小説「緑風と桃花は愛を紡ぐ(共存編)」~隻眼のバクダン~

とぐろの姉ヒュドラーの話を打ち明けられ…その後すっかり打ち解けた両者、するとシャケ子が口を開いた。

シャケ子「そういえばまめみちゃん、お迎えの船はいつ頃来るのかしら…?」

まめみ「分からないの…必ず迎えに来るって言ってたけど…。」

とぐろ「少なくとも…夜には来ねぇな…船の灯りがこの辺を通れば気づかれちまう。」

まめみ「そうなのね…。」

シャケ子「元気を出してまめみちゃん、今夜はここで泊まっていってちょうだい。」

まめみ「シャケ子さん…。」

とぐろ「みんなもう寝てるからな、気づかれる事もないだろう。」

まめみ「とぐろさん…ありがとう、一晩お世話になります。」

シャケ子「そうと決まれば早速ご飯の準備をしないとね。」

まめみ「あ、私も手伝うよ。」

シャケ子「ありがとうまめみちゃん。」

幸いシャケとイカの食文化は似ているようで…まめみが食べ慣れている食材ばかりだった。

テーブルを囲って3人での食事も弾み、後片付けをして寝ようと準備していたその時!

バンバンッ!!

とぐろ「誰だ…こんな時間に…?」

すると…外から声が聞こえてきた。

「開けろ!聞きたい事がある!」

シャケ子「あの声は…!」

まめみ「ど…どうしたの…!?」

とぐろ「あの声の主はバクダン、まめみの仲間の船を襲ったあいつだ。」

まめみ「あのバクダンが…まさかあたしを…?」

とぐろ「可能性は高い…とにかく奥の部屋へ…シャケ子、クローゼットにまめみを。」

シャケ子「分かったわダーリン、まめみちゃんこっちへ!」

まめみ「うん…!」

シャケ子はまめみを奥の部屋へ連れて行き、大きなクローゼットの扉を開けてまめみを入れた。

シャケ子「私達がここを開けるまで、絶対に出ちゃダメよ。」

まめみ「うん、分かった…。」

パタン…クローゼットの扉を閉めるとシャケ子は玄関の方へ…

シャケ子「大丈夫よダーリン。」

とぐろ「よし、開けるぞ。」

ガチャッ…キィィ…

鍵を外して扉を開けると…そこには大きなバクダンの『ペルファング』が居た…

右目は大きな傷があり、視力は失っている…かつてマナーの悪いイカに付けられたものだ。

ペルファング「開けるのが随分と遅かったな…。」

とぐろ「悪いな…もう寝かけてたからさ。」

シャケ子「こんな時間に何の御用です?」

ペルファング「何やらイカの匂いが強い気がしてな…まさかとは思うが…匿っていたりしないよな?」

とぐろ「まさか…何の意味があってあっしらがイカなんて匿わなきゃいけないんだ?」

シャケ子「そうですよ、おかしな事言わないで下さいな…さ、御用が済んだならお引き取り下さ…」

とぐろとシャケ子が追い返そうとしたその時!

ペルファング「ん!?」

突然ペルファングが左目を見開き、顔をキョロキョロさせてシャケ子の匂いを嗅ぎ始めた。

シャケ子「な、何ですか!」

とぐろ「おいおい、人のカミさんの匂いをそんなに嗅ぐモンじゃねぇと思うぞ。」

ペルファング「イカの匂いが強い…どういう事だ!?」

シャケ子「!!」

とぐろ「!?(しまった…さっきまめみを抱きしめたから…!)」

ペルファング「調べさせてもらうぞ!」

そう言うとペルファングは無理矢理押し入ってまめみを捜し始めた!

とぐろ「お、おい!」

シャケ子「ちょっと…やめて下さいな!」

しかし2人の制止も虚しく、ペルファングは嗅覚を駆使してまめみを捜し続ける…。

そして…ついに奥の部屋のクローゼットの前に!

ペルファング「ん…ここら辺の匂いが強いな!」

まめみ「(…………………!!)」

鼻息荒いペルファングの声が響き、クローゼットの中のまめみは必死に口を押さえて身を縮こませていた…。

ペルファング「ここを調べるか。」

そう言ってペルファングはクローゼットの取っ手にヒレを掛けた。

まめみ「(もうダメ…!!)」

ぎゅっと目を瞑ってまめみがそう思ったその時!

シャケ子「きゃあぁぁぁ!そこは見ちゃダメです!」

とぐろ「!?」

ペルファング「な…何だ…!?」

シャケ子「そこは…わ…私の服がしまってある大事なクローゼットなんです!」

ペルファング「な…何と!」

そう話すシャケ子の瞳はうるうるしていて…頬を赤らめるその姿にペルファングもたじろいでしまう…。

シャケ子「女性のプライベートな部分がしまわれた所を開ける殿方なんて最低ですよ!」

そう言ってシャケ子は傍にあったピンクのフライパンを持ってペルファングを叩き始めた!

ペルファング「わっ…分かった!見ない…見ないから…!!」

ダメージは無いがシャケ子の勢いに負け、ペルファングはクローゼットから離れた…。

とぐろ「…イカの匂いが強いのは…あっしが帰ってすぐに風呂にも入らずにシャケ子と抱き合ったのが原因じゃないかと思う…。」

ペルファング「な…何だと…?」

とぐろ「お前さんの勢いが強くて今の今まで言えなくてな…とにかくそういう事だ、イカなんて居やしねぇ…。」

まめみ「(とぐろさん…シャケ子さん…!!)」

ペルファング「………そうか…ならば引こう…済まない…邪魔をしたな…。」

まだ腑に落ちない様子のペルファングだったが、すごすごと引き返して帰って行った…。

シャケ子「もう大丈夫よ、まめみちゃん。」

ギィィ…パタン…

まめみ「怖…かった…。」

シャケ子「ごめんなさいね…。」

そう言うとシャケ子はまめみを優しく抱きしめた。

とぐろ「しかし…あいつが嗅ぎ付けて来るくらいなら…一晩待つのは危険そうだな…。」

シャケ子「そうね…どうしましょうダーリン…。」

とぐろ「あと1時間もしたら深夜…あっしらシャケはとっくに眠ってる…そしたらここを出て…まめみ、お前さんを仲間の所へ送って行こう。」

まめみ「とぐろさん…。」

とぐろ「次の遡上は明後日だ、あっしは帰ればゆっくり休める…お前さんをこれ以上危険な目に遇わせられないからな…。」

シャケ子「私も一緒に行くわ、だから任せてちょうだい。」

まめみ「2人共…ありがとう。」

自分を守ろうとする気持ちにまめみはただただ感謝の気持ちでいっぱいだった。

そして1時間後…

念の為シャケ子の服でまめみを隠し、彼女の背中に乗せて2匹はゆっくりと海を泳ぎ始めた。

シャケ子「大丈夫、まめみちゃん?」

まめみ「うん、大丈夫。」

とぐろ「あっしらのスピードだと、30分くらいで着きそうだな…それまでの辛抱だ。行くぞシャケ子、まめみ。」

シャケ子「えぇ。」

まめみ「うん。」

とぐろは少し早く泳いで周りの様子を伺い、シャケ子はなるべく体を揺らさない様に気をつけながら泳いだ。

その頃…

ポナ「………ん……っ………。」

ふと目を覚ましたポナ、辺りを見回すと真っ暗で…外からは月の光が差していて…疲れからいつの間にか寝ていたようだ。

傍ではまめおとペコも同じく疲れ果てて寝てしまっていて…ポナは2人を起こさない様にそっと離れて窓から外の海を眺めた…。

クマサン『…目が覚めたかい…?』

ポナ「…うん…まだ深夜なんだね…。」

クマサン『…まだ1時を過ぎた所だよ…。』

ポナ「…まめみ…。」

いつも以上に時間が長く感じる…ポナはそう思いながら…ペンダントに手を当てた…。

クマサン『夜明けまでまだ長い…もう少し休んでおいで…。』

ポナ「いや、もう起きてるよ…。」

そう言ってポナは外へ…そして海を眺め始めた。

どこまでも続く穢れた海は…光1つ灯っていない…。

早く夜が明けてくれ…そう願うポナだったが…

しばらくして…

ブー!!ブー!!

クマサン商会の警報器が鳴り響き、ポナは驚いて中へ戻り、まめおとペコも驚いて飛び起きた!

まめお「な、何だ!?」

ペコ「何が起きたの!?」

ポナ「クマサン、これは!?」

クマサン『シャケだ…シャケがこの付近に来ている…!』

ポナ「えっ…!?」

クマサン『どんどん近づいて来る…2匹だが…内1匹はオオモノシャケだ…!』

まめお「オオモノシャケ…!?」

ペコ「どうすれば…!」

ポナ「2人共ブキを持って、俺が先に外に出る!」

まめお「お、おいポナ!」

ペコ「待ってポナ!」

2人の制止も聞かずに、ポナはブキを持って単身外へ飛び出した。

その後2人もブキを持って追いかけて行くと…遠くから2匹のシャケが泳いでくる姿が見えた…。

1匹はヘビ、もう1匹はドスコイの様だが、背中に何かを乗せている。

一方とぐろ達もまめお達に気づいた。

とぐろ「お、仲間が見つけたみたいだな。」

まめみ「まめお、ペコちゃん、ポナ君…!」

とぐろ「ブキを構えて警戒してる…まめみ、あっしの方に移ってシャケ子はここで待っててくれ。」

シャケ子「分かったわ。それじゃあまたね、まめみちゃん。」

まめみ「シャケ子さん、本当にありがとう…またね。」

シャケ子にお礼を言うとまめみは服をシャケ子に返してとぐろの背中に移り、とぐろはゆっくりとまめお達の元へ近づいた。

まめお「まめみ…!」

ペコ「ヘビの背中に乗ってるわ…!」

ポナ「あのヘビ…あの時の…!」

3人がブキを構えたまま近づくのを待っていると…とぐろが目の前まで来て口を開いた。

とぐろ「まめみを送りに来たぜ。」

そう言うと、とぐろは岸の所へ行き…まめみは彼の背中からそっと降りた。

まめみ「ポナ君…みんな…!」

ポナ「まめみ!」

ペコ「無事で良かったわ…まめみ…!」

まめお「まめみ…本当によかった…!」

みんながまめみを抱きしめて再会を喜んだ。

とぐろ「それじゃあ、あっしは帰るぜ。」

まめみ「ありがとう、とぐろさん。」

とぐろ「礼には及ばないさ、じゃあな。」

そう言うと、とぐろは大きなヒレをひらひらと振ってからシャケ子の元へ戻り…2匹は海の中へ消えて言った…。

ポナ「とぐろさん…?まめみ…あいつは一体…。」

まめみ「……………。」

ポナ「……まめみ…?」

まめみ「……帰ったら話す…全部話すよ…。」

自分の胸の中で話すまめみの声は少し震えていて…ポナは何も言わずに彼女を抱きしめる腕の力を強めた。

To be continued…