遙か北にあるセイレーン・ケイヴに向かって旅をする一行
海も特に荒れる事無く航海は順調の一方で、怪しい影も少しずつ魔の手を忍ばせているのだった…。
~初めての喧嘩~
ミラージュアイランドを出航して何日か経過し、最初はぎこちなかった2人も序々に打ち解けてきていた。
アクア「良い気持ち…。」
朝、軽く運動をしたアクアはシャワーを浴びていた。
しかし…
スマラ「昨夜は暑かったからな…早くシャワーを浴びたい。」
お風呂の前に『入浴中』の掛札があるにもかかわらずそれに気付かないで脱衣所に入っていってしまったスマラ!
アクア「ふぅ…さっぱりした。」
ガチャッ…
突然、洗面所のドアが開き2人が鉢合わせしてしまった!
スマラ「あ…アクア!?」
アクア「きゃ…きゃあぁぁぁぁぁーーーーーー!!」
スノウ「何事だアクア!」
アクア「嫌あぁぁーーー!!」
悲鳴が響き何事かと駆けつけたスノウ達にまた見られ、更に混乱を招いて朝から大騒ぎになってしまった…
一方スマラはというと、目を回してその場に倒れてしまっていた。
夜…
アクア「ごめんなさい…また失敗しちゃって…。」
夕食を作ったアクアだが…今まで料理をした事があまり無かった為、見た目も味も…お世辞でもいいとは言えないものばかりだった。
スノウ「気にするなアクア、お前は良くやってくれている…だからそんなに気を落とすな。」
ペルラ「上手になってきてるよ、だからもっと自信持って。」
アクア「…ありがとう。」
スマラ「…王宮の飯、食べたいな…。」
この瞬間、空気は一気に凍り付いた!!
ため息をつくスマラ、みるみる表情が変わっていくアクア…
ごくり、と息を飲むスノウ達…。
アクア「…スマラ、今のはどういう意味かしら?」
スマラ「えっ?」
アクア「『…王宮の飯、食べたいな…』って言ったわよね…それってつまり…私のご飯は食べたくないって事かしら?」
スマラ「えっ…あっ…いや、それは…!!」
アクア「なら食べなくても構いませんわ、これは私が責任を持って食べます。」
スマラ「いくら本当の事言われたからって、そこまで拗ねる事ないだろう!」
アクア「拗ねてないわ、やっぱり美味しくないって思ってたのね!」
スマラ「誰が食ったって美味くないって思うだろこれは!?」
本当の事とはいえ、あまりにもひどい言い様のスマラに、遂にラクトが口を開いた。
ラクト「スマラ、アクアに謝るんだ!」
スマラ「何で俺が謝らなければならないのですか!俺は本当の事を言ったまで、それを1人で怒って拗ねているのはアクアの方です!」
アクア「っ………!!」
ラクト「アクア!」
かなり傷ついたのだろう…アクアは何も言わずに食事部屋を飛び出し、自分の部屋に籠ってしまった…
コンコン…追いかけていったスノウがドアをノックし呼んでも出て来ず、代わりに聞こえてきたのはすすり泣く声のみ…
しかし鍵は掛けていなかった様で、スノウがドアノブを回すと、ドアが開いた。
スノウ「可哀想に、泣く程傷ついてしまったんだな…おいでアクア。」
アクア「っく…ひっく…スノ…ウ…!」
泣いているアクアの頭を優しく撫で、抱きしめたスノウ。記憶を封印され父の名も顔も思い出せないアクアにとって、スノウは良き理解者であり父同然の存在…母の安否が分からず不安な今、スノウが傍にいるのは唯一の救いであった。
しばらくして、アクアが落ち着いた頃…
スノウ「スマラは決して悪意があってあんな事を言った訳では無いんだよ、ただ彼の言い方は酷すぎだ…それはラクトが彼にしっかり話をしてくれるから大丈夫…スマラと仲直り出来るか、アクア?」
アクア「えぇ…大丈夫、仲直り出来るわ…。」
まだ泣いていたアクアだが、黄色い瞳はスノウの緑の瞳をしっかり見ていて…スノウは目を細めて優しく微笑み、彼女の頭を髪がクシャクシャになるまで撫でた。
スノウ「今日はもう遅い、明日になってから謝ろう…今日はゆっくりおやすみ。」
そう言ってスノウが部屋を出て行こうとした時、アクアが服の端をグイッと掴んで引っ張った。
アクア「一緒に添い寝して…子供の時みたいに。」
驚いて目を一瞬見開いたスノウだったが、嬉しそうに笑いアクアの隣に横になったその顔は、子を見守る父親だった。
スノウ「こうやって一緒に寝るのは久々だなぁ…小さい頃のお前は本当に甘えん坊で、マリンと俺が一緒じゃないと落ち着いて寝られなかった…どうやらそれは今も変わらない様だな。」
アクア「ひどーいもう!スノウの意地悪っ。」
スノウ「…いつでも言うんだぞ。いくつになってもお前は大事な娘なんだから。」
アクアは嬉しそうに微笑んで頷き、泣き疲れたのと安心感の為かすぐに眠ってしまい…スノウもアクアの頬を撫でていたが、じきに眠ってしまった。
一方ラクトはいつまで経っても戻ってこない2人を心配し、アクアの部屋を訪ねると2人は寝ているではないか…何とも微笑ましい光景にラクトも思わず笑みを浮かべてそっと部屋を出ようとした時、一冊の本が目に止まった。
料理日記と書かれた本…悪いとは思いつつもラクトは手にとって読んでみると、今までの料理の反省点などが書かれていて…他にも何冊も料理の本があり、どうやらアクアはずっと自分なりに努力し頑張っていた様だ。
ラクト「そういえば…最近のアクアは顔色があまり良くなかったな…ろくに寝ないでやっていたのか。」
読み終えた後にラクトはそっと元の場所へ戻し、スマラの居る食事部屋へ向かった。
あれから誰の話も聞き入れずアルマもペルラも困り果てていた所へ、ラクトが戻ってきた。
ペルラ「ラクト様、アクア様のご様子は?」
ラクト「スノウと共に眠っていた、今日はこのまま寝かしておこう…スマラ。」
スマラ「…はい。」
ラクト「さっきアクアの部屋に行った時…料理日記という本を見つけて…申し訳無いが読ませて貰った。そこにはたくさんの反省点や感想が書かれていたよ。」
スマラ「そんな日記を…。」
お前なら分かるだろうスマラ?あの子が私達の為にどれだけ頑張っていたか…お前の気持ちも分かるが…あれは言い過ぎだ、アクアの頑張りを否定してしまったんだから。」
スマラ「父上…俺は何て酷い事を……。」
ラクト「ちゃんと謝れるな、スマラ?」
スマラ「はい。」
ラクト「明日の朝、しっかり謝っておいで。」
スマラ「分かりました。」
酷い事を言ってしまった自分に腹を立てつつ、頭の中はアクアへの申し訳なさでいっぱいだったが…ラクトに言われた通り、明日の朝に謝ると決めて休むのだった。
~To be continued…~