小説「緑髪の少年(出会い編)」~真実の温もり~

まめみ「はぁ…はぁ…!」

もう…どれくらい走り続けたのだろう…

ポナ君に告げられた「ブキと会話している瞬間」を見た事

あたしの頭の中は真っ白になって…蘇るのは幼き頃苛められたあの記憶…

『こいつらブキにはなしかけてるー!』

『ばっかじゃねーの!』

『きもちわるーい』『ちかよるなー!』

…母親譲りの「ブキと心を通じ合わせ、話せる力」

本来、ブキ達は心を持っている

しかしイカ達は心を通じ合わせる事は通常は不可能な為、ブキはあくまでも戦いの為の「道具」としてみられる事が多いのだ

しかし…ごく希に「ブキの心が分かる」イカが居た。その存在を知る者はごく一部に限られており、その能力を持つイカ達は差別を受ける事も多く、大概は生涯…その秘密を守り抜いていく

そしてまめおとまめみの母親が双子で、その力を生まれ持ったイカだった。

走るのを止めたまめみの俯いた桃色の瞳からは、大粒の涙が止めどなく溢れて零れ落ちていて…

ポナ君は…何かを伝えようとしていた

でも…あたしはそれを拒否して逃げてしまった…

せっかく出来た「初めての友達」だったのに…

ポナ君…ポナ君…!

ごめん…ごめんね…!!

ポタッ…ポタッ…!

涙が止まらない上に雨まで降り出してきてしまった…

水が苦手なインクリング族にとっては雨もあまり得意ではなく、道行くイカ達はそれぞれ傘を差して歩いて行く中、まめみは自分の体を抱きしめながら雨に打たれていた…。

雨は容赦なく彼女を襲い…足首まである彼女の長いゲソの先はインクが溶けはじめていた…

すると…

まめお「まめみ、どうしたんだよこんな所で!」

まめみ「ま…めお…まめお…!」

まめお「どうした…ポナと一緒にナワバリやったんだろ?」

まめみ「あたし…あたし…ポナ君…う…あぁぁぁぁん…!」

そう言うと…まめおにしがみついて泣きだしてしまったまめみに驚いてしまったが…

まめお「まめみ、まずは一緒に家に帰ろう。」

まめみ「う…ん…。」

彼女の背中を優しく撫でながらまめおが促すと、まめみは泣きながら返事をして…2人で家に帰った。

一方ポナは…まめみと同じく外で雨に打たれていた…

流石に長い間雨に打たれ続けるのはまずいので、近くにある公園の木の下で雨宿りしながら降り続ける雨を…夜空を見上げた。

ポナ「…………。」

僕は…大切な友達を…傷つけてしまった…

まめみちゃん…僕は…

………………。

彼の濡れた髪からは冷たい雨の滴が…青く変化した瞳からは暖かい涙の滴が頬を伝って零れ落ちた…。

一方まめおとまめみは…今日あった出来事を話していた。

まめお「そうか…ポナに見られたのか…。」

まめみ「ごめんね…ごめんねまめお…!」

まめお「お前のせいじゃない…誰のせいでもないんだ。」

まめみ「まめお…!」

まめお「まめみ…分かってるだろ?ポナが何を言いたかったのか。」

まめみ「…うん…。」

まめお「お前も俺も、亡くなった母さん達から受け継いだこの力で心に大きな傷を負った。けどスルメさんとよっちゃんは俺達を受け入れてくれた。ポナだって同じだ、俺達とは違うものの「特別な力」を持ってるし、それ故に俺達と同じ様なつらい思いをたくさんしてきた…だからポナは俺達の痛みが分かる、心から信じられるんだ。」

まめみ「うん…うん…そうだよね…。」

まめお「明日は雨の予報だから、次にナワバリがあるのは2日後…その時にポナに謝って全て話そうぜ…まめみ。」

まめみ「うん…。」

ポナに謝り秘密を打ち明ける決意をして…

~2日後~

まめみ「ポナ君いるかな…あっ!」

まめお「ポナ!」

ポナ「…………。」

広場の奥の方でポナを見つけた2人

話かけようと近づいたが…様子がおかしい。

何やら苦しそうな様子だ…

すると…!

ガクン!

まめお「ポナ!」

まめみ「ポナ君どうしたの!?」

ポナ「はぁ…はぁ…!」

座り込むポナの息は荒く、付けていたタコマスクから覗く瞳の色は黒く…この前ポナが急な腹痛に襲われた時と同じ…体調不良の証だ

目だけでつらいのが伝わってくるほど、今のポナは虚ろな目をしていて…

まめみ「ポナ君、スルメさんのお店に行こう、ね?」

そう言ってまめみはポナを支え、立ち上がった。

まめおが一緒に途中まで支え、お店の前まで来たら先に入って…スルメさんとよっちゃんを呼んできた。

スルメさん「ポナ、どうしたんや!?」

よっちゃん「とにかく中へ、今日は臨時休業にするわ!」

お店の立札を「休業」に変えて、まめみ達はポナをお店の中へ…

彼のタコマスクを外して履いていたモトクロスソリッドブルーを脱がし、着ていたアーバンベストナイトのボタンを外して呼吸を楽にさせた。

まめみ「お水飲む?」

ポナ「はぁ…はぁ…ごめん…今は…いら…ない…!」

まめお「真っ青な顔してるぞ、ポナ…!」

ポナ「少し休めば…大丈夫だから…はぁ…はぁ…!」

しかし…数分後…。

突然ポナが立ち上がった!

まめみ「ポナ君、どうし…」

ポナ「うっ…!」

突然強い吐き気に襲われた為、何も答えずポナは口元を抑えて奥にあるトイレに走って行った…。

まめみ「ポナ君…!」

心配するまめお達…

奥からは…彼の咳き込む声が聞こえてきて…

それから何分か経っても…ポナが戻ってこない…

よっちゃん「ポナ君…大丈夫…?」

心配したよっちゃんがトイレへ行くと…

ポナ「はぁ…はぁ…!」

洗面所でうがいを済ませたが、座り込んでしまったポナがそこに居た…

よっちゃん「吐いてしまったのね…可哀想に…。」

そう言って背中を擦りながらポナの額を触ると…

ポナ「はぁ…はぁ…!」

よっちゃん「ポナ君、酷い熱よ!こんな体でナワバリに行こうとしてたなんて…このまま奥の部屋で休んでね。」

ポナ「…はぁ…はぁ…ダメだよ…よっちゃん…僕は行くんだ…!」

心配したよっちゃんの警告を聞かずに立ち上がったポナ

自力で数歩歩いたが…その直後

ドサッ!

よっちゃん「ポナ君!」

まめみ「よっちゃんどうし……ポナ君っ!」

まめお「ポナ!」

スルメさん「アカン、すぐにポナを寝かせるで…まめお手伝ってや!」

まめお「おう!」

心配したまめみ達が駆けつけ、ポナはまめおとスルメさんによって店の奥に運ばれ、布団を敷いて寝かせた。

まめみ「ポナ君…どうしてこんな無茶を…!」

心配して泣きそうな顔のまめみは、ポナの手をずっと優しく握っていた。

すると…ポナがゆっくりと目を開け、息を切らしながら…こう告げた。

ポナ「はぁ…はぁ…まめみちゃん…君を傷つけちゃって…ごめん…!」

まめみ「ううん…そんな事無い…そんな事ないよ…!」

ポナ「…この前の…はぁ…煽り野郎…覚えてる…?はぁ…はぁ…!」

まめみ「うん…覚えてるよ。凄く嫌な人だったよね…!」

ポナ「あいつ…はぁ…最近有名な煽りの常習者らしくて…はぁ…卑怯なプレイで相手を…痛めつけては…はぁ…煽って楽しんでるらしいんだ…!はぁ…はぁ…だから…この前の…まめみちゃんの…分も…あいつを今度こそ…叩きのめして…やるって…はぁ…はぁ…!」

まめみ「もういい!もういいよポナ君…喋らないで…!」

ポナ「はぁ…はぁ…ありがとう…まめみちゃん…。君の…手…とっても暖かくて…僕…安心…す…る…。」

そう言うとポナは…体力の限界を迎えた為、眠ってしまった。

まめみはポナの汗ばんだ額を塗れたタオルで拭いて…彼の長い前髪を優しく撫でた。

まめみ「…まめお…。」

まめお「…あぁ、行くんだろ?」

まめみ「…止めても無駄だよ。」

まめお「俺は止めるつもりは全く無いぜ、俺も行くからな。」

まめみ「もう許さない!」

まめお「ポナとまめみの分…しっかり分からせてやらねぇとな!」

そう言って立ち上がった2人の瞳には、怒りの感情が籠っていた。

まめみは「イカスカルマスク」「かくれパイレーツ」「タコゾネスブーツ」

まめおは「フェイスゴーグル」「タコT」「ブラックビーンズ」

ブキはまめみが「ハイドラント」まめおが「ハイドラントカスタム」

まめみ「あの人だよ、まめお。」

まめお「アイツか、あの野郎…調子こいた顔してやがるぜ。ウデマエがS+だろうが何だろうが、卑怯なやり方をする奴を野放しにはさせねぇ…行くぞまめみ!」

まめみ「うん!」

こうして2人は…ナワバリバトルへ向かった。

前回散々やられたので、相手の手の内は分かっている、2人は見事なコンビネーションで相手の裏を掻き倒して行った。

その結果、相手は捨て台詞を吐いて逃げて行った。

まめお「ふん、デカイ態度取る割には大した事ねえな!」

まめみ「ポナ君をあそこまで追い込んだんだもの、当然だよ!」

これがポナの為になるかは分からない

しかし大切な人を傷つけられた事が、2人は許せなかった。

その後スルメさんの店へ戻り交代で看病をしつつ、まめみはずっとポナの手を握り続けていた…。

スルメさん「ポナは今夜ボク達が面倒みるさかい、2人はゆっくり休むんやで。」

まめお「ありがとな、スルメさん。」

まめみ「明日、朝一でまた来るからね。」

そう言うと2人は家に帰って行った。

その後、ポナはふと目を覚ました。

水を飲もうと起き上がって部屋を出ると、よっちゃんが通りかかり…

よっちゃん「あら、ポナ君どうしたの?」

ポナ「目が覚めて、水を飲もうと思ったんだ…。」

よっちゃん「そうだったのね、今持ってきてあげるからお部屋で待ってて。」

ポナ「うん…。」

そう言うとよっちゃんは台所へ行き、コップに水を汲んで持って来てくれた。

よっちゃん「はい、お待たせ。」

ポナ「ありがとう…。」

心が暖かい…

夢現(ゆめうつつ)だったけど手が暖かくて…それは夢じゃ無くてまめみちゃんの手の温もりだった…

僕は…こんなにも大切に思われているんだ…心地よくてすごく安心する…

To be continued…