次の日の朝、まめみは早くから1人でポナの入院する病院を訪れた。
コンコン…ガラッ…。
まめみ「おはよう、ポナ君。」
ポナ「おはよう、えっと……君は……。」
まめみ「まめみだよ。」
ポナ「おはよう、まめみ。」
ドクン…
『まめみ』と呼ばれたことに、まめみは内心戸惑っていた。
記憶を失う前の様に、優しい声で「まめみちゃん」と呼ばれる事は無く…
表情もあの頃の様に優しい笑顔を向けられる事はなく、少しボーっとしたまま無表情で…
目の色も変わる事なく、ターコイズブルーのままで…
記憶を失ったポナにとっては、まめみは「会ったばかりの知らない人」なのだ
キラッ…少し悲しげな顔をして俯いたまめみの首元のペンダントが朝日の光で反射して輝いて…ポナはそれを見て目を細めてじっと見ている。
まめみ「ポナ君…どうしたの?」
ポナ「それ…。」
まめみ「あ、これ?…ポナ君がくれたんだよ。」
ポナ「僕が…君に…?」
まめみ「うん。……その途中で事故にあって記憶を失くしちゃったんだけどね…。」
ポナ「そうなんだ……ごめん、全然思い出せない……。」
まめみ「ううん、大丈夫だよ。」
ポナ「まめみの事を…教えてくれるかな?」
まめみ「うん、いいよ。」
そう言うと、まめみは優しく話し始めた。
まめおとは従兄妹である事
幼き日のダイオウイカのトラウマ、そしてその正体がスルメさんだった事、それらを乗り越えた事…今は亡き母親達の事…そして…
『ブキと心を通じ会わせ、会話する事が出来る力を持つ秘密』を…全て話した。
ポナ「そうなんだね…えっと……まめみはまめおと従兄妹…。ダイオウイカ…黒インク…ブキと…。……うぅ…なかなか覚えられない…ごめん…。」
まめみ「いきなり全部覚えようとしなくていいよ!あたしこそ、いきなりたくさん話しすぎだね…ごめんねポナ君。」
ポナ「まめみ…。」
まめみ「ちょっとずつ、ゆっくりでいいから覚えてもらえたら嬉しいよ。」
ポナ「ゆっくりで…いいの?」
まめみ「うん、ポナ君のペースでいいよ。」
そう言って優しく笑うまめみに、ポナは胸が暖かくなるような…不思議な感覚を覚えた。
……………?
何だろうこの感じ…何だか暖かくて…懐かしいような……
前にもどこかで……
ポナ「ありがとう…まめみ。」
不思議な感覚にモヤモヤしつつも、ポナは優しく笑うまめみに対して少し優しい表情でお礼を言った。
この日…ポナが覚えたのは「まめお」と「まめみ」
「スルメさん」と「よっちゃん」の事。
まめみがポナと過ごしている一方で、まめおはスルメさんのお店にいた。
まめお「…これで終わり、と。」
バレルスピナー「(ありがとう、まめお。おかげで気持ちもスッキリしたよ。)」
まめお「具合悪いって言うから何事かと思ったけど、インク詰まりをおこしてたとは…悪かったなバレルスピナー、これからは気をつける。」
バレルスピナー「(そう言ってもらえると嬉しいよ。)」
ご機嫌なまめおとバレルスピナー。
しかし…それを陰から見ていた者が1人…
バンッ!!
ブキチ「まめおくーん!!」
まめお「おわっ!!」
突然ドアを勢いよく開けて入ってきたブキチに、まめおは心底驚いた。
スルメさん「おうブキチ、今日は何にするんや?」
ブキチ「あ、いつものでお願いするでし。」
スルメさん「いつものやな。よっちゃん、ブキチが来たで~いつもの頼むわ。」
よっちゃん「は~い、待っててね。」
そう言うとよっちゃんは台所へ。
まめお「ブキチ…いきなりは無しだぜ…すげぇびっくりした…。」
ブキチ「ごめんでし…それよりまめお君、聞きたい事があるでし!」
まめお「俺に聞きたい事?何だよ?」
ブキチ「今、君はバレルスピナーと話してたでしね!?」
ドクン…!!
まめおの表情は凍り付き、バレルスピナーを抱える手に力が入った。
どうしよう…そう考えていると、スルメさんが口を開いた。
スルメさん「ブキチ、それは気のせいなんとちゃうの?まめおはボクとずっと話してたで。」
まめお「(スルメさん…!)」
ブキチ「いーや、まめお君は確かにバレルスピナーと話してたでし!もし本当に会話出来るならすごい事でし!昔、おじいちゃまから聞いたお話は本当だったって事でしからね!」
まめお「!?」
スルメさん「じいさんから聞いた話…どんな話なんや?」
ブキチ「ボクがおじいちゃまから聞いたお話は、ズバリ『ブキと会話出来るイカ』でし!」
まめお「えっ…!?」
スルメさん「ブキチのじいさんは…知ってるんか!?」
ブキチ「ボクが聞いた話は、一部のイカにごく希にブキと心を通じ合わせて会話をする事が出来る…というのを聞いたでし。それ故に迫害を受ける事も多く、多くは生涯その秘密を守り通すとも…。他にも聞いた話があるでしが…。」
まめお「…スルメさん……。」
スルメさん「ブキチは代々ブキを作り続けてきた家系、もしかしたらじいさんもそういうイカとの交流があったんかもしれんな…まめお、ブキチになら話しても大丈夫やろ。」
まめお「分かった、お前の言う通りだブキチ…俺とまめみは『ブキと心を通じ合わせ声を聞き、話をする事』が出来る。」
ブキチ「まめみちゃんもでしか!?」
まめお「俺達の母親が双子でその力を持っていた、多分それでだと思う。」
ブキチ「ほぅ…2人のお母さんが双子でその力を…。」
まめお「…知ってる事を教えてくれブキチ、お前がじいさんから聞いた『ブキと会話できるイカの話』を…。」
ブキチ「…ボクが聞いた話は、さっき話したのと…この話でし…」
そう言うと、ブキチは少し言い辛そうな様子だったが…深呼吸をして、静かに口を開いた。
まめお「……………!!」
それを聞いたまめおは驚いて目を見開き、話を聞いていたスルメさんも言葉を失った。
一方まめみは、そんな事は知るはずもなく…ポナと2人だけの時間を過ごしていた。
あっという間に午後になり…まめみもやる事があるので帰る事に…。
まめみ「それじゃあポナ君…また明日来るね。」
ポナ「うん、ありがとうまめみ。帰り気を付けてね。」
まめみ「ありがとう。」
そう言って優しく笑い、まめみは病室を後にした。
1人になったポナは、少し寂しげな表情をしつつ…ベッドから窓の外を眺めていた…。
ポナ「(…何だろう…まめみと話してると懐かしいような…不思議な感覚になる…。)」
そんな事を思いながら外を眺めている内、眠気に襲われたポナのまぶたはいつの間にかそっと閉じた。
その頃、まめみは街中をやや早足で歩いていた。
まめみ「早く帰ってごはんの準備とか、お洗濯しなきゃ!まめお、今日は何が食べたいかな?」
そんな一人言をいいながら歩くまめみだったが…。
たくさんのイカ達が歩く中…
すれ違った1人の「少女」に、思わず振り返った。
少女「……………。」
寂しげな茶色の瞳をした少女…
その少女のゲソは「白」くて…。
まめみ「あれ…?白…インク…。」
確かあの時ポナ君が…。
ポナ『うん。…今まで言ってなかったけど、僕には2つ歳上の姉がいるんだ。』
まめみ『そうなんだ…どんなお姉さんなの?』
ポナ『優しい人だよ。「ペコ」っていう名前なんだけど…珍しい「白インク」なんだ。』
まめみ「……………!」
まさか…あの人は…!?
そう思って振り返ったが…
既に、少女の姿は人混みに紛れて見えなかった…。
それからしばらくして…ポナが目を覚ました。
ポナ「ん…いつの間にか寝ちゃってた…。」
体を起こしてボーッとしていると…。
コンコン…ガラッ…。
まめみ、また来たのかな…?
そんな事を思っていたポナだが…入ってきた人物を見て、ターコイズブルーの瞳は大きく開かれた。
ペコ「ポナ…!」
ポナ「…ペコ…姉さん…!!」
ペコ「ポナが事故にあったって聞いて…!その瞳の色は…!?」
ポナ「僕はもう大丈夫だよ、それに…瞳の色は元々この色じゃ…?」
ペコ「……………!!」
かつての弟は、感情によって瞳の色が変わるという特別な力を持っていた。
怒りの時は赤に近いピンクになり…寂しい時は青く…具合が悪い時は黒…嬉しい時はオレンジに…
そして…普段の色は黄色だった。
けど…目の前の弟の目の色は…今まで見た事の無い
「ターコイズブルー」だった…。
ポナ…事故に遭って貴方に一体何が起きたというの…!?
To be continued…