小説「緑髪の少年(再会編)」~涙と誓い、苦悩と嵐~

辺りはすっかり暗くなり…星が輝き始めた夕暮れ時…ペコは一人寂しげな表情で歩いていた…。

『お姉ちゃん!』

『姉さん!』

ポナ…私の2つ下の弟…。

幼い頃から、どこに行く時も一緒で

黄色い瞳をキラキラと輝かせて、私の後ろを付いて来てた。

誰よりも負けず嫌いで…怒ると赤に近いピンク色の瞳に変えて悔しがり、青い瞳に変えて大泣きして…

でも…私が彼の大好きなお菓子をあげたら、瞳は一気にオレンジに変わって大喜びして…

眠れない時、辛い時は2人でこっそり家を抜け出して…モンガラキャンプ場の…あの秘密の場所で星空を眺めた…。

……ポナ……私のたった1人の大切な弟…。

……弟と見たあの星空を見たい…

そう思ったペコはあの場所へ向かう為に足を速め、しばらくして…彼女はモンガラキャンプ場の秘密の場所に着いた。

星空を見ようと奥へ行こうとしたが…彼女は「自分以外の誰か」がいる事に気づいた

その姿は桃色の…足首まであろう長いゲソを持つ少女で、夜空を見上げて悲しげな顔をしていた。

ペコ「(あれは…誰…?どうしてこの場所を知って…)」

不思議に思いながら様子を伺うペコだったが…

まめみ「ポナ君…。」

少女の口からは弟の名が…

ペコ「…弟の友達かしら…?」

まめみ「え…?」

ペコ「……………。」

驚いたまめみが声のした方へ顔を向けると、そこには1人の少女が立っていた

自分ほどではないものの…長いゲソを持ち、茶色の寂しげな瞳…

そのゲソの色は白くて…驚いて目を見開くまめみを捉えて離さない。

まめみ「まさか貴女は…ポナ君のお姉さん…?」

ペコ「ポナを…私を知っているのね、えっと…名前は…」

まめみ「え…と…あたしは…まめみです。ポナ君とは…その…恋人…で…。」

ペコ「えっ…!?」

まさか弟に彼女が出来ていたとは…ペコは驚きを隠せなかった。

まめみ「………今は…忘れちゃってるんですけどね…。」

ペコ「忘れてる?」

まめみ「……ポナ君…事故で記憶を失って…あたしの事も…今までの思い出も全て…覚えてないんです…。」

何という事だ…

ポナは…記憶を失っている…!?

今まで見た事のなかった…あの瞳の色は…

でも…私の事は…しっかりと覚えていた…

……………!!

そんな…そんな…

姉の私の事のみ覚えていて…

傍にいたこの子を……今までの思い出を…

まめみとの大切な時間を…忘れてしまったというの…!?

何て皮肉な結果だ…姉の私の事のみを覚えていて、他の事は記憶を失ってしまったなんて…

寂しげな笑みを浮かべ揺れるまめみの桃色の瞳を見て、ペコは胸がぎゅっと苦しくなり…何も出来ない自分に憤りを感じつつ項垂れた

事故さえなければ…

あの子は今でも明るい笑顔でいたのに友達と仲良く遊んでいたのに…

まめみと…幸せな時間を過ごしていたのに…

ペコがふと湖の方を見ると…月明かりに照らされた湖面が青く輝いていて…それはまるでポナが悲しい時を現す「青い瞳」の様で…

私には今、何が出来る?

答えが分からないまま項垂れているペコだったが、ふと脳内に自分の好きなとある曲が浮かんだ

青い花…勿忘草を現した曲…花言葉は「私を忘れないで」

どうか弟の…ポナの記憶が戻る事を願って…私は私に出来る事を探そう…

そう決意したペコとまめみはしばらく話した後、それぞれ帰ろうとしたが…

別れ際にペコは、まめみに声をかけた。

ペコ「まめみ。」

まめみ「はい。」

ペコ「…どうか、どうか弟を……ポナを忘れないであげて…あの子の傍に、ずっといてあげて…。」

まめみ「…はい、あたしはずっとポナ君の傍にいます…絶対に忘れません。」

ペコ「ありがとう、まめみ。」

そう言うとペコは帰って行った。

まめみ「………ポナ君……。」

首からかけたペンダントをぎゅっと握り、まめみはスルメさんのお店へ向かった

しばらく歩いていると…向こうの方から人影が。

まめお「おーい、まめみ!」

まめみ「まめお!」

まめお「なかなか来ないから心配で…ポナの所に行ったんだろ?」

まめみ「うん、行ってきたよ。」

まめお「…ポナの様子はどうだ?」

まめみ「…相変わらず、何も思い出してない…。」

まめお「そうか…思い出すには時間がかかりそうだな…。……………。」

まめみ「まめお…?」

まめお「いや、何でも無い……ほら、行くぞまめみ。」

まめみ「うん。」

2人は仲良く手を繋いでスルメさんのお店へ向かったが…ここでまた一騒動起こるのであった。

まめお「ただいま~。」

まめみ「ただいまー!」

スルメさん「おうお帰り!まめお、まめみと無事に合流出来たんやな。」

そう言って奥から出てきたスルメさんだったが…。

その姿は、昔から見慣れていた「イカ」ではなくて…

2人の目の前に現れたのは、長身の男性。

でも…声はスルメさんで…風貌…目つきはまめおによく似ていた

まめお「……………!?」

まめみ「え…スルメ…さん…なの…?」

スルメさん「驚かせてすまんな、久々に人に変身してみたんやけど…男前やろ?」

まめお「いや…男前とか言う以前に…すげぇびっくりしたんだけど…!」

そう言って驚きを隠せないまめおに対し、まめみの反応は…

まめみ「すごーい!男前だよスルメさん!」

桃色の瞳をキラキラと輝かせて、とても嬉しそうにしていた。

まめお「何でそんなにすんなり受け入れられるんだよ!?」

この天然娘は…まめおは内心少し呆れつつも、可愛い従妹のいい所に目を細め…優しく笑いながら彼女の頭を撫でた。

よっちゃん「あら、2人共帰ってたのね~おかえりなさい。」

そう言って奥から出てきたよっちゃんも…

まめお「よ…よっちゃんなのか…!?」

まめみ「わ~よっちゃんも男前だけど、そのエプロン可愛い!」

よっちゃん「うふふ、そうでしょう!これは私の手作りなのよ~!」

まめみ「えぇ~凄い凄い!いいなぁ~!」

よっちゃん「うふふ、まめみちゃんにも作ってあげるわ。」

まめみ「やったあ!ありがとうよっちゃん!」

目の前の…人の姿のよっちゃんは、スルメさんよりも背は少し低くてゲソは下で一つに纏めていた。

そして…フリル付きの可愛いエプロンをして嬉しそうにくるくる回っていた。

先ほど同様、驚くまめおに対してまめみはすんなりと受け入れていて…

よっちゃんとの会話で嬉しそうに笑っていて…

まめおの中では幸せの感情が沸き起こったのと同時に、記憶を失ったポナの事とブキチから告げられた「ブキと会話出来るイカ達の運命」を思いだし、少し寂しげな表情をした。

それぞれが思いを馳せている頃…

ハイカラシティに、それぞれ「2つの嵐」が舞い降りた。

1人は…誰も居ない路地裏に潜み…広場の明かりを眩しそうに眺める緑の瞳のボーイ…。

ターコイズブルーの髪に…鼻には大きな傷跡が…。

彼にとって広場の明かりは刺激が強く、目を細め…眉間の皺が深くなる…。

そしてもう1人は…電車から降りて来た1人のガール。

髪の色はライトブルーで…緑の瞳を持つ目つきは鋭く、口には棒付き飴をくわえていて…着ているジップアップカモのポケットにもたくさんの棒付き飴が入っている。

ガールは辺りを見渡し…荷物を持つと、ハイカラシティの明かりに紛れて消えていった。

To be continued…