた「ヤキフグビスケットバンダナ」に気づいた

こんなギアは持ってなかったのにいつの間に買ったんだろう…虚ろな目のままポナは不思議に思って口を開いた。

ポナ「……まめみ…その…バンダナ…。」

まめみ「あ、これ?ふふっ…ツっくんがね、昨日買ってくれたの。」

ピクッ…

ツネの名前が出てきた瞬間、ポナは敏感に反応した

あいつに会っていた…俺の知らない所で……

あいつに買って貰っていた…言ってくれれば俺が買ってあげたのに……

嫌だ……嫌だ……

見たくない…聞きたくない……

ポナ「……っ………!」

まめみ「ポナ君…?」

ポナ「……ごめん……悪いけど今日は1人になりたい……今日は帰って………。」

そう言ってポナは靴を脱ぎ、まめみの横をスッと通り過ぎて浴室に消えた。

まめみ「…………!!」

今まで…この2年間………

そんな事……言われた事は一度も無かった……。

ドクン…ドクン…

まめみは桃色の瞳を見開いたまま、しばらくその場に立ち尽くした…

その後…ポナがシャワーを浴びている間に何も言わず、そっと家を後にしたのだった…。

To be continued…