オリジナル小説「記憶無き王女」

ガーリルによって引き裂かれてしまったブルース達。

絶望の中彼が残していった手紙を読み、マリンは託された

希望を護る為、娘アクアの記憶を封印する事を決意する…。

 

~記憶無き王女~

 

スノウ「準備はいいか?始めるぞ。」

マリン「いつでも大丈夫よ。」

スノウが手から暖かい光を出し、眠っているアクアのおでこに触れると…体を光が優しく包み込み吸い込まれるように消えていった。

スノウ「アクアは深い眠りについた。これで体に負担がかからず記憶を封印することが出来る。」

マリン「ありがとうスノウ。それじゃ始めるわ。我が先祖ザフィーアよ…今ここに娘アクアの記憶を封印する、時が来たら封印は自然に解け記憶が蘇るものとする!

するとアクアの頭上に水で出来た鎖が現れ、アクアの頭の中へ入って消えていった。

スノウが指をパチンと鳴らすと、アクアの体から光が逃げ出して彼の元へ戻っていった。

スノウ「これで終わりだ。しばらくしたら目を覚ます。」

マリン「本当にありがとうスノウ。」

スノウ「お前も疲れただろうマリン、アクアと一緒に少し休め。」

マリン「えぇ、そうさせてもらうわ。」

スノウはマリンが眠った後そっと部屋を出て、朝日が昇りだした空を見上げながらガーリルの身を案じる彼の顔はとても寂しげだった…。

スノウ「この辛さはいつまで続くんだろうな…ガーリル…。」

それから月日は流れ…

アクア「ネグロ一族の国へお遣い、行って来ます。」

マリン「気を付けてね。」

アクア「はい。」

長い髪をなびかせてネグロ一族の国へ向かって行ったアクアを、母マリンとスノウは優しい笑みを浮かべながら見ていた。

マリン「あの日から65年…こんなに長い年月が経ってしまったのね…。」

スノウ「少しでも手がかりがあればと捜しているが、今だに何の情報も掴めない…それにしてもラクトは一体何を見つけたんだ?要情報だからアクアに来てもらいたいとしか言わずに…。」

マリン「ラクトと言えば、息子のスマラも大きくなったでしょうね。」

スノウ「立派な青年に成長したと聞いたが、最近は王宮騎士をしているらしい。」

マリン「スマラは王子よ、ラクトの正統な後継者のはずなのに…どうしてそんな事を?」

スノウ「呪いが解けるまでは自身を後継者とは認めず、周りにも明らかにしないというスマラの強い意志を尊重しているとラクトは言っていた。」

マリン「そうだったのね、彼の呪いも手がかりが無いまま…早く呪いを解く方が見つかればいいのだけど…。」

スノウ「そうだな…。あ…そういえばアクアは一度もスマラに会った事が無いから、もしかしたら今日会えるかもしれないな。」

アクアがネグロ一族の国へ着くと、ラクトが王座の前を右へ左へと落ち着き無く動いていた。

王宮騎士「ラクト様、アクア様がおいでになられました。」

ラクト「お通ししてくれ。」

アクア「お久しぶりですラクト様、ルーエ一族より遣いに参りました。」

ラクト「そんなにかしこまるなアクア、いつもの様にして欲しい…幼い頃から見てきた私にとってお前は娘同然だよ。」

アクア「ありがとう、ラクトおじさま。」

ラクト「すまなかったな、急に来てもらって…せっかく来てくれたんだ、まずはお茶を一緒にいかがかな?」

アクア「喜んで。」

ラクト「今日は私が用意しよう、少し待っていてくれ。」

そう言ってラクトは部屋を出て行き、アクアは席を立って窓から外を眺めた。

雲一つ無い快晴に、光を浴びた海がキラキラと輝いていて美しく…潮風が優しく頬を撫で、アクアの髪は波の様になびいている。

カチャッ

扉の開く音が聞こえ、誰かが部屋に入ってきた…ラクトかと思い振り向いた先には、見知らぬ青年が…

アクア「貴方は…?」

どこかラクトに似ている凛々しい顔立ち…左目は透き通るような蒼に対して右目は血の様な紅、銀に輝く髪は光を浴びてキラキラと輝いていて、まるで自分の心の中まで見透かされている様な不思議な気分になる

スマラ「…初めまして、ネグロ王宮騎士隊長のスマラです…どうぞお見知りおきを。」

アクア「アクア・ディールです。宜しくお願いします。」

スマラ「では、お近づきの印に…。」

そう言うとスマラは真っ赤な薔薇の花束をアクアにプレゼントした。薔薇は太陽の日差しを浴びて更に赤く輝いた。

アクア「まぁ、綺麗な薔薇…ありがとう!」

スマラ「喜んでいただけて何よりです!」

2人が楽しそうに会話をしていると、準備を終えたラクトが戻ってきた。

ラクト「スマラ、来ていたのか。」

スマラ「頼まれていた物をお持ち致しました。」

ラクト「ご苦労であった。」

スマラ「では私はこれで…アクア様、ごゆるりと。」

そういうとスマラは微笑んで部屋を出て行き、アクアは頬を赤らめうっとりした表情でスマラを見送っていた。

ラクト「アクア、お茶にしようか。」

アクア「……………。」

ラクト「(惚れてしまったようだな)アクア?」

アクア「あっ、はい!ごめんなさい。」

2人でお茶をしながら昔話などに華を咲かせた後、ラクトは手紙を差し出した。

ラクト「これをスノウに届けて欲しいんだ、頼んだよ。」

アクア「えぇ、任せて。」

託された手紙を持ってアクアはスノウの元へと戻る為、帰って行った。

~To be continued…~