2人はしばらく無言だったが、沈黙を破ったのはアイシェだった。
アイシェ「タランザ…私…ずるいよね…。」
タランザ「アイシェ?」
アイシェ「…マホロアが大好きでに嫌われたくないのに…ドロッチェの事が気になるの…。」
タランザ「…アイシェ、マホロアとドロッチェを思い浮かべて、より強く思い浮かぶのはどっちなのね?」
アイシェ「…マホロア。」
タランザ「アイシェは、マホロアの事をどれくらい知ってるのね?」
アイシェ「マホロアは…イタズラ好きで時々嘘を吐くの…でもあの時みたいな酷い嘘は吐いてなくて…本当は優しくて寂しがり屋で…ちょっと強引な時もあるけど…いつも私を心配して愛してくれて…。」
ポタッ…ポタッ…
アイシェの青い瞳から涙が零れ落ち、タランザが手で優しく拭うと頭を撫でて口を開いた。
タランザ「答えは出てるのね、アイシェ。」
アイシェ「えっ…?」
タランザ「マホロアの話でそれだけ出てくるのは、彼しかいないって事なのね。」
アイシェ「タランザ…。」
タランザ「アイシェ、ドロッチェはかなりの紳士なのね?」
アイシェ「うん…仕草も大人で落ち着いてて…彼の香水もいい香りで…ドキドキしちゃう…。」
タランザ「それが紳士の良い所と同時に、アイシェみたいに純粋な子にとっては怖い所でもあるのね。」
アイシェ「怖い所…?」
タランザ「紳士は女性に対する扱いが慣れてるの、だから自然にああいう事が出来るけど…メタナイトはどうなのね?」
アイシェ「メタさんも紳士だよ、でもこんなに苦しくなる程のドキドキは無かった…。」
タランザ「会ったばかりで、いきなりあんな事をされた戸惑いもあると思うのね…マホロアには無い魅力が彼にはある…けどそれを逆手に取って、アイシェを誘惑している気があるのね。」
アイシェ「ドロッチェの紳士な振る舞いにドキドキしてどうしたらいいのか分からなくて…でもマホロアに心配をかけたくない………ドロッチェは素敵だよ、でも恋人になるのはあり得ない…。」
タランザ「アイシェ、自分ではっきりとドロッチェへの気持ちが分かってるのね。」
アイシェ「あっ……!」
タランザ「アイシェはあそこまでの紳士を見た事が無いから、戸惑ってしまったのね。」
アイシェ「私がドロッチェに抱いていた気持ちは恋じゃなくて、紳士で大人な振る舞いをする彼への憧れだったのね。」
ようやく胸のつかえが取れて、スッキリした表情のアイシェを見て、タランザも安堵の表情を見せた。
タランザ「大丈夫そうなのね。」
アイシェ「うん…3日後にドロッチェが別の星へ旅立ってしまうから、その時にお返事をする約束なの…でも答えは決まってるから、もう迷わない。」
タランザ「よかったのね。」
アイシェ「ありがとう、タランザ。」
タランザ「どういたしましてなのね。」
アイシェ「帰らなきゃ、マホロアに黙って部屋の窓からこっそり出てきちゃったから…。」
タランザ「それは大変なの、急いで送って行くのね!」
そう言うとタランザはアイシェを再び抱き抱えて飛んで行った。
同じ頃…
マホロア「アイシェ~入るヨォ?」
お風呂から上がり、アップルティーを淹れたマホロアがアイシェの部屋へ向かったが…中から鍵がかかっていた。
アイシェ『…うん、少しお休みするね…。』
あの時、顔色も悪かったし悪化していたら大変だ…
ガチャッ…心配するマホロアは悪いと思いつつも、魔法で鍵を開けて入ってしまった。
しかし部屋は真っ暗で、電気を付けたがアイシェの姿は無く窓が開いていて…シーツを結んで降りた形跡があった!
マホロア「アイシェ、窓から外へ出たノ!?」
驚きつつ魔法で浮かべていたアップルティーを一旦テーブルに置いたマホロアだが、飾られている薔薇の花束の間から見える白いカードの様な物が目に入ったので、そっと抜いて見てみると…
愛しのアイシェへ
今夜7時、この前の大きな木の下に、あのドレスで来て欲しい。
ドロッチェ
読んだマホロアは、アイシェがドロッチェに会いに行ったと確信した。
アイシェ『何も隠してないよ…。』
彼女があの時に手を後ろに回していたのも、このカードを自分に見つからない様に隠していたからだ…そう思ったマホロアの黄色い瞳はギラギラと光り…
マホロア「…アイシェにはお仕置きが必要ダネェ。」
そう言うと、マホロアは再び部屋の電気を消して静かに目を閉じ…アイシェの帰りを待った。
しばらくして…
タランザ「着いたのね。」
アイシェ「ありがとうタランザ。」
タランザ「どういたしましてなのね、マホロアに見つからない内に早く着替えた方がいいのね。」
アイシェ「うん、そうする。タランザ、帰り気をつけてね。」
タランザ「ありがとうなのね。」
そう言うとタランザはフロラルドへ帰って行き、アイシェはベッドにガラス細工を置くと、結んでいたシーツを解いて床に置き、枕元のランプをつけようとしたその時…
マホロア「ドコ行ってたんダイ、アイシェ?」
突然背後から聞こえたマホロアの声に驚いて振り返ると、そこには黄色い瞳だけが光っていて…
アイシェ「きゃあぁ!!」
アイシェは驚きのあまり腰を抜かしてそのまま座り込んでしまい…マホロアはベッドの傍にあるランプの明かりをつけると、ゆっくりと近づいて来た。
マホロア「部屋に行っタラ鍵はかかってるシ、入ってもアイシェは居なくてびっくりしたヨォ~まさか窓から出て行っちゃうなんテ…帰りはタランザに送ってもらったんだネェ?」
拍手をしながら黄色い瞳を弓なりに細めて笑うマホロアに対して、アイシェの顔は青ざめていて…
アイシェ「マホ…ロア…!」
震える声で、絞り出すようにマホロアの名前を口にすると…薄暗い中で黄色い瞳を光らせながら迫って来て…
マホロア「嘘を吐いテ、コ〜ンナ夜遅くに出かけて男と会うアイシェには、お仕置きダヨ。」
そう言うとマホロアはマフラーを下げるとアイシェの両手首を掴み、その場に押し倒してキスをした。
To be continued…