小説「幼き記憶とダイオウイカ」最終話~和解と深まる絆~

2人がそれぞれ決意を固めた日の午後のハイカラシティでは…

スルメさん「よっちゃん、片付けは終わった?」

よっちゃん「えぇ、終わったわよスルメさん。」

スルメさん「………いよいよ明日、ここを去るんやな…。」

よっちゃん「そうね……まめお君とまめみちゃん…結局会えなかったわね…。」

スルメさん「…まめおはロビーに出入りしてるのをちょこっと見かけたんやけどな…まめみは…。」

よっちゃん「…せめて…最後にもう一度…2人に会いたかった…。」

スルメさん「…仕方ない、全ては…あの時の僕がいけないんや…。」

店の窓から外の空を眺める2人の目は、寂しげだった…。

一方…まめおはブキチの運営するブキ屋「カンブリアームズ」に来ていた。

まめお「ブキチ、いるか?」

ブキチ「まめお君、珍しいでしね!」

まめお「ブキを売ってくれ。」

ブキチ「どれにするでしか?」

まめお「……俺が欲しいのは…これだ。」

そう言ってまめおが手にとったのは…

ブキチ「本当に良いんでしか?あんなに嫌がってたのに…。」

まめお「あぁ、ありがとなブキチ。」

その後もまめおはナワバリバトルに明け暮れ…

結局…まめおが家に帰ってきたのはすっかり暗くなった夜だった。

まめみ「お帰りまめお!」

まめお「…ただいま。」

最近、全く笑顔を見せなかったまめみが…いつもの様な明るい笑顔で自分を出迎えてくれて、まめおは内心驚いていた。

まめみ「ご飯にする?お風呂も沸いてるよー。」

まめお「あ…あぁ、とりあえず…風呂に入るよ。」

まめみ「それじゃあ、ご飯適当に作っておくね!」

まめお「あぁ…。」

パタパタと台所へ走っていったまめみの後ろ姿を見届けて…まめおは風呂に入った

自分がナワバリに行っている間に…一体何があったのか…

モヤモヤした気持ちのまま風呂を上がり、まめみの作った夕飯を2人で食べ始めた。

まめみ「ん~おいしい!」

まめお「…………。」

まめみ「どうしたのまめお?美味しくない?」

まめお「いや…美味い。」

まめみ「でしょー!何てったって今日は、あたしが腕によりをかけて作ったまめみちゃんスペシャルなんだから!」

得意げに笑うまめみを見て、まめおも自然と笑みが零れた。

しかし…やっぱり何かがおかしい。

食事を済ませて…まめおはまめみに聞いてみた。

まめお「まめみ、俺がナワバリ行ってる間に何かあったんだろ?お前を再び突き動かす「何か」が。」

まめみ「……あたしなりに考えてたの、スルメさんとよっちゃんの事…昔の事…ダイオウイカの事…色々と…。」

まめお「…………。」

まめみ「…ハイドラントが、あたしを諭してくれたの。」

~回想~

ハイドラント『(まめみ、辛いのも怖いのも分かる。だが…それは己自身で乗り越えなくてはならない。お前は何故戦う?)』

まめみ『あたし…あたしは…。』

ハイドラント『(もう分かっているだろう?)』

まめみ『ハイドラント…。』

ハイドラント『(いつも優しく明るい…笑顔の「まめみ」はどこへいったのだ?)』

~回想終~

まめお「あのオッサンが…。」

まめみ「ハイドラントと出会った時の事、今でも覚えてる。」

まめお「まめみ…。」

まめみ「凄くカッコ良くて、あたしも使いこなしたくていつもお店の外から覗いてた…それだけじゃない、忘れられないハイドラント使いがいるの。」

まめお「前に言ってた『緑髪のハイドラント使いのボーイ』か。」

まめみ「少ししか一緒にいなかったけど…モンガラで戦うその姿が凄くカッコ良くて強くて、あたしの憧れだった……名前を聞く前に居なくなっちゃって、何も知らないままだけどね。」

まめお「カスタムを使う奴なら見かけるけど、ハイドラントを使う奴はそういない…再会してもおかしくねぇと思うけど…。」

まめみ「でも…今は再会出来なくても…また会える気がするの…確信は無いんだけど何故か強くそう思うの。」

まめお「そうだな…必ず会えるさ、その時は俺も会ってみたい。」

まめみ「うん。」

まめお「そうか…お前なりに考えて、ダイオウイカを乗り越えるんだな。」

まめみ「怖くない訳じゃ無いけど…まめおが…みんなが居れば大丈夫、あたしは独りじゃない。」

まめお「よかった、まめみがそこまで強い決意を固めたなら…俺はもう、何も隠す必要はねぇな。」

まめみ「まめお?」

まめお「これを見てくれ、まめみ。」

そう言うとまめおは、でんせつのぼうしをテーブルに置いた。

まめみ「でんせつのぼうし!それじゃあまめお…!」

まめお「あぁ、場所はBバスパークでブキはパブロ…勝利したぜ!」

まめみ「おめでとうまめお~!」

そう言ってまめみは、まめおに抱きついた!

まめお「おわっ、まめみ…!」

まめみ「やったねまめお!これであたし達2人共…最高ランクになったんだね!」

まめお「あぁ、待たせたな!」

まめみ「ううん、本当におめでとう!」

まめお「ありがとう。…もう一つ、お前に見せたい物があるんだ。」

まめみ「見せたい物?」

まめお「これだ。」

そう言ってまめおが取り出したのは…パブロ

しかし…ただのパブロでは無い、そこには「ブキチ」のマークが…

まめみ「これは…パーマネント・パブロ!スペシャルは…」

まめお「そう、ダイオウイカだ。」

まめみ「………!」

まめお「…俺なりにずっと考えてた。昔の事やこの傷…ダイオウイカの正体…スルメさんとよっちゃんと過ごした日々……俺の行きついた答えは…「全て無駄では無かった」だから俺は俺なりにダイオウイカを乗り越える、その答えがこれだ。」

まめみ「まめお…!」

まめお「自らがダイオウイカとなるけど…他の奴らの様な卑怯なプレイはしたくない。俺は…ダイオウイカになっても「極力攻撃しない」スタイルで行こうと思う。」

まめみ「極力攻撃しないスタイル…。」

まめお「勝率は良いとは言えない。けれど…待ち伏せして目の前でダイオウイカを発動して倒して煽る様な卑怯な奴らはたくさんいる…俺はそれが許せねぇし、そいつらの様なプレイはしたくない。だから…今はまだ難しくても…俺はこのスタイルで戦う。これが俺の…ダイオウイカを克服する為に選んだ道だ!」

まめみ「あたし…まめおを応援する!」

まめお「まめみ…!」

まめみ「まめおなら絶対大丈夫だよ、あたしは信じてる。」

まめお「ありがとな…まめみ。」

そう言うとまめおはまめみを抱きしめようとしたが…

ハイドラント「(まめみよ、我へのいつもの挨拶を忘れておるぞ。)」

まめみ「あ、そうだったね!ごめんねハイドラント、大好きよ!」

そう言うと、まめみはハイドラントに近づいて「ちゅっ」とキスをした。

まめお「!!」

ハイドラント「(ハッハッハッ…やはりまめみは可愛いな!)」

まめお「こんのクソ…エロブキがぁぁぁぁ~!!」

ハイドラント「(やるのか小僧!)」

まめお「やってやるよ!」

そう言ってまたいつもの喧嘩を始めた2人だったが…

ピンポーン!

突然インターホンが鳴った。

まめみ「あれ?こんな時間に…誰だろう?」

ドアを開けると…そこにはよくスルメさんのお店で見かける常連客のボーイとガールのイカップルが…。

お店でよく会うので顔見知りなのだ。

ボーイ「まめみちゃん、まめお!大変だ!」

まめみ「どうしたの…?」

ガール「それより…まめお君は誰かと喧嘩してるの…?」

まめみ「あ、ちょっ…ちょっと待ってて!」

そう言うとまめみは一旦扉を閉めて、まめおとハイドラントの喧嘩を止めて、まめおを連れてきた。

まめお「どうしたんだよ?」

ボーイ「スルメさん、よっちゃんと一緒に店を畳むって!」

まめお「なっ…!?」

まめみ「えっ…!?」

ガール「さっきお店に行ったら…スルメさんとよっちゃんに会って…店畳んで…明日ハイカラシティを出ていくって…!」

まめみ「そんな…そんな…!」

ボーイ「俺達も説得したけど…2人は聞き入れてくれなかったよ…。」

ガール「寂しいけれど…もうどうしようもないわね…お別れを言いに行くなら…今が最後よ。それじゃあ、私達はこれで…。」

そう言うと2人は帰って行った…。

まめみ「どうしよう…どうしようまめお!このままじゃ2人は…!」

まめお「俺達の事で責任を感じてなのか…!?」

まめみ「今すぐ行こう、まめお!」

まめお「……………。」

まめみ「まめお!」

ハイドラント「(……迷っている暇は無いぞまめお。)」

まめお「ハイドラント…!」

ハイドラント「(ここで行かなければ…後悔するのはお前達だ。迷う暇があるなら行くが良い!)」

まめみ「ハイドラントの言う通りだよ、行こうまめお!」

まめお「…あぁ、行くぞ!」

そう言うと、まめおはでんせつのぼうしを被り、パーマネント・パブロを片手にまめみと共に家を飛び出した!

その頃…。

スルメさん「さて…荷造りは完了したから…予定通り…明日ハイカラシティを出ていくで。」

よっちゃん「…やっぱりもう一度…会いたかった…うっ…うぅ…!」

スルメさん「…よっちゃん…気持ちは分かる…けどもう無理なんや…。」

泣きだすよっちゃんの頭を優しく撫で、スルメさんは言った。

よっちゃん「まめお君…まめみちゃん…!」

スルメさん「…もう寝よ?明日に差し支えるさかい…。」

そう言って寝室へ行こうとしたその時!

バンバンバン!!

店の扉を叩く音が聞こえ、ふと見ると…二つの影が!

まめお「スルメさん!よっちゃん!」

まめみ「居るんでしょ!?開けて!」

スルメさん「まめお…まめみ…!?」

よっちゃん「…待ってて、今開けるわ!」

そう言ってよっちゃんが扉を開けると…。

そこには息を切らした2人の姿が…。

スルメさん「2人共…どうして…?」

まめお「…どうしてじゃねぇよ…!何で居なくなろうとするんだよ!」

よっちゃん「えっ…?」

まめみ「あたし達、まだ2人に何も恩返し出来てないじゃない!」

スルメさん「恩返して…僕は…!」

まめお「スルメさん…いや、俺達を襲ったダイオウイカ!」

スルメさん「っ……!」

まめみ「貴方に言いたい事があるの!」

よっちゃん「まめお君…まめみちゃん…!」

2人はお互いに顔を見合わせて頷き、スルメさんとよっちゃんの方を見た。

まめお「俺達はずっと考えてた…昔の事や今までの時間…これからの事…。」

まめみ「何度も悩んで泣いて…怖かった…逃げ出したかったけど、このままじゃいけないって思ったの。スルメさんがあたし達を襲ったダイオウイカでも…今まで知らなかったとしても…スルメさんとよっちゃんはいつもあたし達を大事にしてくれて、どんな時でも支えてくれた。」

まめお「俺達が「ブキと心を通わせる事が出来る特殊な能力」を持っていると知っても差別しなかったし受け入れてくれた…これまでの時間は全て無駄じゃない!俺達はこれからもスルメさん、よっちゃんと一緒にいたい!」

まめみ「あたし達には2人が必要なの、だからいなくなったりしないで!」

スルメさん「まめお…まめみ…!」

よっちゃん「私達を…許してくれるの…?」

まめお「許すも何も…最初から家族じゃねぇか!」

まめみ「何も怒ってないよ…勝手にいなくなる方がずっと悲しくて怒るんだから!」

スルメさん「うっ…うぅ…!」

よっちゃん「あり…がとう…ありがとう…2人共…!」

まめみ「泣かないでよ2人共…ぐすっ…!」

まめお「お前まで泣いてるんじゃねーよ…。」

そう言うまめおの目尻からも…涙が零れ落ちた…。

しばらくして落ち着いてから…

まめおがランク50になった事

でんせつのぼうしを受け取った事

ナワバリバトルの事

パーマネント・パブロを購入した事

2人でダイオウイカへ立ち向かう決意をした事を語った。

スルメさん「そうか…ダイオウイカを使いこなすんやな…。」

まめお「あぁ…俺なりの戦い方を貫きたい。」

スルメさん「なら…この帽子と靴を2人に譲るわ。」

そう言ってスルメさんが差し出したのは…2つのカモメッシュと2足のキャンパスHIトマト…。

まめみ「これは…。」

スルメさん「僕とよっちゃんが昔使ってた奴や。これでお前達のスタイルを貫き通すんや!」

よっちゃん「応援してるわ、2人共!」

まめお「ありがとうスルメさん、よっちゃん!」

まめみ「ありがとう、大切に使うね!」

こうして…長い年月を経てお互いに乗り越え和解したまめお達…

ダイオウイカ…全ての攻撃を受け付けない無敵のイカ

しかしその力も徐々に弱まりつつあり、シューター等で足止めをする事が可能になった

しかしそれでも…一部のマナーの悪いイカ達が待ち伏せからのダイオウイカを発動…敵をなぎ倒して煽るという悪質なプレイも増えつつあるのが現状である…

自分達はそんな使い方はしたくない

強い決意を胸に…ダイオウイカを克服する道を選んだ2人

これから2人を待ち受けるのは「新たな出会い」

しかし…例え何があっても2人の思いは揺るがない。

幼き記憶とダイオイカ~Fin~

海賊ダイルです。小説を読んで頂いた皆様、本当にありがとうございます!

小説「幼き記憶とダイオウイカ」はこれにて完結しました。

私のマイイカ、まめおとまめみの物語…2人の過去と心の奥底にある恐怖を乗り越えるまでのお話を書きました。

お互いに悩み苦しみましたが…それらを克服して今までの時間…これからの時間をスルメさん、よっちゃんと共に過ごす事を選んだ2人はこれからも元気に過ごしていくと思います。

さて、このお話はこれで終わりますが…シリーズはまだまだ続きます。

次のお話は、ある男の子との出会いから始まるお話になります。

まめみ達はどんな出会いをして、どんな世界が2人を待っているのでしょうか…?

それでは次のお話で会いましょう!

ここまで読んで頂きありがとうございました!

2016/6/25 海賊ダイル