小説「緑風と桃花は愛を紡ぐ(共存編)」~シャケの住処での一夜~

※一部残酷な表現あり

真夏が過ぎ、涼しくなる日が増えてきた頃…

まめおとまめみ、ポナの3人は服屋に来ていた。

ビゼン「これやこの、よく来た、よく来た。」

服屋『フエール・ボン・クレー』の店主である言葉遣いが少し謎なクラゲのビゼンは、ハイカラシティのエチゼンが分裂して産まれたという噂がある…。

それはさておき、今日3人が買いに来たのはこの服、思い出深いF-190である。

3人は試着も兼ねてF-190に袖を通した。

まめお「よし、今度はぴったりだな。」

まめみ「前も止められるし、これで大丈夫だね。」

ポナ「これから秋冬にかけて寒くなるからね、今のうちに買っておかないと。」

2年前に買ったお揃いのF-190は、大切な宝物だ。

体が成長して前を止める事は出来なくなったが…今でもクローゼットに大事に掛けてある。

3人はF-190を購入しお店を後にして、今度はブキチのお店へ…

ブキチ「いらっしゃいやし~!」

まめみ「ブキチ、終わった?」

ブキチ「バッチリでしよ!やっと使用許可が下りて調整も終わったでし。」

そう言ってブキチが奥から持ってきたのは…

ハイドラント「(待たせたな、まめみ。)」

まめみ「お帰りハイドラント!今度はこっちでも一緒に活躍出来るね!」

ブキチ「まめみちゃんのハイドラントは元々プロトタイプ、そこに来て2年の歳月で所々が古くなってたから部品を交換して調整したでし。」

まめみ「お疲れ様、ありがとうねブキチ。ハイドラント、調子はどう?」

ハイドラント「(うむ、とても良い気分だ。今ならまめみと我の力を合わせて全ての挑戦者をねじ伏せる事も出来そうだ。)」

まめお「その性格とかは相変わらずなんだな…。」

ハイドラント「(小僧も2年経っても相変わらずだな、我とまめみの仲に妬いておるのであろう、ハッハッハ!)」

まめお「くっ…このジジイ…!!」

ポナ「まぁまぁ…。」

まめおとハイドラントの掛け合いは相変わらずだが、まめみは早速ハイドラントを持って3人でナワバリに出かけ、その日は存分にハイドラントで暴れたのだった。

その後家に帰ったまめおとまめみだが…

実は変化はもう1つあって…『ドスコイまる』の事である…

まめみ「傷はまだ完治してないけど…だいぶ良くなってきたね。」

まめお「とはいえ…何か急に成長したな…。」

まめみ「うん…それにこの姿は…バクダン…?」

この1ヶ月程で急成長したドスコイまる、大きさこそは最初の頃より少しだけ大きくなった程度だが…その姿はオオモノシャケの一種であるバクダンと、普通のシャケであるドスコイが混ざった様な姿で…。

最近まめみと遊んでいる内に覚えたシャボン玉遊び、ストローで息を吹くと…

ぷくーっ!シャボン玉はクイボ程に膨らんだ。

まめお「これ…バクダンみたいに爆発するのか?」

そう言っていたまめおだが…

薄い緑のシャボン玉がふわふわ浮かび…

パチンッ!まめおの前で割れた。

まめみ「わわっ、薄緑のインクが!」

まめお「ぎゃっ!顔にかかった!」

ドスコイまる「キュッキュッ!」

まめみ「すごーいドスコイまる!本当にバクダンみたい。」

まめお「少しは俺の心配もしろよ…。」

ドスコイまる「キュッ!」

そんなまめおをよそに、まめみとドスコイまるは楽しそうにしているのだった。

次の日…3人はペコと合流してバイトへ。

~海上集落シャケト場~

いつも通り連携しつつも必要以上の金イクラは集めずに終えたが…

迎えの船が来る時にあるトラブルが発生した!

スーパージャンプでまめみ以外の3人が船に戻り、後はまめみだけだったが…!

ガシャン…ザバアァァン!!

バクダン「グアァァァ!!」

モグラ「ギシャアァァ!!」

バクダンとモグラが船の目の前に飛び出し、威嚇して来たのだ!

ポナ「まめみ!」

クマサン『このままでは危ない!やむを得ない…一度引こう!』

ポナ「ダメだ!まだまめみが!」

バクダン「グルルルル…!!」

しかしバクダンとモグラはまだ威嚇して来て…海は大きく揺れている…

クマサンはまめみが心配でたまらなかったが…苦渋の決断で一度引くことにした…。

まめみ「まめお…ペコちゃん…ポナくーん!!」

ポナ「まめみ!まめみぃぃぃぃ!!」

クマサン『済まない…必ず迎えに向かう…待っていてくれたまえ…!』

まめみ「クマサン…うん、分かった…あたし…あたし待ってるからー!!」

ポナ「必ず迎えに来るから…まめみー!!」

そう叫ぶと…船は遠くへと消えた…。

残されたまめみは、1人シャケト場の廃墟の中へ戻って座り込んだ。

夕暮れの陽は徐々に海の向こうへ消えつつあり…辺りは段々と暗くなってきた…。

まめみの脳裏には夜のバイトが思い出された…

グリルの恐怖…

凶暴化したシャケ達のラッシュ…

シャケ達の最終兵器と呼ばれる母艦の出動ハコビヤ…

いつ襲われるか分からない恐怖を抱えつつ、まめみは静かにその場で俯いた…。

そして、ブキを横に置いて首から下げられたペンダントに手を当てた。

『まめみ。』

頭の中ではポナの優しい声が響く…

まめみ「ポナ君…。」

ポタッ…一筋の涙がまめみの頬を伝って零れ落ちた…。

一方ポナも…

ポナ「何で船を出してくれないんだ!!」

まめお「落ち着けポナ!!」

ポナ「落ち着いていられるかよ!まめみが夜にシャケに襲われなんてしたら俺は…!」

船を出せない焦りや苛立ちからポナの口調は荒く、まめおが必死に抑えていた…。

ペコ「クマサン、何とか船を出す事は出来ないの!?」

クマサン『夜は視界が暗く…明かりを灯して近づくとかえって目立ってしまうから危険なんだ…済まない…明け方までの辛抱だ…。』

ペコ「そんな…っ…!」

ポナ「くっ…うぅ……!」

まめお「まめみ…!」

クマサン『彼女の位置センサーはシャケト場から動いて居ない…無事である事には間違いない…。』

ポナ「まめみ…まめみ…!」

その場に項垂れたポナは、拳を握りしめてまめみの無事を強く祈った。

一方…夕陽が沈みきり辺りが暗くなってきたその時…

ペタッ…ペタッ…

何かの足音が聞こえてくる…

まめみ「(シャケ…!?)」

万が一に備えてまめみはスプラシューターを構えた。

ペタッ…

ペタッ…

足音はどんどん近づいてきて、まめみの緊張感はピークに達していた…

そして…

ヌッ…目の前に大きなシャケの影が現れた!

まめみはスプラシューターを目の前に構えたが…!

ヒュドラー「うぉっ!?」

まめみ「あ…あなたは…!」

ヒュドラー「なっ…やけにイカの匂いが強く残ってる気がすると思えば…こんな所で…1人で何やってんだ嬢ちゃん…!?」

まめみ「ヒュ…ドラー…さ…」

ドサッ…

ヒュドラー「お、おい!」

顔見知りのシャケであった安心感もあり、まめみの緊張の糸は一気に切れた…

その結果…まめみはそのまま気を失った…。

ヒュドラーは困った様に頭をヒレで掻いた後…周りを見渡して誰も居ない事を確認すると、そっと彼女を抱き上げた。

そして背中に担ぐと…彼女が海に触れないようにしながらゆっくりと海面を泳ぎ始め…家に向かった…。

次にまめみが目を覚ました時…目の前には木で出来た天井があって…少しだけ生臭い…。

まめみ「…ここ…は…?」

???「あら、目が覚めたみたいよダーリン。」

まめみ「えっ…?」

ふと顔を上げると、そこにはフリルの付いた服を着た…ハート形のピンク色のヒレをした巨大なシャケ…ドスコイの姿が…!

???「ダーリンの目の前で気を失っちゃったみたいね…具合は悪くないかしら…?」

まめみ「あ…あぁぁぁぁ…!」

見慣れないドスコイな上に目の前の状況を飲み込めずに青ざめた顔をするまめみだったが…

奥の方からパイプを咥えたヒュドラーが姿を現した。

ヒュドラー「大丈夫かい、嬢ちゃん。」

まめみ「ヒュドラーさん…!」

???「え?ヒュドラーさん…?」

まめみ「え…彼の名前はヒュドラーさんじゃ…?」

ヒュドラー「……悪いな嬢ちゃん、そいつはあっしの本当の名前じゃねぇ…。」

まめみ「え…?」

ヒュドラー「まず本当の自己紹介といこうか…こいつはあっしの妻のシャケ子だ。」

シャケ子「よろしくね。」

まめみ「あ…よろしくお願いします…。」

シャケ子「それにしてもダーリン…どうしてその名前を…。」

ヒュドラー「まぁ…色々思う所があってな…すぐに本名を教えるよりはと思ったんだ、試すような事して済まなかった。」

まめみ「試す…あたしを…?」

とぐろ「…あっしの本名は…『とぐろ』って言うんだ。」

まめみ「とぐろ…さん…。じゃあ…ヒュドラーっていうのは…?」

とぐろ「ヒュドラーは…あっしの「死んだ姉の名前」だ。」

まめみ「お姉…さん…。」

とぐろ「ガキの頃…あっしと姉貴はあるイカに優しくされた思い出がある…だからさ、イカとは友達になれる…そんな事思ってたんだよ。」

まめみ「そう…なの…?」

とぐろ「あぁ。…成長するにつれてその考えは薄れていった…けど、姉貴だけは信じて疑わなかったんだよな……その結果…マナーの悪いイカに殺されちまったんだよ…。」

まめみ「そん…な…!」

シャケ子「ヒュドラーさんはとても優しくて良いシャケだったわ…。けどあの日…倒されて金イクラを回収され…そのままナイフでお腹を……。」

とぐろ「…まだ金イクラを隠し持ってるんじゃないかって…腹を切り割かれたんだ…。」

まめみ「酷…い…そんな…あんまりだよ…!」

作業着を握りしめてガタガタと震えるまめみに、シャケ子が優しく背中を撫でた…。

とぐろ「…もう絶対にイカとは友達になれない…そう思ってた。けど…お前さんの瞳…似てるんだよ…ガキの頃に優しくしてくれたイカの瞳に…そして…姉貴が死に際に言い残した言葉に…。」

まめみ「言葉…?」

とぐろ「『全てのイカがそうではない…必ず分かり合えるイカがいるはず…だから信じ続けて…』と…。」

まめみ「…………!」

シャケ子「私達シャケの一族の中には、イカを嫌う者もいるわ…でもそれも理由があって…一部の心ないイカに傷つけられてしまったからなの…。」

とぐろ「だからといって、根絶やしにしようと船を襲う事はさすがにどうかと思うけどな…。」

まめみ「船…もしかしてあの時のバクダンとモグラは…!?」

とぐろ「あぁ…その一派だ。あっしはあの時に遠くからあいつらが船を襲ってるのが見えた…。その後…いやにイカの匂いが強く残ってるのが気になってな…まさかと思って見に来たらお前さんが居たんだ。」

まめみ「そうだったのね…でも…あたしを助けてくれたのね…ありがとう…とぐろさん…シャケ子さん…。」

シャケ子「こちらこそ、この間ダーリンの怪我の手当をしてくれたでしょう?ありがとう。」

まめみ「あ…とぐろさん怪我は!?」

とぐろ「おかげさんでな、この通り今はすっかり治ってるぜ。」

まめみ「よかった…!」

安堵して優しく笑うまめみの姿を見て、とぐろはパイプを咥えたまま深く息を吸い…深く吐いた。

そして泡がプクプクとパイプから浮かんでいくのを眺めた後…まめみの顔を見て口を開いた。

とぐろ「お前さんはやっぱり変わってるな…嬢ちゃん……いや『まめみ』…こう呼べばいいのか?」

まめみ「とぐろさん…!」

自分の名前を呼んでくれた事にまめみは嬉しくなり、顔はパアァッと明るくなった。

シャケ子「あら、まめみちゃんって言うのね。可愛いお名前だわ~!」

まめみ「ありがとうシャケ子さん、シャケ子さんも可愛い!」

そう言うとまめみは起き上がってシャケ子に飛びついた。

シャケ子「うふふ、可愛いわね~まめみちゃん!」

とぐろ「やれやれ…すっかり馴染んじまったな…。」

そんな事を言いつつも、とぐろの口元も優しく笑っていた…。

To be continued…