小説 「幼き記憶とダイオウイカ」 ~明かされた過去と蘇る恐怖~

スルメさん「……ボクは若い頃、よっちゃんとチームを組んで…日々ナワバリバトルに明け暮れていたんや。」

よっちゃん「スルメさん凄く強かったの…「黄緑の韋駄天(いだてん)」と呼ばれていて、敵を翻弄して倒していたわ…ほとんど負けなかったのよ。」

まめお「スルメさんが…!」

まめみ「………!」

スルメさん「……けどな、ボクはある日…とんでもない過ちを犯したんや…。」

まめみ「…過ち?」

スルメさん「……薄暗くなった夕方だった…本来ならナワバリバトルは認められない時間なのにボクとよっちゃんは、まだ戦いたい気持ちが高ぶって…2人でバトルを始めてしまったんや。」

まめお「薄暗い夕方…。」

よっちゃん「……場所はBバスパーク。」

まめみ「………!」

ドクン…!

2人の鼓動が早くなる…。

蘇る…幼き頃の嫌な記憶…。スルメさんは2人の様子を見つつ、もう一度深呼吸をして話を続けた。

スルメさん「……ボクはダイオウイカになったけど、その時…2人の幼い子供が居たんや。」

まめお「……そ…んな…嘘…だろ…!?」

スルメさん「……ボクは気づいてとっさに避けた…けれど遅かった…。」

まめみ「あ…あぁ…!」

スルメさん「ボクの触手が1人の子供の背中に当たってしもうたんや…。ボクは焦って引き返してきたけれど…。」

よっちゃん「…私がスルメさんが暴走したと勘違いして、わかばシューターで止めてしまったの…その直後に気を失って…。」

スルメさん「病院まで連れて行ったんやけど…後日謝ろうと思って病院を訪れたら…既に退院してて居なかったんや…。」

まめお「……あの時…俺達を襲ったダイオウイカ…スルメさん…だった…のか…!?」

まめみ「あ…ぁ…あぁぁぁぁ…!」

スルメさん「……ボクはあれ以来ナワバリバトルから身を引き…ヒトに変身する事を止めたんや。…どうしても謝りたくて、ずっと探してた……まさか…まめおとまめみがあの時の子供だったなんて…。」

まめお「…スルメさん…俺は…俺達は…!」

そう言ったまめおだったが…。

まめみ「い…や…嫌…!」

まめお「まめみ…!」

まめみ「いやぁぁぁぁ!」

錯乱状態になったまめみは泣き叫んでいる…。

よっちゃん「まめみちゃん、落ち着いて…」

そう言ってまめみを落ち着かせようとゲソを近づけたよっちゃんだったが…

バシッ!

まめみ「いやぁぁぁ…来ないで…!」

よっちゃんのゲソを振り払い…青ざめた顔で涙をボロボロ流すまめみの瞳は、恐怖の感情が籠っていた…。

よっちゃん「…まめみちゃん…。」

スルメさん「……無理もない…。こんな残酷な話をされたんやから…。」

まめお「…………。」

まめみ「……ひっく…ひっく…!」

まめお「…まめみ。」

まめみ「ひっぐ…ひっく…まめお…まめおぉ…!」

嗚咽を漏らすまめみは、まめおに強くしがみついて酷く震えていた…。

まめお「……スルメさん、よっちゃん…今日は帰るよ…。」

よっちゃん「まめお君…。」

スルメさん「……そうやな…まめみをゆっくり休ませな……2人共…ホンマに済まなかった……。」

まめお「…………。」

何も答えず、まめおは脱いだ服を着て…まめみを抱きかかえて店を後にした…。

よっちゃん「……もう…私達の所へはきっと来ないわね…。」

スルメさん「…ボクらがここにいても2人は辛い思いをするだけや。…店を畳んで別の所へ引っ越す準備をするかいな…よっちゃん…。」

よっちゃん「…そうね…スルメさん…。」

スルメさん「(まめお…まめみ…ボクは…)」

2人が去った扉の方向を見るスルメさんの瞳は悲しげだった…。

一方…まめおはずっとまめみの傍を離れずにいた…。

まめみ「まめお…まめお…!」

まめお「大丈夫だ…俺がついてる…!」

まめみ「ずっとこうしてて…お願い…まめお…!」

まめお「…まめみ…!」

怯えるまめみの手をギュッと握って、2人はお互いを強く抱きしめ合った。

まめみ「すー…すー…。」

隣で眠るまめみの頭を優しく撫でると、まめおは起き上がって台所へ向かった

水を一杯飲んで戻ってくると…

ハイドラント「(小僧。)」

まめお「………何だよ。」

ハイドラントが声を掛けてきて、まめおは明らかに不機嫌な声でそれを返した。

ハイドラント「(パブロから話は聞いたぞ……お前が居ながらまめみに危険な目に遭わせるとは…!)」

まめお「……言いたい事はそれだけかよ。」

ハイドラント「(何?)」

まめお「…悪いけど、疲れてるんだ。小言は後で聞く。」

ハイドラント「(……逃げているのか?)」

まめお「…………何だと?」

ハイドラント「(過去の話をされ…その真実を聞かされ…謝罪も受け入れず…今も受け入れずに逃げているのか…小僧よ。)」

まめお「………うるせぇ!何が分かるんだよ!!」

ガンッ!

そう叫んで壁を殴ると、静かな空間に大きな音が響いた。

ハイドラント「(……小僧よ、辛い気持ちは分かる。だがそれをいつかは乗り越えねばならぬ、それは誰にも出来ない…小僧とまめみが…己自身が乗り越えねばならない壁なのだ。)」

まめお「…………。」

ハイドラント「(それが出来ないお前達ではないだろう……まめみをしっかり守るんだぞ…まめお。)」

まめお「今、俺の名前…!」

ハイドラント「(……………。)」

眠ってしまったのか?…その後、ハイドラントから返事が帰って来る事は無かった。

まめおは割れたガラスの破片を片付け応急処置をして、まめみの眠るベッドへ戻り彼女を抱きしめて眠りについた。

To be continued…