マホロア達が見ているとも知らず、カワサキのスイーツを堪能したアイシェとドロッチェは、お店を後にして再び歩き出した。
これまでも紳士の振るまいがあったドロッチェだが、歩く時もアイシェの速度に合わせてくれる等、彼の長年の経験が生きていて…
少し歩いて行くと、大きな木の下でドロッチェが足を止めた。
アイシェ「ドロッチェ、どうしたの?」
ドロッチェ「弱きを助け、強きを挫く…オレの好きな言葉だ。」
アイシェ「うん。」
生前、ゲーム中にそう言っていたと思いながらアイシェが返事をすると、今度はアイシェの方を向いて話し始めた。
ドロッチェ「オレは今までたくさんのお宝を見つけてきた…そして、ここで新たなお宝を見つけた。」
アイシェ「ふふっ、どんなお宝を見つけたの?」
穏やかな笑みを浮かべてドロッチェを見るアイシェだが…ドロッチェの赤い瞳は真剣で…
ドロッチェ「オレのお宝…それは君だ、アイシェ。」
アイシェ「えっ…?」
フワッ…少し強い春風が吹いて草むらは揺れて花弁が舞い…アイシェの髪も優しくなびいた。
ドロッチェ「君があの魔術師と恋仲なのは知っている、だがそれで諦めるオレじゃない。」
アイシェ「ドロッチェ…私は…。」
ドロッチェ「オレは本気だ。」
アイシェ「……………!!」
言葉通り、彼の赤い瞳は真剣そのもので…アイシェの青い瞳は驚きと戸惑いで揺れた…
するとドロッチェはアイシェの耳元に顔を近づけて…
ドロッチェ「オレは狙った獲物は逃がさない…君を振り向かせてみせるさ。」
囁くドロッチェの低い声…風に乗って漂ってくる彼の香水の匂い…
自分にはマホロアしかいない…なのに、彼の気持ちがとても刺さってきて…アイシェは何とも言えない気持ちになってしまった。
アイシェ「……………。」
頬は真っ赤に染まり、俯いてドレスをぎゅっと握るアイシェにドロッチェは目を細めて…
ドロッチェ「前向きな返事を待っている、アイシェ。」
そう言うと、ドロッチェはアイシェの手を優しく取り…ちゅっとキスを落とした。
一方でそれを見ていたマホロア達は…
マホロア「…キルニードルがイイカナァ…それともブラックホールの方がイイカナ?」
マルク「落ち着くのサ、殺った瞬間にお前は全宇宙のお尋ね者なのサ!」
マホロア「あのキザなネズミは何なんダヨォ!?」
マルク「ヤベーなアイツ、このままじゃさすがのアイシェもアイツに落ちそうなのサ!」
タランザ「マホロアと違って紳士だし、女性の扱いに慣れてるのね!」
マホロア「一言余計ダヨ!」
タランザ「(アイシェ、あの男のペースに飲まれてるの…あのままじゃ心配なのね…!)」
3人が見ている先で、ドロッチェはアイシェの髪を愛おしそうに触り…
ドロッチェ「今日はこれで終わりだ…そのうち君に贈り物をさせてもらうよ、また会おうアイシェ。」
そう言ってアイシェの髪にキスをして、ドロッチェはマントを翻し…
アイシェ「ドロッチェ…!」
彼の名を呼んだアイシェだが、もう既にドロッチェの姿は無く…
チリン…彼が首元に付けていた鈴の音が優しく響いた。
マホロア「……………。」
マルク「お、おいマホロア!」
タランザ「待つのね!」
2人の制止を無視して、マホロアは無言でアイシェの元へ近づき…一方のアイシェもマホロアに気づいて
アイシェ「マホロア…マルクとタランザまで…。」
マホロア「アイシェ…。」
アイシェ「………………。」
ぎゅっ…何も言わずにアイシェはマホロアにそっと抱きついて胸に顔を埋め、マホロアも何も言わずにアイシェを抱きしめた。
タランザ「アイシェ、あの男の雰囲気に…」
彼女の様子を心配したタランザが声をかけたが…マホロアがスッと手を向けて…
マホロア「タランザ、アイシェを休ませてあげたいカラ今日はゴメン。」
タランザ「…分かったのね。」
そのまま2人と別れ、ローアに帰ったマホロアとアイシェはお互いに無言だったが、沈黙を破ったのはアイシェだった。
アイシェ「…お風呂に入ってくるね。」
そう言い残して、パタパタと走って行ってしまい…
マホロア「アイシェ…。」
小さく彼女の名前を呼んだマホロアの黄色い瞳は、悲しそうに揺れていた…。
アイシェ「……はぁ…。」
シャワーを浴びながら髪や体を洗い、湯船にゆっくりと浸かると…アイシェは溜息を吐いた。
愛しているのはマホロアだけなのに、ドロッチェの赤い瞳が離れなくて…
心はぎゅっと握られている様に苦しくて…アイシェの頬を伝って涙が零れ落ちて湯船に消えて行く
マホロアしか愛していないのに、どうしてこんなに胸が苦しいの…?
自分の心に問いかけても、それが帰ってくる事は無かった。
その後お風呂から上がると、マホロアがソファで眠っていて…
マホロア「スゥ…スゥ…。」
珍しくベッド以外でぐっすりと眠る彼の姿を見つつ、アイシェは起こさない様にそっと彼の懐に潜り込んだ。
アイシェ「(マホロア…。)」
いつもと同じマホロアの温もり…
彼からはお日様の香りや、時々研究の影響で薬品の香りがする時もあるが…アイシェはそれをとても心地良く感じていた。
マホロア「ン…アイシェ…スゥ…スゥ…。」
寝言で愛しい人の名前を呼んでいるマホロアに、アイシェは青い瞳を静かに閉じてキスをした。
アイシェ「マホロア、愛してる……ずっと私を離さないで…貴方の傍に居させて。」
溢れ出る気持ちを正直に口にしながら、アイシェは再び涙を流してマホロアの胸に顔を埋め…彼の鼓動と温もりに安心して、いつの間にか夢の世界へ旅立った。
しばらくしてマホロアが目を覚ますとアイシェが自分の腕の中で眠っていて、閉じられた睫毛が濡れているのを見て泣いていたんだと気づいた。
マホロア「愛するアイシェ…何があってもボクはキミを離さないヨ。」
そう呟いておでこにキスをすると、マホロアは眠るアイシェを抱き上げると自分の部屋へ向かい、ベッドに寝かせると抱き寄せて再び眠りについた。
To be continued…